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五十八話 王様からの頼み事

 前線では戦闘が行われ、王都の復興が未だに続く中、私達はロランに呼び出された。

 

 呼び出されたのは、冥土隊の私、ルーナ、ベラ、エマ、ブレアの五人。

 アリアは呼ばれておらず、何かの魔法具を作っているフローラも呼ばれていない。


「で、どこ行くのよ?」


 王城の廊下を歩く私達は、呼び出されたのは良いけど何の用かはロランから何も聞いていない。


「少し人に会ってお話するだけさ」


 いや、なら今誰と会うか言えよ。

 性格わっる。

 少しは良くなるように、思いっきり頭ぶっ叩いてやろうか。


 暫く歩くと一度しか通ったことのない廊下が見えてきた。

 とても煌びやかで広い廊下。

 廊下の先には閉まった大きな扉があり、護衛の騎士が二人立っている。


 ここはそう――。


「まさか今から会うのって……」


 謁見の間。


「王様だよ」


 いや、尚更事前に言えよ!!

 私達……いや、ルーナ達は何度か会ったことあるかもしれないから落ち着いてるけど、私なんて五年も人里から離れてたんだから、王様と会うなんてハードル高いんだってば!!


 オドオドする私の反応を見て、ロランは楽しそうに微笑んでいる。

 この野郎……。


 闘気を纏った衛兵の騎士二人によって巨大な扉が開かれる。

 前一回来た時に、何でそんな扉にしてるのかルーナに聞いたら、それなりの力を持ってないと謁見の間には入れないようになってるんだって。


 私達は玉座へ近づくために歩く。


 玉座には、リフデ王子殿下と同じ彩色の金髪と髭を、真っ直ぐに長く伸ばした王様が座っていた。

 長く伸ばしているからと言って不潔さはまるで感じなく、纏っている服の綺麗さもあってか、神々しさすら感じる。


 一度だけ会ったことあるけど、やっぱり王様ってキラキラしてるんだなぁ。

 リフデ王子とはえらい違いだよ。


「そこの従者!! 王の御前であるぞ!! 頭を垂れぃ!!」


 ほぇ?

 指差されてるけど、私のこと?


 周囲を見渡すと、私以外のロランを始めとしたみんなは跪き、頭を下げていた。

 それを見て、私も慌てて真似をする。


「よい、面を上げよ。其方は確かヒメナと言ったな」


「はひぃ!?」


 王様が何で私の名前を知ってるの!?


「ロランから聞いておる。先の飛竜襲来の際、其方の活躍で飛竜を退けたそうだな。大義であったぞ」


「こ、光栄でありますです!」


 ひょえー。

 王様からお褒めの言葉を頂いちゃったよ!

 隣でロランが笑いをこらえてるのが、めちゃくちゃムカつくけど。


「復興で遅れてしまい、すまなかったな。其方らの活躍への褒美じゃ」


 王様がそう言って手を上げると、侍女達が私達に近づき、それぞれに巾着袋を渡してくる。

 私の袋は特別大きく、思わずすぐに中を開けた。


「ほえぇ……」

 

 金貨で一杯じゃん。

 これだけあれば、家一軒買えちゃいそう……。


「其方!! 先から王の御前で無礼であるぞ!!」


 えぇ!?

 開けちゃダメなの!?

 なら先にそう言えばいいじゃん!!


 宰相さんだっけ?

 さっきからあのおじさん偉そうだし、うるさいなぁ。


「国王陛下どうかお許しを。この者は人里離れた山に住んでいた猿のような者故」


 ロランが私を庇ってる風だけど、完全に馬鹿にしてるよね!?

 誰が猿じゃ!!


「よいよい。それより、ロランと其方ら冥土隊に頼みたいことがある」


 王様からの頼み事?

 何だろ?


「アルプトラウム帝国に休戦を申し出た所、アンゴワス公国にて会談の席が設けられることとなった。帝国の皇帝ズィーク・アルプトラウムとの会談の際の護衛を其方らに頼みたい。護衛の数は互いに五人。ロランからの提案で其方らを選んだ」


 休戦って……帝国と!?

 戦争が休みになるってことだよね!?

 実現したら最高じゃん!!

 アリアも私達も戦場に出なくて済むってことでしょ!?


