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五十七話 王子様からの贈り物

 私が【探魔】で感じた通り、そこにはベラがいた。

 私達と同い年くらいの年頃で、彩度は私やアリアとは違う金髪のおかっぱ頭の男の子と、護衛の騎士が一緒だ。

 う~ん、あの人どこかで見た気がするけど、どこだっけ?


「この声……もしかして、リフデ王子殿下?」


「王子様!?」


 目が見えないアリアが声から気付いたのか、名前を上げる。

 確かに何か偉そうな恰好をしてるもんね。

 そういえばリユニオン攻防戦の後、国王様に謁見してお褒めの言葉をもらった時にいた人だ。


「ええい、ベラ! 何故受け取らん!? 余からの褒美が受け取れんと言うのか!?」


「でもぉ、いつも受け取る理由がありませんしぃ……」


 どうやらリフデ殿下はベラに何か渡そうとしているらしく、ベラが拒否してるみたい。

 貰える物なら貰っちゃえばいいのに、何でだろ?


「だから飛竜討伐の褒美と言っている!!」


「皆何も頂いていないのにぃ、私だけ頂くわけにはいきませんよぉ。王都も復興に向けて大変な時ですしぃ。ねぇ?」


 ベラは護衛の騎士に目配せをし、何かを促してる感じだ。


「リフデ王子、もうそれくらいにしておいた方が……」 


 護衛兵も慌てながらリフデ王子を止め始めるも、止まらないどころかエスカレートしていく。


「ならん! 其方が受け取るまで、余はつけ回すぞ!!」


「えぇ? 困りましたわねぇ……」


 ベラは私とアリアが近くにいることに気付き、助けてくれと言わんばかりに目配せをしてきた。

 本当に困ってるんだろうな……助けてあげ――。


「……ベラ、それ貰いなよ! くれるって言ってるんだから!!」


 ようと思ったけど、気になることを見つけてしまった私は、助けを求めていたベラを裏切る。


「ほほう、話が分かるじゃないか! 其方、名は何と申す?」


「ベラと同じ冥土隊所属のヒメナでーす!」


「! ベラと同じ部隊か!! そうかそうか、名を覚えておいてやろう!!」


 大笑いする王子から贈り物を受け取ったベラの表情は、いつもの微笑みとは違いどこか怖かった。


「よし、用は済んだ! 行くぞ!」


「はっ」


 リフデ王子はベラにプレゼントを渡せて満足したのか、護衛を引き連れ去って行く。


「ヒ〜メ〜ナァ〜」


 顔はいつもと変わらず微笑んでるけど、明らかに怒ってるベラが私の両肩を掴んでくる。

 痛いし、怖いよ……ベラ……。


「私が嫌がっていたの分かってたでしょぉ? 何であんなこと言ったのよぉ? もぉ〜」


 そんなに嫌なんだ。

 リフデ王子から何か貰うの。


「いやー、その贈り物なんだけど、ちょっと気になることがあってさー」


「気になることって?」


 アリアは見えないけど贈り物は絵画だった。

 何か高価そうな絵画で、私達にはとても買えそうにない物だ。

 だけど――。



「この贈り物、リフデ王子のマナが込められてるよ」


「「!?」」



 この絵画にはリフデ王子のマナが込められていた。

 おそらくは、何らかの魔法の類だろう。


「フローラに【解析】してもらおう。危険性がある魔法なのか、そうでないのか。それでリフデ王子の意図がわかるでしょ?」


 私はそのつもりでベラに受け取らせた。

 私達はフローラがいる王都の研究所まで足を運ぶことにした――。



*****



 王都の研究所では今、ロランの命令でフローラを責任者にして、大勢の研究者ととんでもない大きさの魔法具が作られていた。

 何を作っているのかはよく分かんないだけどさ。

 国家機密みたいだし。


 忙しそうに指示を出すフローラを、申し訳ないけど呼び止めてリフデ王子との一件について話す――。


