八十三話 ヒメナとアリアの出自
私は闘気を纏って駆ける。
アリアの元に走るも、迷路のように通路が入り組んでて中々辿り着けない。
割と近くまできてるのに……!!
「あー、もうっ!!」
あまりのもどかしさに私は、壁を殴って破った。
直線的にアリアの元へと向かうため、邪魔する物を次々と破壊していく。
敵にバレるのは覚悟の上。
だけどアリアの元に早く向かいたいから、陽動する皆が敵を引き付けてくれてると信じるしかない。
【探魔】で感じたアリアの元へとひたすら強引に突き進んでいくと、開けた大部屋へと出た。
「何……これ!?」
そこには円柱状の水槽みたいなものに、さまざまな生物が入っていた。
動物から魔物、人間まで。
現実離れした空間に、思わず私はアリアのことを忘れて固まってしまう。
「侵入者は君だったかー。これは思いもしない幸運だねー。ようこそー」
白衣を纏った寝ぐせだらけの黄緑色の頭をした男の人が、両手を広げて近付いて来た。
敵対心はまったく感じない。
まるで……私のことを待ってたかのようだ。
「僕は死帝ルシェルシュ・オキュルトだよー。君とずっと会いたかったよー」
そうだ……アリアは!?
私はルシェルシュと名乗った男を無視して、アリアのマナを感じる方を見る。
「!?」
緑色の液体が入った大きい水槽の中にいた。
全裸で丹田には何か管の様な物が刺さっている。
「アリアァァ!!」
私は水槽を叩き割って、刺さっていた管を抜き、アリアを抱いて帝国の軍服の上着を羽織らせる。
「アリア!? 大丈夫!?」
「……ヒメ……ナ……」
意識はまだ少し朦朧としてるみたいだけど、怪我はない。
アリアが何をされたのかは分からないけど、絶対良くないことだ。
「ちょっと、あんた!! ヒメナに何したのよ!?」
ルシェルシュに問う。
私の大切なアリアをあんな訳わかんない物に入れて……許せない!!
「魔技【終焉の歌】の楽譜を彼女の丹田に入れただーけ。他は何もしていないから安心してよー」
「【終焉の歌】……?」
何その物騒そうな歌……?
魔技をアリアの丹田に入れた……?
「ヒメナ……私……人間じゃないんだって……」
「え?」
何言ってるの……アリア……。
「私は……私の歌は……ここで作られたモノだったんだって……!」
緑色の液体に混じり、涙を流すアリア。
作られたって……どういう意味……?
「そーだよー。君達は生体兵器。【終焉の歌】の為に僕が産まれさせたねー」
「君……達……? それは一体どういう……?」
アリアは困惑しているようだ。
私からしたら何の話か訳が分からない。
「送信器がいれば、受信器がいるのは当然のことでしょー。君達は死んだ妊婦から取り出した、二卵性双生児の双子だよー」
「……アリアと私が……双子の姉妹!?」
「どっちがお姉さんかは分からないけどねー。残念でしたー」
どういうこと……?
アリアと私は双子で……ルシェルシュの手によって改造されて産まれて来たってこと……!?
そう考えたら腑に落ちることが幾つかあった。
私は魔法を持たず、マナの感受性が異様に高いこと。
アリアは強力無比な歌魔法を持つこと。
そして、アリアと私は大気からマナが吸えるということ。
あまりにも普通の人とは違う部分が多すぎる。
作られた存在だったとしたら……私が魔法を持たないことも不思議じゃないのかもしれない。
「私達の父は……!? 一体どなたなのですか!? 生きているのでしょう!?」
アリアの言う通りだ。
無から作り出された訳じゃないんだったら……お母さんは死んだってことだけど、お父さんは生きてるかもしれないんだ……!!
「炎帝アッシュ・フラムだよー。本人も子供の君達が生きているなんて知らないけどねー」
……ほぇ……?
アッシュ……?
エミリー先生を殺して、孤児院から私達を追い出したあいつが……私とアリアの父親……?
「嘘よ!! 私達を動揺させるつもりなんでしょ!?」
そうに決まってる……私が……私達が双子だったとしても、あんなヤツが父親のはずがない……!!
「本当だよー。アッシュ・フラムの妻だったコレールとかいう首無しの死体を埋葬する前に取り出した、かろうじで生きていた胎児だもーん。たまたま双子で【終焉の歌】には都合の良かった存在だったからねー」
「嘘だ!!」
「だーかーらー、本当だってばー。しつこいなー」
ルシェルシュは嘘と認めるつもりはなさそうだ。
だったら――。
「ぶん殴ってでも……嘘だって言わせてやる!!」
私は全力で闘気を纏う。
死帝を名乗ってはいるけど、感じるマナ量からルシェルシュは強くない。
私なら、一撃で倒せる。
「僕が死帝と呼ばれる所以を見せてあげるよー」
ルシェルシュが指を鳴らす。
それが合図と言わんばかりに、近くの水槽みたいなのが割れた。
「……っ……!?」
一言で言い表せば、異形の人型。
血色は悪いけど、体格の良い女性の体に以前に見た黒竜セイブルが同化している。
右手には大剣を持ち、左半身は黒竜の鱗で覆われていて、左の背にだけ翼が生え、左手は黒竜の顔となっており、尾も生えていた。
「このマナ……!?」
異形の人型から感じる見知った懐かしいマナ。
ありえない……だって……。
「まさか……エミリー先生……?」
「大正解ー。さすが【終焉の歌】の受信器ー。マナを感じる力は抜群だねー」
でも……ほぇ……?
エミリー先生は死んで……何で……?
「僕の魔法は【死霊】だよー。死んだ生物の体の一部でもあれば、生きる屍として蘇生させて使役することができるんだー。元剣帝の体の一部はアフェクシーで回収してたしねー」
エミリー先生は確かに老体じゃない。
ゾンビみたいだけど、若くなってる……。
「さらに、培養槽で黒竜セイブルの死体と合成させたんだー。君達程では無いけど、一応は傑作だよねー」
傑作……?
傑作って何よ……!?
こいつエミリー先生を……エミリー先生の死体を弄んで……絶対に許せない!!
ルシェルシュは培養槽と呼んだ水槽を指差す。
そこには、また別の異形の生物が入っていた。
「レイン。そこの合成獣は君にあげるよー」
「御意!! 操作致しまする!!」
どこからともなく現れた、王都を襲撃してきたお爺さんのレイン。
レインが杖を掲げると、昏睡状態だった異形の生物は息を吹き返したかのように目覚め、培養槽を叩き割って出てくる。
体は熊のより巨大で、コウモリのような翼を生やし、尾は蛇となっていた。
頭は三つあり、真ん中にはライオン、右には鳥、左には猪の頭。
四足歩行でゆっくりと私の方に近づいて来る。
「さー、始めようかー。【終焉の歌】を……僕の最高傑作を見せておくれー」
操られた異形のエミリー先生と、異形の合成獣。
それぞれが私に向けて襲いかかって来た――。
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