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四十七話 モルテとの模擬戦

 翌日――。

 今日のアリアのお世話はルーナとベラが担当するらしく、フローラはブレアの魔法具の修理と私の魔法具の開発をしていて、エマは王城の外へと用があるみたい。


 ボースハイト王城の敷地には、どうやら騎士だけが使える訓練所があるらしい。

 私は馴染まない黒いメイド服とカチューシャを纏って、ロランに呼び出されたため、ブレアに案内してもらうことにした。


「何であたいがお前を案内しなくちゃいけないんだよ!?」


「あんたしか暇人いなかったら仕方ないじゃない!!」


「昔と何も変わってねーな、お前!!」


「あんたも生意気なままね!!」


 二人で喧嘩をしながら、訓練所へと向かう。

 ブレアがほとんど成長してないせいか、ブレアだけは五年ぶりに会った気がしない。

 昔からのやりとりだ。


「ほらっ! ここだ、ここ!」


 訓練所は魔法が外に飛び火しないようにか、高く厚い壁で隔たれている。

 中へと入って長い通路を出ると、円形状の景色が広がっていた。


「ちぇっ! 気にいらねぇヤツらがいやがるぜっ!!」


「ほぇ?」


 既に訓練所はどこかの騎士団に使用されており、どうやら行軍の訓練をしているようだ。


「回れー、右!!」


「「「一、二!!」」」


 凄い綺麗に揃ってるや。

 何十人もいるのに一人としてズレを感じない。

 鎧の色も揃ってて、まるで芸術品のような美しさだ。

 けど、あれって――。


「白犬騎士団のバカ共、戦闘に何の意味ねぇことしやがって! あんなのいつ使うんだよ!!」


 だよねー。

 ブレアと意見が同じのは気に入らないけど、私もあれが戦闘の何の役に立つのか分かんないや。


「ぎゃははは! 同感だぜ、ちっこいの!!」


 後ろから燃えるような赤髪を逆立たせた人が、大らかに笑いながら話しかけてきた。


「誰がチビだこら!? って、てめぇは……赤鳥騎士団団長のモルテ!!」


「お、俺のこと知ってんのか? って、げぇ〜。お前らロランの部下のなんたら隊じゃねぇかよ!!」


 なんたら隊って何一つ覚えてないじゃん。

 何か豪快な人だなぁ。


 でも……この人のマナ量、ポワンには遠く及ばないけど、アッシュやカニバルやロランより多い……?


「あの……強いですね」


 マナ量の多さにびっくりした私は、思わず話しかけてしまう。


「ぎゃははは! ったりめーよ!! これでも騎士団の団長だかんな!! あっこにいる白いワン公と一緒にすんじゃねーっての!!」


 白いワン公って号令を出してる、いかにも騎士って感じの頭固そうな髭のおじさんのことかな?

 確かに紫狼騎士団の副団長のフェデルタさんとかよりかは強そうだけど、ロランやモルテさんよりかは大分劣りそう。


「では、今日の訓練はここまでであーる!! 各自復習しておくように!! では、解散!!」


 白いワン公と称された白犬騎士団の団長は訓練を終え、こちらへと向かってくる。

 訓練所に出入りできる通路はここだけだから、帰るつもりなのかな?


「赤鳥の! こんな所で何しておるであるか!? 盗み見とは趣味が悪いであーる!!」


「あぁ? てめぇらのクソほど意味もねー行軍訓練なんか興味もわかねーよ。ロランの野郎に借り返せって言われて、呼び出されただけだっつーの」


「意味もない訓練であるだと!? 突撃の命令しか出せず悪戯に兵を減らす貴様と、某を同じと思うなであーる!! 某は貴様と違って戦争は個の力ではなく、全の力と考えてるであーる!! 行軍の訓練はその力を――」


「あー、はいはい。わかったからとっとと失せろ。こちとらロランの野郎とこれから会わなきゃいけねーってんで機嫌悪ぃんだよ。いつまでもキャンキャン鳴いてっと、ぶっ殺すぞ」


 騎士団長同士出会っていきなり口喧嘩しだしたけど、仲悪過ぎでしょ。

 ぶっ殺すって怖っ!


「まぁまぁ、モルテさんもアールさんも落ち着いて下さいよ」


 私達の背後から遅れてやって来たロランが、モルテさんと白犬騎士団団長のアールさんの仲裁に入った。


「ぬぬっ、ロラン殿」


「あん?」


 二人の間に入り、アールさんの方を向くロラン。


「貴殿のような利口なお方が、モルテさんの相手をすることはありませんよ。個より全の力、僕は素晴らしい考えだと思います」


「ふふ……それもそうであーるな! ロラン殿に感謝するが良い、モルテ!!」


 ロランの言葉に満足気なアールさんは捨て台詞を吐いて、白犬騎士団の人達を引き連れて訓練所を後にしていく。


 この人達……体内のマナ量も大したことないし、一人一人は弱いな。 

 アールさんが連れてきた白犬騎士団の人達は、新人の人達なのかな?


「けっ! 重役から気に入られてるロランにはその態度かよ。忠犬のワン公がよぉ」


「モルテさんこそ狂犬じゃないですか。いっそ騎士団の名称交換してみては?」


「っせぇんだよ、ロラン!! 何でこんな所に俺を呼び出したんだよ!? 借りつっても一年半前くらいのアレだろ!? 逐一覚えてやがって! うぜぇったらねぇや!!」


「あははっ、記憶力良いんですよ。特に貸しのことに関しては忘れることはありません。借りは忘れますけどね」


 騎士団長同士って皆仲悪いの?

 っていうより、モルテさんが喧嘩っ早いのかな?

 にしても、ロランはやっぱり性格悪ぅ。

 人によって態度変えてんだ。


「ここに二人を呼び出したのは、二人に模擬戦をしてもらいたいからです」


「あ?」

「ほぇ?」


 模擬戦って……どういうこと?



*****



 疑問が残るまま、私とモルテさんは訓練所の中央で対峙した。

 ロランとブレアは壁際に立って、見学しようとしている。


 私がどうすればいいのか戸惑っていると、モルテさんが私の顔を覗き込んでくる。


「てめぇってあれだろ? 冥土隊とかいうやつ。見たこともねー顔だけど、新顔か?」


「えっと……ヒメナって言います。まぁ、そういうことになるのかな?」


 昔から皆とは一緒だったけど、冥土隊に入ったのは最近だもんねー。


「……つーこった、もしかして俺はお前の実力を見るために当て馬ってやつにされたってことか?」


「ほぇ?」


 あー、なるほど。

 確かにロランの前で闘ってないから、私の実力ロランはわかんないもんね。

 それにしても、相手が騎士団団長は流石に荷が重いんだけど……。


「俺は赤鳥騎士団団長、モルテ・フェリックス……鳥頭って言われんのは光栄だけどよぉ……当て馬だと!? ふざけんな!! 俺は鳥だって言ってんだろーが!!」


 怒るのそこ!?

 普通は当て馬にされたことを怒らない!?

 ほえぇ〜、何なのこの人!?

何となく面白そうなど、少しでも思ってくださった方は、画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると幸いです。

感想を頂けたりSNSなどで広めて頂けると、作者は更に喜びます。


皆様が応援してくれることが執筆の原動力と自信にも繋がりますので、何卒よろしくお願いします。

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