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七十話 戦闘開始

 モルデン砦は高い塔を中心に強固な壁で包まれている頑丈な砦なんだ。


 周囲一帯は荒野で、敵が来ても見やすい地形。

 だから人数差で倍以上劣ってても、何とか守れてる状況みたい。


 帝国軍は荒野の岩壁の死角にテントで夜営をしていて、向こうのタイミングで急に攻め込んで来るらしい。

 それが何度も繰り返されるもんだから、皆精神的にも疲れちゃってる。


 フローラを始めとする技術者は、モルデン砦の塔の中で一度分解した部品を組み上げている。

 フローラが作った魔法具を完成させるまで、帝国軍からモルデン砦を守るのが私達の今回の任務だ。


 魔法具が完成すれば、戦況をひっくり返せるかもしれないって話だけど、本当なのかな?


「――来る」


「ええ」


 大群のマナの移動。

 マナを感じることに長けている私以外のルーナを始めとした冥土隊の皆も気付いた。


 帝国軍は総勢一万の兵を率いて、先頭を馬に乗って駆るのは――アッシュとカニバルだ。

 四帝の二人がここにいる。

 魔法具の情報がどこから漏れた、あるいは輸送時に見られたのだろう。


 今回モルデン砦の防衛の指揮を執るのは、ロランではなく白犬騎士団団長のアールさんだ。

 喋り方や忠犬なのはむかつくけど、実際集団戦に長けており、こういう大舞台でこそ活躍するからなんだって。


 こちらに駆けてくる帝国軍を見たアールさんは、モルデン砦の外の前線をゼルトナさんのような傭兵と近距離戦に特化した兵や騎士を配置し、闘気を纏えず後衛に向いた兵をモルデン砦の壁に配置する。


「歌姫殿! 貴女の魔法は兵士の戦闘力を増すと聞いたが本当であーるか!?」


「はい。ですが理性や恐怖心を失ってしまいます……【闘魔の歌】という対象のマナ量を底上げする魔法もありますけど……どうしますか?」


 【狂戦士の歌】はやっぱりアリアは今でも歌いたくないみたい。

 暗に【闘魔の歌】を歌わせてもらうように促した。


「効果は全軍に及ぶであーるか!?」


「あくまで私の歌が聞こえる範囲ですが」


「では、そちらをお願いするのであーる!! 理性を失ってしまっては、統率が取れないのであーる!!」


「……はい!」


 いつもロランに【狂戦士の歌】を歌わされてたせいか、アリアは少しほっとしているようにも見える。

 良かったね、アリア。


「ロランとアールさんには私達冥土隊は自由に動いていいって言われたけど、どうする?」


 リーダーのルーナに訪ねると、ルーナは先頭を走るカニバルを見て、深呼吸をしていた。

 この前、カニバルに敗北したばかり。

 緊張するのも無理はないよね。


「……フェデルタさんも来るみたいだけど、ベラは残ってアリアの護衛を」


「おっけぇ」


「後の皆は、傭兵や騎士では手に負えない敵を冥土に送るわよ」


 アッシュ……今度こそ必ず倒す。

 またあの感覚を……妙なゾーンに私自身が入ることが出来たなら、勝つことは不可能じゃない。


「よし! 皆、行こう!!」


「応っ!!」


 アリアが【闘魔の歌】を歌い始める中、私達を始めとした王国軍は四千人は覚悟を持って、軍勢一万の帝国軍に打って出る――。



***** 



 迎え討とうとする王国軍を相手に、ノコギリを片手に先頭を馬に乗って走るカニバル。


「よーし。おじさん、頑張っちゃお」


 馬から天高く跳んだカニバルは、迎え討とうとする王国軍の集団の中央へと着地する。


「魔技【アースクエイク】」


 カニバルが着地すると同時、大地が大きく揺れた。

 人工的に起こされた地震で、王国軍の前線にいた者達は平衡感覚を失い、皆よろめいたり、倒れこんだりする。


「うおあぁ!?」

「地震!?」


 カニバルの魔法は【震動】。

 カニバル自身の強さもあってか、その能力は天変地異を起こす程のレベルまで昇華されていた。


「てんめぇぇ!!」


 揺れが収まった頃、近くにいた傭兵達がカニバルに向かって、持っている武器で襲いかかる。

 カニバルは持っているノコギリを高速振動させ、襲い掛かって来た傭兵達の首を刎ね飛ばした。


 そして、飛んだ首の一つを手に取り、その肉に噛り付く。


「残念でした。おじさん、ただのピエロだよ」


 そう、カニバルの単独の特攻は言葉通り陽動。

 王国軍が自軍の中央に突如跳んで来たカニバルに注目する中、アッシュ達帝国軍はその距離を詰めていた。


「殺れ」


 帝国軍は動揺する王国軍の前線に向け、それぞれが魔技を放ちながら特攻していく。

 一瞬で陣形は崩され、多くの傭兵や兵士の命が散っていった。


 予期せぬ事態にアールも動揺する。


「後衛部隊は帝国軍に向け、魔法を放つのであーる!! 前衛部隊は前線を立て直すのであーる!!」


 指示を出すも前線は立て直せない。

 圧倒的な個の力。

 帝国軍は数で勝るだけではなく、それを兼ね備えていたからだ。


 そんな混乱の中――カニバルに向けて駆ける一人の少女。

 黒髪のポニーテールを揺らし、白いメイド服を翻して、闘気を纏いながら高速でカニバルへと接近するのは、ルーナだ。


 ルーナが殺意を持って振った大剣を躱したカニバルは、軽く躱す。


「また会ったね。おじさん、嬉しいよ」


「私は二度とあなたの顔なんて見たくないから……ここで冥土へ送る!!」


 こうしてモルデン砦での戦闘が開始された――。

何となく面白そうなど、少しでも思ってくださった方は、画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると幸いです。

感想を頂けたりSNSなどで広めて頂けると、作者は更に喜びます。


皆様が応援してくれることが執筆の原動力と自信にも繋がりますので、何卒よろしくお願いします。

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