「なるほどねーっ! だったら、ちょいと【解析】してみるから、それ貸してみーっ!!」


 ベラは爆発物を渡すかのように恐る恐るフローラに渡す。

 リフデ王子の何らかの魔法がかかってるからその気持ちはわかるけど、ベラに危害を加えそうなことはしそうになかったけどなぁ。


【解析】


 フローラはベラから受け取った絵画を【解析】する。

 絵画に込められたマナがフローラのマナを通して情報が脳内に入っているようだ。


「たっはっはー! 大丈夫っ!! この絵画にかけられた魔法に害はないよーっ!! 怪我や死に至るものじゃないねーっ! むしろ、この絵画の価値にビックリだ! 売ったら家一軒は余裕で買えちゃうよーっ!! ボクが欲しいよーっ!!」


 あの王子そんな大層な物ベラに押し付けたの!?

 王族の金銭感覚は理解できないや……。


「えっとぉ……じゃあどんな魔法がかけられていたのぉ?」


 確かにそうだよ、害がないのに魔法がかけられてるってどういうこと?

 ベラを守るための魔法とかかな?


「かけられていた魔法は【覗見】! 要は魔法をかけた物から覗き見できるって魔法だねっ!!」


 いや、めっちゃくちゃ害あるし悪質じゃん!!

 要は絵画を通してベラの部屋を盗み見できるってことでしょ!?


「あらあら、まぁまぁ。リフデ王子ならやりかねないわねぇ。じゃあ今までの贈り物にも同じ魔法がかけられてるのかしらぁ?」


「確かめにいこっ!」


 私とベラとアリアの三人は絵画を手に王城へと戻り、ベラにあてがわれている部屋へと入る。



「王子様からの贈り物はここに入れてるのぉ。ヒメナ、見てもらえる?」


 一つの木箱には装飾品や宝石など様々な物が入っていた。

 すっごいキラキラしてる……これ全部売ったらいくらになるんだろう。


 だけど、そんな宝石達には――。


「全部王子のマナが込められてるね」


 王子の【覗見】の魔法がかけられていた。


「あ、だから今回の贈り物は絵画にしたんだ!」


 アリアが何かに気づいたように両手を叩く。

 けど、その何かは私には良く分からない。


「ほぇ? どゆこと?」


「だってベラは王子から頂いた物は全部木箱に入れたんでしょ?」


「えぇ。装飾品も付けてないしぃ、貰ったらこの木箱に入れてずっと保管してたわぁ」


「だから今回は絵画にしたのよ。絵画なら木箱には入らないで飾るだろうから【覗見】できるでしょ?」


 なるほど、確かにアリアの言う通りだ!

 今までは木箱が邪魔で【覗見】出来て無かったけど、絵画を飾ればベラのあんな所やこんな所をいつでも覗き放題じゃん!


「あ〜のぉ〜王子ぃ〜……」


 ベラはいつもと変わらず微笑んでいるけど、明らかにキレている。

 それは私も同じだ。

 乙女のプライベートを覗き見しようだなんて趣味が悪すぎる。


「よし! ベラ、アリア行こう!!」


 私達は王子を探すために、ベラの部屋を出て走り始める。


【探魔】

 

 私は【探魔】で王城の中の探せる範囲で王子を探す。

 王子は王城の庭園を走っていた。

 おそらく、絵画から【覗見】で私達を見ていて、気付いたことが分かって逃げているのだろう。


「逃すかーい!」


 私とベラは闘気を纏い、アリアを抱えて王城の三階から庭園と跳び降りる。


「ぬぁっ!? 正気か、其方ら!!」


 自身の目の前に飛び降りてきた、私達に驚いたのかリフデ王子は悲鳴を上げて、腰を抜かし尻餅をついた。


「王子ぃ〜、分かってますよねぇ〜」


「護衛兵! 私を守れ!!」


 ベラの恐ろしい微笑みに恐れたのか、王子は置いてきた護衛兵を呼びつける。


「どうしましたか!? リフデ王子!!」


「こやつらが余を襲おうとしておる! 助けんか!!」


 何て言い草!?

