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三十二話 奪回とその後

 フリーエンのアジトを出た私達は、取り戻した馬車に奪われた物資を乗せて、村へと戻る。

 アフェクシーに戻ると、私達が盗賊に負けた時の報復を恐れていたのか、皆は農具などで武装して警戒していた。


「私達だよ!! 大丈夫!!」


 私は馬車の中から顔を出し大声を上げて左手を振ると、ジャンティが私達に気付く。


「ルグレ!! ヒメナ!!」


 ルグレが御者をする馬車でアフェクシー内に入ると、皆は歓声を上げて歓迎してくれた。

 私達が奪われたものを取り返して帰って来たということは、盗賊に勝ったということを分かっているんだろう。


「怪我はない!?」


「ヒメナがほんの少し……ヴェデレ先生!!」


 ルグレがヴェデレさんを呼ぶ。

 ただのかすり傷だから大丈夫なんだけど……ルグレが心配してるし、念の為診てもらおかな。


「ヒメナ、診せてみろーい。いいか?」


「うん。ありがとう、ヴェデレさん」


 私が診察を承諾すると、ヴェデレさんの目が青く光る。

 どうやら魔法で私の体内を【診断】しているみたい。


 ヴェデレさんの診察を受けるのは初めてだけど、これで私の症状とか分かるんだ……やっぱり魔法って便利で良いなぁ。


「……っ……!? ヒメナ……お前っ……!!」


 魔法に憧れていた私を【診断】していたヴェデレさんは、驚いて凄い顔をしている。


「え、何!?」


 いつも冷静なヴェデレさんがこんなに驚く顔見たことない……私の体に何かあったの!?

 まさか……毒とか!?


「…………いや……何でもないわーな……いたって健康体だ!!」


「何なのよ!? こんな時くらい冗談はやめてよ!!」


「はいはーい、悪うござんしたってーな」


 怒っている私をヴェデレさんはあしらって軽い手当をし、ルグレとジャンティの元へと向かう。


「ヒメナは大丈夫だーい。心配すんな」


「良かった……ありがとうございます。ヴェデレ先生」


「……んーでだ。ルグレ、盗賊のヤツらはどうしたんだ?」


 どうしたって、私達が生きて帰って来れたってことはそういうことじゃない。

 何言ってんだろ、ヴェデレさん。


「ヒメナと俺で倒しました。あれだけやれば、彼らはもう来ませんよ」


「そーかい……」


 ヴェデレさんは何かを考えながら、自分の診療所へと戻って行った。

 私達が勝ったんだから、少しは喜んでくれたって良いのにさ。


「今夜は宴だ宴!! ルグレとポワンも勿論参加するよな!?」


 盗賊から襲われないと分かったからか、アフェクシーはお祭り気分だ。


「いえ、俺達は師匠に報告しなければなりませんし……師匠の晩御飯も作らないといけないですしね……」


「ポワンなんて放っとけば良いじゃん。何にもしてないんだから」


「そういう訳には行かないよ。師匠は放っとけば生肉食べかねないんだから」


 確かに……私とルグレが三日三晩、飲まず食わずで瞑想させられた時、その間に熊を狩って、火を起こすのが面倒だからって生肉をそのまま食べてたなぁ……。


「ルグレ、ヒメナ、ありがとう……本当に。どうやってこの恩を返せば良いかわからないわ」


「俺達、友達だろう? 困った時は助け合おう」


「……うん、そうだね!」


 ルグレに友達と言われ、ジャンティの顔は少し曇るも、誰にも悟られないようにすぐに元気に装っているように見えた。


「美味しいアップルパイまた食べさせてくれたら十分だよ! ポワンに内緒でルグレと私の分サービスで多くしてくれたら尚更ね!」


 その手助けをする様に私はアップルパイをねだる。

 決して沢山食べたい訳じゃないよ?

