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二十九話 盗賊襲来

 ポワンとルグレと出会って四年が経った。

 私の体は確実に大人への階段を登っており、出るとこもそれなりに出てきている。


 マナ制御の修行を毎日欠かさず行ったおかげか、マナを闘気に変える効率や速度も良くなったし、闘技の扱いにも慣れてきた。

 自分でもかなり強くなっているという実感がある。


 ポワンが私を強くするために、言い渡した期間は五年。

 五年経てば自由にしろってポワンに言われたから、後一年だ。


 私は修行を終えたら、もちろんアリアの元へと帰るつもり。

 帰って迎え入れてくれるかは分からないし、ロランがどう出て来るかは分かんないんだけどね。


「――ほぇ? このマナは……」


 そんなことを考えながら岩の上で瞑想の如くマナ制御をしていると、山の中では普段感じないマナを感じ、目を開ける。


「はぁっ! はぁっ!」


 しばらく待っていると、マナを感じた方向から荒い息遣いが聞こえて来た。


「ジャンティ、こんな所までどうしたの?」


 荒い息遣いの正体は、ジャンティだった。


 アフェクシーから私達の所まで、小さい山とは言え、五つは越えないといけない。

 普通の人ならば丸一日かかってもおかしくない距離だから、アフェクシーの村の人はここには滅多に来ない。

 山で採れる山菜や動物のお肉が欲しかったり……ポワンに相談事がある時以外は。


「はぁ……はぁ……ヒメナ大変なの……」


 汗だくで疲れ切っているのか、ジャンティの目は少し虚ろだ。

 一日中走って、来ただけじゃない。

 精神的に追い込まれてて……疲れてるんだ。


「助けて!!」


 ジャンティの尋常でない様子を見て、直ぐにポワンとルグレを呼ぶことにした――。



 ルグレとポワンを呼び、ジャンティが落ち着いた後、アフェクシーの村で起こった事を話し始める。


「村が小規模な盗賊に襲われて、金品や食糧や馬を奪われたのよ……また用意しとけって脅されて……」


「ほぇ!? ヴェデレさんや他の村の皆は大丈夫なの!?」


「所々壊されたり、軽傷を負った人はいたけど、大怪我を負ったり殺された人はいないわ……」


「良かった……不幸中の幸いだ……」


 私とルグレはホッとした。

 私達が村に行く度に何かくれたりして、お世話になってるもんね。

 誰も殺されたりしてなくて本当に良かったよ……。


「ルグレ……どうしよう……っ!! 私達盗賊と闘うなんて出来ないし……だからといって食料とか渡すのも限界があるしっ……! きっと村の女の子や私だって、連れてかれて乱暴されちゃう……!!」


 盗賊は男性が多く、女性を好んで連れて行く。

 ポワンに聞いたけど、戦場でも負けた国の女性は酷い目に遭わされるみたいだから、それと同じなんだろうな……。


「状況は分かったのじゃが、盗賊の情報は何もないのかの?」


「……数は多分十人くらいで、盗賊は自分から現在地を明かしていったわ。村長が代表して話してたんだけど、定期的に物品をアフェクシーの人達に持って来いって言ったみたい……」


「ふむ。まぁ丁度良いと言えば、丁度良いかもしれんのじゃ」


 ポワンはずっと落ち着き払っており、アフェクシーの人達を微塵も心配してる様子には見えない。


 丁度良いって……何が?

 何言ってんの、ポワン?

 怪我人だってもう出てるのに、何でそんな落ち着いてられるの?


「ルグレ、小娘。此度の件は全てお主らに任すのじゃ。思う通りにやれ」


 ……ほぇ?

 ポワンは闘わないの?

 どうしたんだろう?

