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三十五話 ルグレの誘い

 ポワン達と出会って五年――。

 アフェクシーの村が滅び、ヴェデレさんと別れてから一年が経った。


 アフェクシーの村には慰霊碑としては小かったけど、ヴェデレさんとルグレと三人で皆のお墓を建てた。

 まさか……そこにジャンティも入ることになるなんて、誰も思ってもいなかったけど。


 ジャンティが自殺した理由は何も分からない。

 きっとフリーエンに乱暴されたことが原因だろうって、ヴェルデさんは言ってたけど、真相はジャンティ本人にしか分からない。


 ヴェデレさんはジャンティを養うつもりだったけど、ジャンティは死んでしまった。

 それでも仕事の当てがないからって、帝都に戻って行っちゃった。


 最後の別れもヴェデレさんらしく、あっさりしてたから感傷も何もなかったなぁ……何かまたいつか会えそうな気もするし。


「はああぁぁ!!」


 私とルグレは組み手の真っ最中だ。

 互いに闘気を纏い、闘技を扱う。

 一年前と比べても、その練度は自分でも分かるくらい違っていた。


 私のマナ制御の精度は遂にルグレを超え、闘技も指を動かす程簡単に使える程になっていた。


「……うっ……!!」


 私の打撃を受け、尻餅をつくルグレ。

 勝機と見て私は空中に跳び、車輪のように高速に回転をし始める。


「闘技【断絶脚】!!」


 【断絶脚】は闘気を纏い、回転をつけて勢いを増した踵落とし。

 技の前後に隙が出来る闘技ではあるが、当たれば一撃必殺で、斧のように真っ二つに人体を切り裂く。


「そこまでなのじゃ!!」


 もちろん、ルグレを真っ二つにするつもりはないから、ポワンの掛け声と共にルグレの顔の前で寸止めをした。


「へっへーん、また私の勝ちだね! ルグレ!!」


「……そうだね。ヒメナ、本当に強くなったよ」


 勝った私はルグレに手を貸し、起こした。


 最近は私が勝つのがお馴染みになっている。

 というのも、一年前のアフェクシーが無くなってから、闘う時のルグレのマナには迷いみたいなのがあるからだ。

 どうしてもそれがマナ制御を乱し、闘気の発生を鈍らせているんだと思う。


「……ルグレ、大丈夫?」


「大丈夫って何が? 怪我はしてないよ」


「……そうじゃなくて……何か手伝えることがあったらいつでも言ってね!」


「……うん、ありがとう。ヒメナ」


 心配をかけまいとルグレは微笑んだ。

 もし出来ることがあったら、手伝ってあげたいんだけど……いつもルグレは自分の内に秘めちゃう。

 私には何もできないや……話してくれたらいいのに……。


「駄目じゃの、こりゃ」


「すみません、師匠……不甲斐なくて」


「お前のことだけじゃない、そこの小娘のことも言っておる」


「ほぇ!? 私も!?」


 フリーエンとの闘いから、このままじゃ駄目だって思って頑張って来たけど、やっぱりポワンから見たら全然強くないのかなぁ……ルグレに組手で負けなくなったし、大分強くなったと思ったんだけど。