 でも五人って、ロランと私とルーナとエマとベラとブレアだったら六人じゃん。

 数が合わなくない?


「先の飛竜襲撃の王都の被害は大きい。この休戦協定は実現すれば、我ら王国は息を吹き返す好機ともなるであろう。是が非でも実現させたい。余の力となってくれ」


「「「はっ!!」」」


 王様との謁見が終わり、謁見の間から私達は退出する。


「ほえぇ〜、緊張したぁ〜」


「まるで山猿が人里に来たみたいだったよ、ヒメナちゃん」


 うるさいよ、ロラン。

 喋れなくなる程ぶん殴ってやろうか?


「それより、護衛の話について話したいから、着いてきて欲しいんだけどいいかな?」


 私達はロランに着いて行き、紫狼騎士団の団長室に入る。

 ロランは椅子に座り、机を挟み並んで立つ私達と対面する形となった。


「さて、さっきの休戦協定の話だけど……」


 そして私達の、いやボースハイト王国全国民の――。



「間違いなく休戦にはならない」



 望みをへし折るかのような予想を告げた。


「それ……どういうこと?」


「少しは考えてみなよ。王国の王都はこの前甚大な被害を受けたばかりだ。一方帝国は何も失っていない。休戦協定を呑む理由がないんだよ、帝国側にはね」


「それって王様は分かってるの!?」


「王様も建前でああは言っていたけど、本心では失敗することは当然分かってるさ。それでも休戦協定のための会談をするんだ」


 失敗するのが分かってて会談をするってどういうこと?

 意味わかんないよ。


「一つ、アルプトラウムの帝都であぐらをかいている皇帝ズィークを表に引き出すため。二つ、仲介役のアンゴワス公国で休戦協定を失敗することで公国に危機感を持たせ、可能ならこの戦争に味方として参戦させるため。三つ、休戦協定を無下にされ攻撃された体にして、ボースハイト王国の兵の士気を高めるためさ。もう闘いの道しか残されてないってね」


「そんな場で護衛の私達はどうすればいいの?」


 ロランの言い分だと、間違いなく戦闘になるってことだよね?


「王様は守らなくて良い。皇帝ズィークの護衛を引き剥がして時間を稼ぐか倒して欲しい。その間に僕が――」


 ロランは実に面白そうに微笑み、



「アルプトラウム帝国、皇帝ズィークを殺す」



 さも当たり前のように、皇帝の殺害を宣言した。


「……あなたの考えは分かったけど、王様や他の会談する人は守らなくて良いの?」


「いや、王の護衛兵っていうのは、まぁ建前みたいなモノだよ。別にしなくていい」


 ルーナが聞くと、王様の身はどうでもいいと言わんばかりの答えが返ってきた。

 しなくていいって、王様が死んじゃったら王国はもっと大変なことになるじゃんか!?


「陛下の魔法はモルテさんの魔法に近いというか、まぁ殺されても死ぬことはないからね。だから護衛という体だけど、護衛をする必要はない」


 ならいいけど……ロランは掴みどころがないから本当のこと言ってるか分かんないや。

 何でもかんでも疑っちゃう。


「四帝も何人かは来るだろうから、気合い入れてね」


 ロランのその言葉を聞いた時、私達の空気は更にピリつく。


 エミリー先生を殺した炎帝アッシュ、ララを殺した震帝カニバル、そして私にルグレを殺させた拳帝ポワン……その内の誰か、あるいは四帝全員が来るかもしれない。


「休戦協定の会談は一カ月後、二週間前にはアンゴワス公国に出発するから準備を怠らないようにね。以上」


 私達はロランの団長室を出る。

 廊下で談笑をしていた侍女達は、私達を恐れたのか慌てて道を開けた。


 仕方もないことだろう。

 今回はアリアを守るための闘いじゃない。

 それでも、既に私達は四帝と相まみえる一か月後を見据えて、殺気に近い何かを放っていたのだから。

何となく面白そうなど、少しでも思ってくださった方は、画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると幸いです。

感想を頂けたりSNSなどで広めて頂けると、作者は更に喜びます。


皆様が応援してくれることが執筆の原動力と自信にも繋がりますので、何卒よろしくお願いします。

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