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八十六話 因縁の決着

 ブレアとベラの闘いは終始、ブレアが制していた。

 周囲一帯が白氷で覆われているのは、ブレアにとって圧倒的優位な状況であるからだ。

 足元の白氷を自在に操り、高速で滑って移動するブレアに対し、足元が滑り迂闊に動けずにいるベラは苦戦を強いられている。


「おらおらぁ!! どうした、ベラァ!?」


「……っ……!!」


 大鎌で防ぎはするものの、ブレアの金槌で吹き飛ばされるベラ。

 吹き飛ばされたベラは、衝突した電灯をひん曲げる。


 幾度も壁や家屋に叩きつけられ、ベラはすでにボロボロとなっていた。

 一方のブレアは無傷である。


 この状態は、ブレアの魔法が【氷結】から【白氷】へと進化し、ベラの魔法【陰影】の能力をブレアが把握していることがもたらした結果だ。


「このまま凍らせて、ぶっ殺してやるよ!!」


 ブレアはベラに向け、再度滑りながら加速していく。


「……エマにしたようにぃ?」


 ブレアの言葉に怒りを覚えたベラは、大鎌の魔石にマナを込めた。


 すると大鎌の刃が、魔石が埋め込まれた柄込みから離れ、残された長い柄の中に仕込まれていた鎖が現れる。

 大鎌の刃は柄から離れ、鎖で繋がっている状態で分離した。


「!?」


 ブレアはベラの魔法具が制限解除した状態を知らなく、驚く。


 ベラの背後には自らがぶつかり曲がった電灯があった。

 電灯が照らし伸びた影が、直線的に突っ込んできたブレアの影と重なる。

 この状況は、ベラの狙い通りだ。


「魔技【影刃】」


 ベラのマナによって操られた鎖は刃を引っ張り影へと潜る。

 潜った大鎌の刃は影を伝い、ブレアの足元の影からブレアに向けて飛び出した。


「ぎっ!?」


 突如背後の足元から現れた大鎌の刃に切り裂かれるブレア。

 予想外の攻撃に反応出来ずに、背中に深手を負う。


「メラニーが死んだ時、散々裏切り者扱いをしてたブレアが裏切るなんてねぇ。許せないわぁ」


 今の攻撃には怨念染みたものが込められていた。

 元仲間と言えど、妹分を侮辱し、親友を殺した宿敵。

 ブレアを殺すことにベラは躊躇いはない。


「ちぇっ! やーやー、うっせぇんだよ!!」


 自由自在に鎖を操作し、大鎌の刃を操るベラ。

 魔法で影を利用されるため、迂闊に近付けなくなったブレア。

 魔法と魔法具の力でベラが優勢へと変わり、ブレアは中距離戦を強いられることになったのである――。



*****



 ロランは速度、アッシュは総合力。

 互いに互いの強みをぶつけた一進一退の攻防だった。


「魔技【紫電】」 


「噴っ!!」


 指を鳴らし、放った電撃はアッシュの黒炎によって燃やさせる。

 その間にロランは【瞬歩】でアッシュに接近していた。


 ロランのレイピアによる刺突。

 アッシュはそれを下からフランベルジュで弾き、二の太刀で袈裟斬りをする。

 ロランはアッシュの袈裟斬りを円盾で受け流し、再びレイピアによる刺突を繰り出した。


 互いに五体満足の状態は変わらない。

 が、油断すれば即座に命を奪われる。

 ロランとアッシュは剣を交え、それを理解していた。


 故に勝負を分つのは必殺の一撃。

 そこに全てを込めることである。


 一度、距離を置く二人。

 一旦息をつき、再び剣を構える。


「いいね、痺れるよ」


 ロランは自身の体に電気を帯びさせた。

 アッシュはロランの変わった様子に嫌な予感を感じた。


「魔技【雷歩】」


 脳から体への信号を光速化し、【瞬歩】を超えた速度生む【雷歩】。

 瞬間移動の如くアッシュの目の前に現れ、レイピアを心臓に向けて突いた。


 アッシュはそれを予測していたのか【瞬歩】で避けるも、付いて来るロランを振り切れない。

 ロランはすぐさま次の突きへと移った。


「くっ!!」


 しかし、アッシュも流石は四帝の一角。

 ロランの突きを剣を持たない左手で掴み、難を逃れた……が。


「魔技【雷電】」


 ロランからレイピアを通して、アッシュの体へと電撃が伝えられた。


「がああぁぁ!!」


 まるで雷が落ちたかのような痺れ、激痛。

 しかし雷と違うのは、その痛みが継続した痛みであることである。

 アッシュは思わず叫びを上げた。


 このままレイピアを掴んでいれば、ロランから電撃を流され続ける。

 だが、離せばレイピアで突き刺される。


 その選択肢を迫られ、アッシュの取った行動は――。


「魔技【ファイアウェア】っ!!」


「!」


 黒炎を全身に纏うことであった。

 これにはロランも、驚いた表情を見せる。


 アッシュの黒炎はマナをも燃やす。

 つまり、ロランの電気の元となるロランのマナをも燃やし、無効化することが出来るのである。

 二人が電気と黒炎を上げる中、アッシュの黒炎の熱は、握るレイピアを溶かした。


「……熱いね」


 アッシュが放つ黒炎の熱量に、ロランは思わずレイピアから手を離し、その場から引く。

 レイピアはあまりの熱に溶解していた。


「あまり乗り気じゃなかったのに、随分と燃えてるじゃないか」