「よし。小娘、ルグレ」


「どうでもいいけど、小娘って呼ぶのいい加減やめてくんない? 五年も一緒にいて、ポワン一回も私のこと名前で呼んだことないよね」


 岩の上でつまらなさそうに私達を見ていたポワンは立ち上がり、私よりはるかに小さい胸を張った。


「そう、丁度明日で五年じゃ。お主らに免許皆伝の最終試練を行う」


「俺もですか!?」


「ほぇ!? 免許皆伝とかあったの!? 初めて聞いたんだけど!?」


「いんや。別にないんじゃが、何かかっこいいから言ってみただけなのじゃ!!」


「ないんかい!!」


 私が突っ込むと、ポワンは高らかに笑う。

 しばらく笑った後、その笑顔は神妙な面持ちへと変わる。


「明日でお主らはそれぞれの目的のために別れることとなる。積もる話もあろうて。明日に備えて休んでおくのじゃ」


 ルグレに助けられてから、魔法が無い私がポワンに弟子入りしてから 五年も続いた修行の終わり――感慨深いモノがあった。


 ほとんどの日は限界まで身体と精神を追い込んだし、アリアの所へ強くなるまで戻れないというもどかしさもずっとあった。

 だけど、ポワンのおかげで私は確実に強くなった。

 アッシュやカニバルやロランにはまだ敵わないかもしれない。

 それでも、今なら自信をもってアリア達の元へ帰れる。


「……ポワン」


「ぬ?」


「「今までありがとうございました!!」」


 ポワンに返せるものはこんなモノしかないけれど、私とルグレは気持ち一杯を込めて一礼をした。


「阿呆。明日にはその想いは変わっているのじゃぞ」


 意味深な言葉を残したポワンは、何処かへと去って行った。



*****



 ポワンに自由な時間をもらった私とルグレは、アフェクシーの慰霊碑に向かった。

 黙祷を捧げ、死者の魂を敬う。

 明日にはボースハイト王国に戻る私にとっては最後の黙祷となるだろうから、一人一人の顔を思い出しながらの長い黙祷となった。


 先に黙祷を終えた私が隣のルグレを見ると、まだ黙祷を捧げていたので、私はそれが終わるまでゆっくりと待った。

 ルグレも黙祷を終えたのか、広い空をしばらく眺め、私もつられるかのように空を見た。

 きっと明日が良い日になると言わんばかりの、綺麗な快晴の青空だった。


「ヒメナ」


「ほぇ?」


「俺と師匠と一緒に帝都に行かないかい?」


「帝都? 私が?」


 意外な提案だった。

 ルグレは私が王国にいるアリアの元に戻りたいために強くなろうとしていたことを知っていたから。


「でも私、ボースハイト王国に戻らないと……」


「それを分かった上で頼んでるんだ。勝手だっていうのは分かっているよ。付いて来てくれないなら……詳しくは話せないけど、俺は父さんを止めたいんだ。ヒメナみたいに……強くて優しくて賢い子が近くにいてくれれば、俺はもっと頑張れるかもしれない。だから……」


 ルグレのお父さんがどんな人で、帝都に行って何するかとかは付いて来てくれないと教えれないってことだけど、何かおっきいことをするんだろうな。


 私にとってルグレの提案は、魅力的でもあった。

 何をするかはわからないけど、世界一強いポワンがいて、その……何て言うか……私が好きなルグレの側にいれるし……。

 場所が変わるだけで、この五年間とやっていくことはそんなに変わらないかもしれないんだから。


 それに私はアリアにあんなことを言われて、別れたんだ。


『これから邪魔になるって言ってるの。私には皆が付いてるから安心して王都から出てって』

『さよなら、ヒメナ』


 私が強くなってアリアの元に戻っても、また突き放されるかもしれない。

 五年も経っちゃって私のことなんか忘れちゃってるかもしれない。

 そしたら、私はどうすればいいか分からなくなっちゃう……。



 それでも私は――。



「ごめん、ルグレ」


『ヒメナ、ずっと私の側にいてね』

『うん、アリアも私に愛想つかさないでよ』


 アリアと約束したんだ。

 ずっと側にいてって。ずっと側にいるって。

 そんなアリアが本心から私を突き放したとは、どうしても思えてなかったんだ。


「大切な親友が……強くなった私を待ってるんだ」


 私は戻る……アリアの元へ。

 そのために、強くなったんだから。

 ルグレの誘いを断りたくはなかったんだけどね。


「そっ……か、振られちゃったな」


「別に……振ったって訳じゃないんだけど……」


 私は勇気を出して左隣にいるルグレの手を握った。

 ルグレはそんな私の手を握り返してくれた。


「また、必ず生きて再会しよう」


「うん、ルグレも変わらず元気でいてね」


 アフェクシーの慰霊碑の前で、青空を眺めながら約束した。

 お墓の中にいるジャンティに少し申し訳なさがあったけど、これくらいならいいよね?



*****



 翌日の朝――私達はポワンに連れられ、少し離れた荒野へと移動した。

 少しと言っても、山四つ分は越えたけどね。


 辺り一面には何も無く、だだっ広い。

 いつも山とか洞窟にいたから、何か違和感を感じるなぁ。


「よくぞワシの修行に耐え切ったな。小娘は五年、ルグレに至っては七年程か」


「もう……そんなになるんですね……」


 ポワンに褒められ感慨深くなるルグレ、それは私だって同じだ。

 だって、長い間大変だったんだもん。


「ワシからお主らへの最期の試練なのじゃ、心してかかれ」


 私達三人の関係性はもう簡単なものじゃない。

 ポワンは師匠で、ルグレは兄弟子だけど、共に過ごした期間が長かったからか、アリア達との関係にも似た家族に近い存在だ。


「今からお主ら二人で――」


 そんな感情を抱いていた私に、ポワンは付きつける。



「殺し合え」



 私達にとって最悪な、最期の試練を――。

何となく面白そうなど、少しでも思ってくださった方は、画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると幸いです。

感想を頂けたりSNSなどで広めて頂けると、作者は更に喜びます。


皆様が応援してくれることが執筆の原動力と自信にも繋がりますので、何卒よろしくお願いします。

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