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四十二話 アリアとの再会

 アリアはヒメナと出会えた喜びより、動揺が強かった。

 自分が追い出し、いないはずの親友が急に現れて窮地を救ったからだ。


「……嘘……本当にヒメナ……? 何で……?」


「話は後、今はあいつをどうにかしないとね」


 突如現れたヒメナの存在に、アッシュは脅威とは思わないまでも、警戒心を抱かずにはいられなかった。


 魔法や魔技が追求される現代――闘技は闘気を扱える者なら誰にでも習得できるが、時間がかかるため闘技を学ぶ者はほとんどいない。

 そんな中、洗練された闘技を受けたことで、曲者だろうと認識した。


「もう一度問う、何者だ?」


「何者……? 忘れたとは言わせないわよ……」


「貴様のような相手、我が忘れるとは思えぬがな」


 アッシュはどこかで会ったかと思い出そうとするが、自身の記憶にはないと言った様子だ。


「私のこと……覚えてないの……?」


 そんなアッシュにヒメナは怒りを覚える。

 五年半前の出来事は、あの時の自分にとって全てを奪われた事柄。

 そのことを奪った張本人が覚えてすらいないのだから、当然だろう。


「エミリー先生を殺して、私の右手を切り落としたくせに!!」


【瞬歩】


「!!」


 ヒメナはアリアをその場に立たせ、アッシュとの距離を【瞬歩】で一気に詰める。

 

【螺旋手】


 そして、一撃で仕留めるために、貫手による闘技【螺旋手】を放ったが、既にアッシュはそこにはいなかった。


「闘技を使えるのが自身だけと考え、驕ったか?」


 アッシュも【瞬歩】を使い、ヒメナの背後に回って剣を抜き、そのまま斬った。


「!?」


 しかし、斬ったモノはヒメナではなく、残像である。

 ヒメナの本体は既にアッシュの間合いから離脱し、戦闘態勢を整えていた。


「驕ってるのは、炎帝とか呼ばれてるあんたじゃないの?」


「【瞬歩】と同時に残像を残すとはな……」


 ヒメナが使った、闘技は【残影】。

 高速移動する【瞬歩】の応用技の闘技であり、自身の闘気を残して高速移動する事で、残像を残す高等技術である。


「思い出したぞ……その才。元剣帝エミリー・シュヴェールトを殺した時に、闘気を纏って飛び込んで来た子供か。よもや、これ程強くなっているとはな」


「世界一強くて最低な師匠に鍛えられたからね、強くもなるわよ」


「世界一……だと? 其方、まさか――」


「「「ヒメナ!! アリア!!」」」


 ヒメナに遅れてベラとエマ、そして一度アッシュに敗れて気を失っていたルーナが追い付いて来た。

 ベラとエマはヒメナの隣に立ち、ルーナは庇うようにアリアの前に立った。


「歌姫を守護する冥土隊か……中々に侮れんかもしれぬな」


 アッシュは剣を収め、撤退する準備を始める。

 全軍撤退命令を出した今、敵軍の真っ只中に孤立無援の状態であり、ルーナが援護に来たことやベラとエマがここにいるという事実は、自身が連れてきた精鋭も敗れたと考えてもよいからだ。


「よかろう、此度は退いてやる。ヒメナと言ったか? 貴様の残された片腕、次に会った時に斬り落としてくれよう」


「それはこっちの台詞よ。次は命があるとは思わないことね」


 アッシュはヒメナに捨て台詞を吐いて、退いて行った。

 ヒメナはすぐにでも追って、アッシュを逃がしたくない気持ちではあったが、堪える。


「アリア、元気だった?」


 そんなことよりも、もっと大切なことがあったからだ。


「……ヒメナ……どうして……どうして戻って来たの……? 私……あんな酷いこと言ったのに……」


 失明しているアリアは手を伸ばして、五年前に突き放したヒメナを手探りで探す。

 ヒメナはそんなアリアを正面から優しく抱きしめた。


「どうしてって親友だからに決まってるじゃん。親友だって喧嘩したり、仲直りしたり……そういうもんでしょ?」


「ヒメ……ナ……」


 アリアの失明し、閉じたままの目から涙が溢れだす。


「ごめんなさい……私、あの時あんな酷いこと言って……!!」


「私のことを想ってだって分かってるから大丈夫だよ」


「ずっと……ずっとヒメナに会いたかった……!!」


「……私もだよ、アリア」


 アリアはヒメナを強く抱きしめる。

 ヒメナも同様に華奢なアリアの体を壊してしまわない程度に抱きしめた。


「ヒメナアアァァ!!」


 アリアがヒメナの名前を叫んだ時、ヒメナの目からも涙が溢れ出し、夜が明け、朝陽がその涙を照らす。

 二人の五年越しの再会に涙を流す者はいても、誰一人水をさす者はいなかった。

何となく面白そうなど、少しでも思ってくださった方は、画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると幸いです。

感想を頂けたりSNSなどで広めて頂けると、作者は更に喜びます。


皆様が応援してくれることが執筆の原動力と自信にも繋がりますので、何卒よろしくお願いします。

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