 あらゆる贈り物を送ってベラを覗き見しようとしてた変態のくせにさ!


「リフデ王子が魔法を使ってベラのことを覗き見しようとしてたのよ!! ベラのナイスボディを!!」


「乙女のプライバシーを覗こうとするなんて最低です」


「うっ……!」


 私とアリアの言葉が胸に突き刺さったのか、胸を抑えて苦しむリフデ王子。

 護衛兵も呆れた目をしてリフデ王子を見ていた。


「仕方ないではないか……」


 王子は重々しく口を開く。


「五年前……ベラを初めて見た瞬間、一目惚れしたのだから!!」


 ほぇ? マジ?


「しかし、どんな物を贈っても、話すきっかけを作ろうとしてもベラ余には振り向かん! それでも余の気持ちは止まらんかったのだ!! 致し方あるまい!!」


 ただベラが良い体してるから下心だけかと思ったら衝撃の事実じゃん。

 私とアリアが唖然とし、護衛兵が頭を抱えていると、腰を抜かしたリフデ王子は立ち上がり、腰に手をあてて胸を張って、宣言する。


「余の婚約者となれ、ベラ!! これは命令じゃ!!」


 おぉ〜、愛の告白だーっ!!

 まさかこんなことになるとは思わなかったーっ!!


 ベラは王子に近づき目の前に立つ。

 そして――。


「お黙りぃ、変態さん」


 思いっきりリフデ王子にビンタした。

 闘気を纏っていないのが、少しばかりの優しさに見える。


 それでも王子は吹き飛び、地面へと倒れた。


「リフデ王子ーっ!!」


 護衛兵はリフデ王子への元へと走り、その身を抱える。

 何て打たれ弱さ……この国の未来が心配になってくるよ……。


「ふんっ!!」


 ベラは怒りながら、その場を去って行った。

 まぁ、無理もないよね……愛の形が一方的過ぎるもん。


「ベラ……余は……余は諦めんからなーっ!!」


 体は打たれ弱いけど、心は打たれ強い。

 ベラのことが好きなリフデ王子は、ただの変態じゃなかった――。



*****



 一方その頃――ブレアはエマを連れ出し、訓練所で模擬戦を何度も行っていた。

 エマはブレアにずっと付き合わされてたのか、へとへとの状態で座っている。


「ブレア、もういいんじゃないのかい? もう面倒だよ」


「立て、エマ!! まだやるぞ!!」


 ブレアはギザ歯を剥き出しにし、鼻息を荒くしている。

 疲れているエマと同じく汗だくではあるが、まだまだやる気満々だ。


「うるせぇ!! あたいの価値はガキの頃から強さしかねぇんだ!! 誰にも負けないために強くならなきゃいけねぇんだよ!!」


「……あんた……」


 ブレアをそこまで追いこんでいたのは――仲間であるはずのヒメナだ。

 強くなって帰って来て、【闘気砲】で黒竜セイブルを倒したヒメナを見て、自身の強さに疑いを持ったからである。


「あたいだって、もっと……もっと強くなれる!!」


 ヒメナをライバル視し、闘争心を燃やすブレア。

 そんなブレアを見て、エマはゆっくりと立ち上がった。


「仕方ないねぇ、面倒だけど付き合ってやるさ」


 こうしてブレアとエマは、ベラが王子からの贈り物を全て壊そうとしているのを私とアリアが止めている間に、研鑽を積んでいたのである。

何となく面白そうなど、少しでも思ってくださった方は、画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると幸いです。

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皆様が応援してくれることが執筆の原動力と自信にも繋がりますので、何卒よろしくお願いします。

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