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六十二話 それぞれの闘い①

 シュラハト城が崩壊したことで、休戦協定は制定されず戦闘になったと判断した、移動中の護衛として来ていた王国兵と、帝国兵も争いを始めだす。


「ちぇっ! 訳わっかんねー! 無茶苦茶じゃねーか!!」


 ブレアの周囲には砂埃が巻き上がり、近くには城の瓦礫に潰されて、誰かも分からない死体が山ほど転がっていた。

 ヒメナの攻撃によって気絶していた【透明】の魔法を持つ男、クラルテ・シースルーもその一人だ。


「あら、私の美しい髪の艶になってくれるのはあなた?」


「あ?」


 ブレアと対面したのは、ハールだ。

 風に紫色の髪の毛をなびかせ、ブレアの前に立ちふさがっていた。


「お前に用はねー。アッシュはどこだ?」


「さぁねぇ。私もアッシュ様が今どこにいるかなんて知らないけど――」


 ハールは髪を逆立たせ、


「私の髪の毛を見て、褒めないのが気に入らないわ!!」


 ブレアを髪の毛で襲った。


 ブレアは器用に髪の毛の束を躱していきながらも、ハールが相手というのが不服なのだろう。

 いつものように舌打ちをした。


「ちぇっ! あたいを倒すなら四帝級を連れて来い! お前じゃ役不足なんだよ!!」


 恨みを持つアッシュあるいはカニバルの元へ向かうため、ブレアはハールをすぐにでも倒すため、金槌を携えて闘気を纏ってハールへと突っ込んだ――。



*****



 エマとベラが対面したのは、片手剣を持つファルシュとの顔色の悪いスキンヘッドの男。


 エマとベラはファルシュと一度対峙しており、【複製】という魔法をコピーする能力を持つことを知っている。

 しかし、もう一人の男は未知数だ。


「お兄さん、お初だけど名前は何てんだい?」


 エマは顔色の悪い男に問う。

 特に興味も意味もないが、話すことで何かしらの情報を得られるかもしれないからだ。


「俺……か? 俺は……ブルート・スピール……」


「……調子狂うわねぇ」


 これから殺し合いを始めるというのに、ブルートは今にも倒れそうだ。

 ベラは逆に心配になってしまう。


「心配しなくても結構ですよ。ブルートはちゃんとあなた達より強いですから」


 そう擁護したファルシュは、自身のおかっぱの黒髪を伸ばし始め――。


「この僕もね!!」


 それをエマとベラを刺すかのように、襲い掛からせた。

 戦闘になることを予測し、事前にハールの魔法を【複製】していたのだ。


「本当にあんたってヤツは面倒だね!!」


 エマとベラは、ファルシュとブルートと相対することになった。



*****



 周囲で王国兵と帝国兵が闘う最中、ルーナが対峙したのは――。


「おじさん、若い子の相手をするのは嬉しいねぇ」


 四帝の中である意味最も恐れられる、震帝カニバル・クエイクだ。


「…………」


 ルーナの胸中は緊張と恐怖、そして積年の恨みや怒り、複雑な感情が入り混じっていた。


「良い目をしているねぇ。君のことは成長していても覚えているよ。おじさん、記憶力は良いからね。確かルーナと呼ばれていたかな?」


「……あなたがしたこと、私は何度も夢に見る」


 ルーナにとってのトラウマ。

 毎晩のように悪夢で、あの光景を見ていた。

 カニバルがララの首をノコギリで切り、その頭を食べた光景を。


「それは光栄だ。おじさん、頑張ってあの不味いお肉を食べた甲斐があったよ」


 カニバルの言葉に、怒りから目を見開いたルーナは全力で闘気を纏う。


「……あなただけは……私の命に替えても冥土へ送る」


 そんなルーナを見たカニバルは、垂れそうな涎を拭いた。


「いいねぇ、堪らないよ。闘気から恐怖を振り払ってでも、おじさんを殺したいという意志が伝わってくる。やっぱり、あの時のおじさんの選択は間違ってなかったよ」


 そして、カニバルの股間はテントを張っている。

 六年近くも自分のことを考えて苦悩し、自分のことを憎んだルーナを食べる時のことを想像し、興奮したのだろう。


「君を食べたら、さぞかし美味しいだろうね」


 ルーナはララの仇を討つため、怒りをぶつけようと、恐怖を振り払おうと、カニバルへと大剣を携えて飛び込んだ。



*****



 ベラから受け取ったレイピアを手に持つロランの目の前にいるのは、クラルテが落としたバルディッシュという長い戦斧を持つ、アルプトラウム帝国皇帝のズィークだ。


「魔技【紫電】」


 ロランは指を鳴らして【紫電】を放つ。

 中距離からの紫色の電撃をズィークに向けて、襲いかかった。


「魔技【グラビティホール】」


 【紫電】に対し、皇帝ズィークは空中に重力の盾のようなものを生み出し、打ち消す。

 その間に【瞬歩】によって、ズィークに対して距離を埋めていたロランは、皇帝の心臓に向けレイピアを抜いて刺突を繰り出した。


 しかし、皇帝も【瞬歩】によってそれを躱す。

 この間――約一秒。


 皇帝は迫りくるロランの魔法と、その才に何かを感じ取っていた。


「その戦闘の才に魔法……どこかで見覚えがある。何者だ?」


「おやおや、お忘れですか?」


 ズィークは思い出す。

 遠い記憶を遡ると、同じような黄色の髪色をし、魔法を使う子供がいた。

 幼少期から魔法を扱い、考えが読めず、皇帝ですら手を余らせていた子供。



「今はロラン・エレクトリシテと名乗ってますが、僕の本名はトネール・アルプトラウム。あなたの最初の息子ですよ、父上」



 そう、ロランは帝国の第一皇子であった。

 子供の頃に第二皇子を殺し、どこかへと忽然と消えたロラン。


 第二皇子の派閥の大人に毒殺や暗殺等を何度も試みられながらも、子供ながら一人で全ていなした天才。

 それでも、第二皇子を殺したのは復讐などではなく、命のやり取りをするのが、ただ面白そうという理由ではあったが。


「――貴様、今まで何をしておった?」


「あなたは強い。そして帝国もね。でも、帝国の皇子だったらつまらない。だって強い帝国と闘えないではないですか? それでは痺れない」


 母親が毒殺され、子供のロランは一人王国へと渡り、その強さから兵士、騎士、副団長、そして騎士団長を務めるまで歴代最速で昇りつめ、グロリアス国王に寵愛される数万人に一人の逸材。


 しかしその行動の全ては、アルプトラウム帝国と闘えばスリルがありそうという理由からである。

 その本性は国王すら知る由もない。


「ここであなたと殺し合いをしても痺れそうだし、殺さないで逃がしても戦争が激化して痺れそうだ。さて、どうしようかな?」


 母親が殺された復讐心などは一切なく、ひたすらスリルを求めるロランの人間性は、皇帝ズィークに冷や汗を一筋垂らさせた――。

何となく面白そうなど、少しでも思ってくださった方は、画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると幸いです。

感想を頂けたりSNSなどで広めて頂けると、作者は更に喜びます。


皆様が応援してくれることが執筆の原動力と自信にも繋がりますので、何卒よろしくお願いします。

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