「無理矢理にでもそう思わねば、御せる相手ではない故」


 武器を失ったロランと燃え盛るアッシュの闘いは、黒炎と共に熱量をましていく――。



*****



 ルーナはひたすらに両手のマナブレードを勢いよく振り、カニバルはまるで曲芸をするかのように跳び回って躱していた。

 ルーナとカニバルの闘いは、側から見れば何をしているかわからないかのような闘いだ。


 周囲一帯はルーナのマナブレードによって切り裂かれており、ルーナを囲む帝国兵も何人かが闘いに巻き込まれて死に、何が起きているかが分からず近づけずにいる中――見えない伸縮自在の二刀流は、確実にカニバルを追い詰めつつあった。


 カニバルと言えど、両手の握りから見えない剣の軌道を判断するのは不可能に近かった。

 いくつか斬られた傷はあるが、全て軽傷で済んでいるのは、カニバルだから。としか言いようがない。

 他の者ならとうの昔に体を切断されてるであろう。


「おじさん、このままじゃジリ貧だね」


 そう発言したカニバルは、状況を打開するため行動に移る。


「魔技【アースクエイク】」


 カニバルはルーナの隙を見て、地面に触れて震動させ、周囲一帯に地震を起こす。

 【アースクラック】と違い、地面を割るのではなく、揺らす魔技である。


「うっ!?」


 【アースクエイク】の震動で体制を崩したルーナは、剣を振るのを止め慌てて体制を整えた。

 整え直し、前を向いた時――。


 目の前には【瞬歩】で近付いてきたカニバルが邪悪に微笑んでいた。


「っ!?」


 焦ったルーナは二刀のマナブレードをカニバルに向け振るうも、両肘関節を両手で止められる。

 掴まれた両肘。ルーナには悪寒が走るも、既に時は遅し。


「魔技【ブレイク】」


 掴まれた両肘の内部はカニバルの魔技によって、破壊される。


「ぎぃっ……!!」


 あまりの痛みにルーナは悲鳴を上げて、両手に持つマナブレードを落としてしまう。

 そんなルーナの右足に、カニバルは即座に高速震動させた蹴りを放ち、すねの骨をへし折る。


「あぅっ!?」


 ルーナが跪く中、カニバルはマナブレード二刀の握りを踏みつぶして破壊する。

 あらゆる逆転の目を潰し、ルーナを絶望と恐怖へと陥れた。


「さて、前菜は終わりだ。メインディッシュの時間だね」


 膝を折り、両手を垂らして俯くルーナを見て、カニバルは涎を垂らしながら股間を膨らます。


「これからおじさんはルーナちゃんを生きたまま食べ尽くすよ。可愛がってた子の仇も取れず、絶望と悲鳴の中で生を失っていくルーナちゃんをどうしても見たいんだ。ねぇねぇ、いいでしょ?」


 凶々しさを感じる不気味な笑顔。

 味方も敵も恐れさせるカニバルの本質と今、ルーナは真っ向から対面していた。


「……やれるものなら、やってみなさいよ!!」


 カニバルが両手を合わせ、


「では、いただきま――」



 ルーナに飛びつくと同時に、その首が飛ぶ。



「す?」


 この戦闘で唯一カニバルが隙を見せた瞬間であった。

 その刹那に、ルーナはメイド服から着替えた帝国軍の制服に忍ばせていた三本目のマナブレードで、痛める肘を無理やり動かしてカニバルの首を刎ねたのだ。


 三本目のマナブレードも、フローラがモルデン砦の獄中で製作したものだ。

 念のためにフローラに二本作っていてもらったのである。

 この三本目は、万が一の奥の手であった。


 不意の一撃は見事にカニバルの首を刎ね、勝負を決める――も、


「もぐもぎゅ。やっばり、おびじいねぇ」


 死んだはずの首だけのカニバルは、ルーナの右肩にかぶり付いていた。


「嫌ああぁぁ!!」


 壊された肘や右足、喰われている右肩の痛みを超えた恐怖がルーナを襲う。

 当然だろう。

 死してなお、首だけのカニバルはルーナに食いつき、服の上から自身の肉を食べているのだ。

 死すらもいとわない、異常な程までの欲望。


 痛む腕を強引に動かしてカニバルの首を掴み、引き剥がそうとするも引き剥がせない。

 嬉しそうにルーナの右肩を味わっていた。


「嫌っ……死んでぇぇ!!」


 マナブレードでカニバルの頭を突き刺し――。


「きょべっ……」


 爆散させる。


 死してなお、欲望に執着するカニバルの異常性。

 その異常性は、ルーナの心に更なる傷を植え付けた。


「……はっ……はっ……」

 

 ルーナはカニバルが動かないのを見て、安心したのか股間から地面を濡らす。


 ルーナはカニバルを殺し、ララの仇を討ち、因縁の決着がついた。

 しかし、その心中には安心の二文字しか残らなかったのであった――。

何となく面白そうなど、少しでも思ってくださった方は、画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると幸いです。

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皆様が応援してくれることが執筆の原動力と自信にも繋がりますので、何卒よろしくお願いします。

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