 あくまで、ジャンティの手助けなんだから。


「じゃあ、俺達は帰ります」


「また何かあったらすぐ呼んでよね!」


 こうして、盗賊達を討伐した私達は帰路に向かうのであった――。



*****



 山へと帰った私達は、ルグレが作った晩御飯を食べながら、ポワンに今回の件の一部始終を話した。

 アフェクシーの皆が不安がっていたこと。

 フリーエン達を倒したこと。

 その一部始終を。


 私が抱いた力に対しての恐怖を振り払うために、武勇伝のように語る。

 ルグレはそんな私の内心をわかっていたのか、それとも別の悩みがあったのか、複雑そうな顔で見ていた。


「敵は元王国軍の兵士だった……とな」


「うん! それで私が盗賊の親玉をやっつけたの! ポワンが教えてくれた闘技、沢山役に立ったよ!!」


「そりゃ良かったの」


 いつもならポワンは褒められると上機嫌になるのに、この時は違った。

 ……何でだろう、ポワンの反応に何か違和感を感じる。


「……師匠。判断を全て俺達に委ねたのはどうしてですか? 俺達だけでも盗賊を倒せるからとふんだからですか?」


 ルグレの話を聞かず、ポワンはデザートにジャンティの宿屋のアップルパイを口一杯に頬張り――。


「今日は一段と甘いのじゃ」


 これ以上話すことはないと言わんばかりに、話を終わらせる。


 私はポワンの反応から感じる違和感の正体が分からずに考えていた。

 詳しく聞こうとしても有耶無耶にされちゃうし、考えたって答えが出るかも分からないんだけどさ。


「……ほぇ?」


 答えが出ないことを考えていると、いくつもの山向こうにあるアフェクシーの方角から煙が上がっていた。

 宴をするって言ってたから、キャンプファイヤーでもしてるのな?


「あれって……何か変じゃない?」


「確かに煙の量が異常だ」


 遠目からでも分かる。

 キャンプファイヤーと言うより、広範囲が燃えているかのような煙の量だ。


「ねぇ、ポワン!! あれって……!?」


 エミリー先生やアリア達と過ごしたアンファングの街が燃える景色。

 何故かそれを思い出してしまった。


「ワシは言ったじゃろうて。此度の件は全てお主らに任すとな」


 ポワンは相変わらず我関せずを貫いている。

 私達に協力する気は全く無さそうだ。

 しかも、ポワンの口ぶりから今回の一件は終わっていないとも聞こえる。


 アフェクシーに急いで行かないといけないのは間違いないけど、きっと何か良くないことが待っている。


「ルグレ、急いでアフェクシーに行こう!!」


「……ああ!!」


 私達は闘気を纏ってアフェクシーへと急ぐ。

 アフェクシーで今、何が起きているかは分からないけど、絶対に良いことじゃない。


 私とルグレが全力で走って、およそ十五分。

 たった十五分が永遠に感じてしまう程の焦燥感を感じていた。


「何……これ……」


「う、嘘だ……」


 アフェクシーに着くと、アフェクシーの村は見るも無残な姿となっていた。

 家屋は燃やされ、目に見える村人は殺されて放置されており、村中に異臭が放たれている。


「そんな……誰か……誰か生きてないの!?」


「……ジャンティ!! ……ジャンティとヴェデレ先生は……!?」


 私とルグレは修行をしてきたと言っても、色んなことに対しての経験値が浅く、目の前の地獄絵図に戸惑うことしか出来ない。

  

「まずは……まずは状況を確認しないと……!! ヒメナ!!」


 状況確認って、目の前の状況が全てじゃ……あ!!

 そうか、私には【探魔】があった!!

 死んだ人のマナは大気に溶けるから、生きてる人だけを探せるんだ!!


 動揺して意識を集中できない中、私は何とか【探魔】を発動する。

 今の私の【探魔】では村全体まではマナを探知出来ないけど、それでも近くの生存者が見つかるかも知れない。


 そんな一縷の願いが叶ったのか、一人だけ生存者らしきマナを感じた。


「このマナ……ヴェデレさんだ!!」


 私達はヴェデレさんのマナを感じた場所、村の診察所にまで行く。


「ヴェデレ先生、無事ですか!?」


 だけどそこにヴェデレさんはおらず、ルグレの問いかけには何の返答もない。


「マナを感じるのは、下だよ!!」


 返答がなくても、生きているのは間違いない。

 薬剤が並べられている棚の下、床の向こう側からヴェデレさんのマナを感じる。


「まさか、地下室?」


 薬剤が並べられている棚は簡単に動き、地面からは地下室へ繋がるであろう入り口が現れる。


 倉庫として使っているのだろうか?

