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五十五話 ヒメナの目覚め

「!?」


 私は【闘気砲】を放ちながら、自分の体の変化に気付く。


 私の体に起きた変化――それは呼吸をすると私の体内のマナが増えたことだった。


 何これ……?

 私、もしかして大気のマナを自分のモノにしてるの……?


 私はアリアに王都から追放され、ポワンとルグレの元に休みなく闘気を纏って走った時のことをふいに思い出した。

 あの時は無我夢中で気付かなかったけど、私は大気からマナを取り入れていた気がする。


 私は大きく息を吸い、大気のマナを吸いこんだ。

 体内のマナが溢れる程満ちた私は、そのマナを闘気へと全て変換する。


 力が……マナが大気から溢れるように入って来る……!

 これなら……!!



「破ああぁぁ!!」



 私の【闘気砲】の威力は増す。

 そして、やがて黒竜のブレスを押し返し始め――。


「一体、何がああぁぁ!?」


 レインの悲鳴と共にブレスを押し返し、闘気の閃光が黒竜セイブルを包みこんだ。


 地上から空を射抜くような光。

 雲を貫き、遥か天まで昇っていく。

 雨雲を無理やり押しのけて、さっきまで降っていた雨が嘘のように、快晴へと変わる。



 闘気の光線が消えた先では――黒竜は消滅していた。



「やった……の……?」


 実感はないけど、黒竜はもういない。

 残っているのは、煙を吹く義手から伝わる熱だけ。


 黒竜セイブルがいなくなり、王都を攻め込んでいた飛竜達は目的を失ったのか、どこかへと帰るように飛散していく。


 フローラの言う通り、飛竜がどっかに飛んでいっちゃった……。

 ってことは、やっぱり私が……あのブレスに撃ち勝ったんだ。



 ずっと弱くて、奪われてばかりだった私が――守れたんだ。



「やった……やったよ!! ブレア、フェデルタさん!! 勝ったよ、私達!!」


 二人は本当に私が撃ち勝つと思っていなかったのか、唖然としてびしょ濡れの私を見ていた。


「ほぇ……?」


 二人は全然喜んでないや。

 王都を救ったんだよ、私達。


「そう……ですね……あなた……一体何者ですか……?」


「何者って……ヒメナですけど?」


「そうじゃなくって……!!」


 フェデルタさんに何故か責められてるけど何で?


 私はこの時フェデルタさんと話していて、気付かなかった。


「あたいが……ヒメナより劣ってるってのか……?」


 ブレアのそんな呟きと、黒竜から飛び降りていた二つの影に――。



*****



「いやー、困った困ったー。他の四帝と違って戦闘は苦手なんだよねー。やっぱり僕は研究施設で実験してる方が向いてるやー。闘気を纏うのもしんどいしさー」


「ルシェルシュ様……申し訳ありませぬ……」


 黒竜から闘気を纏って飛び降りた影の正体は、レインを抱えたルシェルシュであった。

 ヒメナの【闘気砲】に黒竜セイブルが撃ち負けると分かった瞬間、セイブルの鱗を一枚剥がし、レインの首根っこを掴んで王都の外へと飛び降りたのだ。


「戦闘が苦手なのは痺れないね。これだけの規模の攻撃なら四帝の誰かが来てるんだろうと思ったけど、外れを引いちゃったかな?」


 そんなルシェルシュの前に現れたのはロランだ。

 ロランは王都を守らず、王都襲撃の件に四帝が関わってると読んで、探していたのだ。


「……あらら、見つかっちゃったー。このまま見逃してくれたりしないー?」


「僕はそれでもいいんだけどさ、四帝の一人を殺したとなれば僕の地位はより安泰となるからね。どうしようかな?」


「そっかー……なら、仕方ないねー」


 ロランにはるかに戦闘能力が劣るルシェルシュは諦める様子はなく、自身が手に持つセイブルの鱗を地面へと付けた。


「魔技【リヴァイブ】」


 地面にセイブルの鱗を付けた部分から、まるで何かが生まれるかのように生えてくる。


「!?」


 その正体に、ロランは驚きを隠せなかった。

 それもそうだろう。


 先程、ヒメナと【闘気砲】によって消滅したはずのセイブルが、ゾンビと化して蘇ったのだから。


「じゃーねー」


「失礼するのじゃ」


 そう言って一枚の鱗からセイブルを蘇らしたルシェルシュは、レインと共にその背に乗り飛び立っていく。

 ロランはただただ、その姿を目で追うことしかできなかった。


「黒竜が相手なら少しは痺れそうだったのになぁ。向こうにやる気がなきゃ……つまらないや」


 そう残念そうに呟いたロランは、王都へと戻るのであった――。



 一方、ゾンビ化した黒竜のセイブルに乗るルシェルシュは疲れたかのようにため息を吐く。


「歌姫は捕らえられなかったけど、とっても大きい収穫はあったからいいやー」


 アリアを捕えることが本来の目的であり、それは失敗に終わった。

 しかし、ルシェルシュは実に満足そうに笑っている。

 これが意味するのは一体何なのだろうか――それはルシェルシュ以外誰も知る由がなかった。

何となく面白そうなど、少しでも思ってくださった方は、画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると幸いです。

感想を頂けたりSNSなどで広めて頂けると、作者は更に喜びます。


皆様が応援してくれることが執筆の原動力と自信にも繋がりますので、何卒よろしくお願いします。

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