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七十二話 モルデン砦防衛戦①

 炎帝アッシュ・フラムの力は一騎当千。

 次々と王国兵達を黒炎とフランベルジュで薙ぎ払っていた。


「脆弱にして貧弱!! その程度の強さで我の前に立つとは滑稽な!!」


 アッシュは目の前の兵を黒炎で燃やし尽くし、罵声を浴びせる。


「そんなに強いヤツに会いたいなら、ここにあたいがいるぜ!?」


 突如現れ、アッシュに向けて全力で金槌を振るうブレア。

 ブレアの存在に気付いていたアッシュは、ブレアの不意打ちをあっさりと半身で躱す。


「貴様を含めて言ったのだがな。ヒメナはどこだ? ヤツがあれ以上強くなる前に殺さねばならぬ」


 アッシュのその言葉は、ブレアを憤慨させた。

 ブレアにとって自分の強さは自分自身の存在価値である。

 アッシュはそんな自身を強敵とも思っていない上、自身を前にしてヒメナのことを気にかけている。

 ブレアにとってこれ以上の屈辱はない。


「今お前の目の前にいるのはヒメナじゃねー!! あたい……ブレアだ!!」


 ブレアはマナを金槌に込めて、地面を叩く。


「魔技【アイスニードル】!!」


 ブレアを中心とした地中から氷の棘が周囲を刺すように生えてくる。

 それは周囲で戦っている王国軍と帝国軍の両方をも巻き込んだ。


 しかし、アッシュは闘技【瞬歩】によって、ブレアの【アイスニードル】の範囲外へと退避していた。


「貴様の名前など、憶える必要もないわ」


「あたいの名前、その魂に刻んで冥土に送ってやるよ!!」


 二人は闘気を纏い、互いの武器で打ち合い始めた――。



*****



 エマは四帝元へと向かった他の冥土隊の面子を心配しつつも、帝国軍の雑兵の大群と前線で戦っている。

 聡いエマは、大局を見ていた。


 いくらアリアが【闘魔の歌】を歌っているとは言えど、数的不利なこの状況を覆すには、格下の相手をいかに削って敵軍の士気を下げるか、そこが鍵だと考えていたからだ。


「魔技【爆裂破】」


 エマは両刃の槍で地面を切り、地面を爆発させる。

 爆発は新たな爆発を生み、指向性を持った連鎖爆発は、帝国兵を次々と巻き込んで戦闘不能に陥れた。


「一対多数はウチの専売特許でね」


 一撃で百人ほどの戦力を削ったエマは、いつもの飄々とした雰囲気とは違い、自慢げに笑う。

 そんなエマに、巨大なラージクラブを持った、不潔感が滲み出ている巨体の男が近づいてきた。


「こいつ、厄介なんだな。オラが相手するんだな」


「……でかいし、臭いね。あんた」


 悪臭を放つ大男にエマは思わず鼻をつまむ。

 トウミンの周囲にはハエが飛んでいる。

 何かの汚物と勘違いしているのだろう。


「オラの名前はトウミン・ドレッキヒなんだな。お前、殺すんだな」


 闘気を纏ったトウミンはクラブを振りかぶり、縦に振るう。

 荒い攻撃をエマは躱したが、クラブは地面を破壊するかのように削った。


「オラ、力自慢なんだな」


「何だってウチはこう面倒そうなクジを引くかね」


 悪臭を放つトウミンを前に、悪態をつくエマであった――。



*****



 ルーナとカニバルの闘いは圧倒的にカニバルが押していた。

 何故ならルーナは大剣のまま戦っており、マナブレードを使用できないからだ。


 原因は、周りの状況にある。


 カニバルとルーナがいる場所は王国陣営の中央。

 そんな所でマナブレードを使えば、自陣の兵士や傭兵達を切断しかねない。

 故に、ルーナは制限解除を出来ずにいた。


「前の見えない剣は使わない、というより使えないのかい?」


「!!」


 ルーナの闘気から迷いを感じ取ったのか、カニバルはルーナがマナブレードという切り札を切らないことを見透かしていた。

 出された所でどうとでもなると考えてはいたのだが。


「周りを気にしてちゃ駄目だよ」


 自分だけを見てくれないカニバルは、不服そうにルーナの胸に触れ、


「魔技【ブレイク】」


 ルーナの肋骨を高速震動させた手で砕いた。


「かっ……!?」


 肋骨を砕かれたルーナは、その場にうずくまる。


「おじさんだけを見てくれないと」


 カニバルはうずくまったルーナの頭を踏みにじり、地面に顔を擦り付けた。


「ルーナちゃんが所属するのは冥土隊……だったかな? 歌姫を守ってるんだよね?」


 そして、楽しげに想像を膨らませ始める。

 

「歌姫をおじさんが殺したら、ルーナちゃんはどう思うのかなぁ? もっとおじさんのことを憎んでくれるかなぁ? もっともーっと熟成されたお肉になるのかなぁ?」


「やめ……て……!!」


 ルーナは心の中で嘆いていた。

 ララを失った時と何も変わらぬ自分の弱さに。

 カニバルに傷一つ付けられない事実に。


「歌は、あっちから聞こえるね」


 カニバルがそんなルーナを見て、アリアの元へと向かおうとした、その時――。


「悪いけど、歌姫を殺させる訳にはいかないね」


 突如ロランが現れ、魔技【紫電】がカニバルを射抜く。


「あべべべべ」


 不意打ちの紫色の電気に直撃したカニバルは、痺れからか痙攣した。

 そして、煙をふきながらその場で仰向けに倒れ込んだ。


「ルーナちゃん、大丈夫かい? 別に君を助けに来た訳じゃないんだけどね」


「……わかってる…わよ……」


 実際ロランはルーナを助けに来た訳ではない。

 助ける形にはなったが、ロランの思惑は震帝カニバルと闘うためだからだ。


 ロランとルーナが話している間に、仰向けに倒れ込んだカニバルは、煙を吹きながらも起き上がる。

 そしてロランをじっくり観察し始めた。


「うーん、君は美味しく無さそうだ。だけど、強いし。おじさん、どうしようかなぁ」


 カニバル基準だと、どうやらロランは美味しそうには見えないらしい。

何となく面白そうなど、少しでも思ってくださった方は、画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると幸いです。

感想を頂けたりSNSなどで広めて頂けると、作者は更に喜びます。


皆様が応援してくれることが執筆の原動力と自信にも繋がりますので、何卒よろしくお願いします。

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