 何のために作られたか分からない地下へと続く入口を開けて石畳の階段を下り、一人分しか通れないような狭い通路を通っていると――。


「!?」


 突如、誰かが通路の目の前の扉を開き、槍で私を突いてきた。

 訓練を受けた洗練されている攻撃でもなく、闘気すら纏われていない攻撃。


 全く予期はしていなかったけど、私はいとも簡単に左手で槍を掴んで、膝蹴りでへし折った。


「……なーんだ、お前らか」


「何だじゃないわよ!! いきなり襲って来ないでよ、ヴェデレ先生!!」


「……入れーや」


 私達は扉の向こう、ヴェデレさんが何かの時のために使っておいた地下室へと誘われた。

 誰かと勘違いして襲ってきたヴェデレ先生は憔悴しきっていて、今すぐ休ませたい気持ちはあるけど、そんな訳にもいかない。

 聞きたいことが沢山あるんだ。


「ヴェデレさん……一体、アフェクシーでなに何があったの?」


 ヴェデレさんは私の問いに、神妙な面持ちで語る。


「襲ってきたヤツらは、お前らがやっつけたって言ってた盗賊の一人だわーな。お前らに対する復讐か、物資が欲しかったのか、何なのかは分からんがーね」


「ヴェデレ先生は何で、こんな所に一人で……?」


「俺は闘気を扱える訳でも、魔法も戦闘向けでもないから、戦闘能力は皆無だかーよ。後方支援として帝国軍で働いてた頃はコソコソ生き残ってたんだーよ。この地下室も何かあった時の備えってやつで用意したって訳だわ」


「アフェクシーの他の人にはどうして教えなかったの!? ヴェデレさん以外の人も……助かったかもしれないじゃない!?」


「……人の口ってのは簡単に割れるもんさ。他の人間に教えれば、どう考えても俺が死ぬリスクが上がる。自分の身だけで精一杯だっつーの」


 ヴェデレさんの考えは決して間違ってはいない。

 メラニーのことも、私は経験していたから。

 けど、ひょっとしたら助かった命があったかもしれないと思ってしまったんだ。


 もう済んでしまったことは今更どうしようもないし、今私達がすることは、責め合ったり後悔することじゃない。

 私の【探魔】の範囲に引っ掛からなかった生存者がいるかもしれない今の状況で、こんな所でうだうだやってる暇はないんだ。

 

「ヴェデレ先生、生存者探すのに付いて来てくれませんか!? もし、怪我をしてる人がいたら先生の力が必要なんです!!俺達が側にいれば外に出ても安全ですから!!」


 ルグレも全く同じことを考えていたのか、半ば強引にヴェデレさんを連れて行き、私達は診療所を出る。


「誰か……誰かいませんか!? 生きている人がいれば返事をして下さい!!」


 ルグレが叫び、私は【探魔】で周囲のマナを調べる。

 アフェクシーでは至る所に死体が転がっており、【探魔】を阻害される程に大気にマナが充満していた。


「……っ……二人いた!!」


 それでも【探魔】で人間のマナを探していると、二人の生存者のマナが引っ掛かる。

 一人は良く見知ったマナだったから安心したけど、もう一人のマナに動揺させられる。


「……ジャンティと……フリーエン!?」


「「!?」」


 見つけたマナの正体にルグレとヴェデレさんも驚く。


「あっちの教会っ……二人だけ同じ所にいる!!」


 フリーエンの仲間に探知出来なかったことに引っかかりは感じたけど、私達三人は直様マナを感じた場所へと急いだ。

 今正に殺されようとしているかもしれないかもしれないからだ。

 小さい村の中では大きい教会に直ぐに着いた私達は、扉を蹴蹴飛ばして開け、ジャンティと共にいるであろうフリーエンとの戦闘に備える。


「フリーエン!!」


 ジャンティの命が危ないとしか考えていなかった私とルグレとっては、予想外の事態が目の前で起きていた。



 祈りを捧げる礼拝堂の祭壇の上――。



 そこで、ズボンを脱いだフリーエンは、半裸のジャンティに馬乗りになって、腰を振っていた。


 とてもじゃないけど、生殖行為には見えない。 

 顔を腫らし服を破られ、抵抗力を失ったジャンティに、何度も、何度も、何かの鬱憤を晴らすかのように腰を打ち付けていた――。

何となく面白そうなど、少しでも思ってくださった方は、画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると幸いです。

感想を頂けたりSNSなどで広めて頂けると、作者は更に喜びます。


皆様が応援してくれることが執筆の原動力と自信にも繋がりますので、何卒よろしくお願いします。

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