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五十四話 打倒、黒竜セイブル

 私とフェデルタさんと何故か付いてきたブレアは、王都を出て街道近くの草原へと出る。

 ここならブレスを吐かれたとしても被害は出ない。絶好の場所だ。


「おい、ヒメナ! フェデルタ連れ出して、何する気だ!?」


「いや、ブレアこそ何でついて来るの!?」


「っせーよ、バーカ! お前らがコソコソしてっからじゃねぇか!!」


 もう……仕方ないなぁ……。

 作戦内容を話せば、流石にブレアも引いてくれるでしょ。


「次に黒竜がブレスを王都に向けて放とうとした時、フェデルタさんに【注目】の魔法を使ってもらうの。王都への被害を防ぐためにね」


「んなことしたら、フェデルタが死ぬじゃねーか。まぁ別にいいけどよ。なら何でヒメナがここにいんだ?」


「フローラに作ってもらった魔法具の義手の【闘気砲】で……フェデルタさんを狙う黒竜のブレスと真正面から撃ち合う」


「あぁ!? バーカ!! あんな強烈なブレスに勝てる訳ねぇだろ!! 止めろ止めろ!!」


 ブレアは信じられないといった様子で、私に怒鳴り出す。

 私もブレアが同じことをしようとすれば、きっと止めるだろう。


「大丈夫だよ。何とかなるっていうか、何とかするから」


 ただの虚勢だ。


 モルテさんとの模擬戦の後に戦闘もした。

 消費した私の体内のマナは、もう残り少ない。

 さっき義手から放った闘気から考えても、残り一回しか【闘気砲】は撃てないだろうな……。


 【闘気砲】であのブレスに撃ち勝てる保証なんて全然ないけど……私はアリアが大切にしようとしてるモノを守りたいんだ。


「……だったら、あたいもここに残んぜ」


「ブレア!?」


「要は正面から撃ち合ってあのブレスに勝ちゃいんだろ? あたいがやってやんぜ!!」


 ブレアは鼻息をふんっと吐きながら、今いる場所に金槌を地につけて仁王立ちする。

 どうあっても動かなさそう。


「もう……どうなっても知らないよ」


 一度決めたことは頑として譲らないブレアと論じても無駄だ。

 絶対に折れないもん。


「私だけ囮にすることは考えなかったのですか?」


「ほぇ?」


 ブレアに呆れてる私に、フェデルタさんは話しかけてきた。


「私がここで【注目】でブレスを引きつけている間に、ヒメナさんが別の所から【闘気砲】を撃つということです。そうすれば、あなたは死ぬかもしれないリスクを背負うことはないし、黒竜を倒せる確率も上がります」


 確かにそれも思い付きはしたんだけど……。


「そんなことしてフェデルタさんが死んじゃったら、私は私を許せなくなっちゃうもん」


 フェデルタさんは驚いたような顔をする。

 何でだろ?

 私変なこと言ったかな?


「ありがとうございます。やる気が出ました」


 フェデルタは自身のタワーシールドを構え、黒竜がいつブレスを吐いてもいいように、黒竜から視線を離さなくなった。



*****



 相も変わらず、上空から黒竜セイブルに乗って、上空から戦況を眺めるルシェルシュとレイン。


「あーもー、セイブルの左腕は切られちゃうしー、ブレスは何か変な感じになるしー、貴重な飛竜の数も減ってきたしー、歌姫は捕まらないしー、変な光線は飛んでくるしー、雨は降ってるしー」


「ルシェルシュ様……っ! 老体故、何卒お許しを……」


 目の前に座るレインの背中を蹴り続けるルシェルシュ。

 自分の思い通りにならないのが気に入らないのだろう。


「もう、王都の中心部にバーンとブレスを撃って終わらせちゃおうよー。歌姫が出てきたらセイブルで捕らえて、出てこなかったら退散ねー。これだけ成果上げたら、皇帝陛下も納得するでしょー。歌姫を最初に君が捕獲してたら何の憂いもなかったんだけどねー。またの機会でいいやー」


「も、申し訳ありませぬ……やるのじゃ、セイブル!」


 黒竜セイブルはブレスを王都の中心部に吐くため、大きく息を吸い込んだ――。



*****



 黒竜が大きく息を吸い込んだ瞬間を、注意深く観察していたフェデルタさんは見逃していなかった。


「来ます!!」


 フェデルタさんがそう叫んだと同時に、私とブレアはブレスを迎撃する準備を始める。


【注目】


 フェデルタさんは自身の魔法に反応した黒竜のセイブルは体をこちら側に向け、そして強烈な黒い光線を吐き出した。


「おらああぁぁ!!」


 そのブレスに対抗するためブレアは等身大程の氷を作り出し、自身の魔法具である金槌の頭の片側の口を変形させ、射出口が放つ火力を利用しコマのように回転し――。


「【ド級アイススパイク】!!」


 等身大程の氷をとてつもない威力で打ち飛ばす。

 大きな氷は飛びながらつららの形と変形し、黒竜のブレスへと向け加速していく。


 が、黒竜のブレスに何の影響も与えず、一瞬でつららは消滅した。


「ちっきしょぉが!!」


 ブレアが叫ぶ一方――私は集中していた。

 ブレスとのぶつかり合いに勝てなければ、私達三人は死ぬ。

 余力なんて残していられない……絶対に打ち勝つ!!


 丹田から義手の右手へとマナを集め、一気に闘気へと変える。


【闘気砲】


 私の闘気はフローラが作ってくれた義手から、光り輝く光線へと変わり、放たれた。


 光の光線と黒いブレスは次第に近付き、ぶつかる。

 その瞬間、私は反動で構えていた足が後ろへと引きずられた。

 雨で濡れた地面も相まって滑るため、私自身も闘気を纏って堪える。


 まるで、腕相撲をするかのような力比べ。


 私も……多分相手の黒竜セイブルも思っただろう。

 この力比べに負ければ、死ぬと。


 しかし、相手は神話に出てくるドラゴンのような黒竜。

 マナ量で言えば私ははるかに劣る。

 当然の結果なのか、私の光線は黒い光線に徐々に押されつつあった。


「くそおぉぉ!!」


 私はマナが枯渇しかける程、闘気を纏って踏ん張る力を作り、更に【闘気砲】の出力を上げる。

 しかし、それでも均衡を保つには至らない。


 このままじゃ……負けちゃう!

 私だけじゃなくて、ブレアもフェデルタさんも死んじゃう!!

 そしたらもう……王都を守る術はきっとない!

 アリアの大切なモノを……守れなくないなんて嫌だ!!


 絶対に負けられない……!!


「負けてたまるかあぁぁ!!」


 アリアの大切なモノを絶対に守る。

 私のその想いに応じるかのように――私の体に変化が起きた。

何となく面白そうなど、少しでも思ってくださった方は、画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると幸いです。

感想を頂けたりSNSなどで広めて頂けると、作者は更に喜びます。


皆様が応援してくれることが執筆の原動力と自信にも繋がりますので、何卒よろしくお願いします。

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