 思う通りにやれなんて言われたことないし……何か変だ。


「アフェクシーの村を助けるも良し、見捨てるも良し。全ての判断をお主らがするのじゃ」


「見捨てるなんて……出来ないに決まってるじゃん!! 何言ってんの!?」


 ヴェデレさんもジャンティも、もう友達だ。

 他の村の人達にも、村に行った時いつもお世話になってるのにそんなことありえない。


「阿呆。だから、そういう判断も全て自分達でしろということなのじゃ。盗賊ごときでワシに助けを求めるでないぞ」


 そう言ってポワンは、今現在寝床にしている大木に跳び登り、枝の上で昼寝をし始めた――。



*****



 翌日の朝、私とルグレとジャンティはすぐにアフェクシーに向かった。

 ジャンティは疲労している上に闘気を纏えないため、ルグレがおんぶをしながら走っている。


 修行の成果か私のマナ量はかなり増え、闘気を纏える量も時間も四年前の私に比べたら遥かに伸びている。

 普通の人なら一日かかるアフェクシーにも、闘気を纏えば十五分位で着くようになっていた。


「何なのよ、ポワンのヤツ!! 自分だって皆にお世話になってるくせにさ!! 本当に何もしない気!?」


 無関心なポワンへの怒りからか、私は怒りながら闘気を纏って走る。

 心なしか闘気がいつもより力強い気がした。


「師匠にも何か考えがあるんだよ。本当に僕達が困ったら、きっと助けてくれるよ」


 私の後を着いて来るルグレはらポワンのことを信頼してるからか、困ったような顔でポワンを庇う。


「ヴェデレさんはポワンを連れて来いって言ってたんだけど……来てくれなかった……大丈夫かな……?」


 ジャンティはポワンが来てくれなかったことに不安を感じている。

 ポワンはめちゃくちゃ強いから、その気持ちは分かるけどさ。


「私とルグレがいるからいらないもんっ! ポワンの助けなんて!!」


 アフェクシーの皆が困っているのに、知らんぷりなんて信じらんない!

 世界一強いとか言ってるんだったら、パパっと解決してくれたらいいのにさっ!!


「ジャンティ、大丈夫だよ。俺とヒメナだって強いからさ」


「……うん」


 その言葉を聞いて安心したのか、ジャンティはルグレの背中を強く抱きしめる。

 そんなジャンティを見て、私は首からかけたネックレスを握った。


 このネックレス……もう私には必要ないって……ジャンティがくれた恋愛成就の御守り……。

 もしかして、ジャンティはルグレのことが……?


 そう思うと胸の内にモヤモヤした変な感情が湧いて来たのを振り払うかのように急いでいると、いつもより早くアフェクシーに着いた。



 アフェクシーの村に着き、話し合いが行われているというジャンティの宿屋へと向かうと、ロビーには村中から人がほとんど集まっている。

 そこにはヴェデレさんもおり、きっとこれからどうするか話し合っていたのだろう。


「皆さん……大丈夫ですか?」


 集まっている人達の顔は――暗い。

 それもそうだろう、アフェクシーはあまりに田舎で帝国軍が滞在していないから、助けてくれそうな人は私達以外に誰もいない。

 きっと不安で眠れなかったんだろう。


「おーう、ヒメナにルグレ……ポワンさんはどうしたい?」


 ヴェデレさんが私達に気付き、声を掛けてきた。

 目当ては私とルグレじゃないみたいで、辺りを見渡す。


「ポワンは来ないよ。私達に任せるんだって」


「……そーかい……」


 ヴェデレさんはポワンが来ないことに落胆した。

 ヴェデレさんはポワンのことを昔から一方的に知っていたみたいだから、実力も知っているからかな……?


「……大丈夫だよ、心配しないでっ!! 私とルグレに全部任せてよ!! 私達が盗賊なんてやっつけちゃうからさ!!」


「やっつける……か」


「え?」


「いや、いい。何でもないわーな」


 そう言ったヴェデレさんは、ロビーの隅の方のソファーに座りこんだ。

 きっと、私とルグレを信用してないんだ。


「……何よ、ポワンがいなくたって何とかなるもん」


 私が誰にも気付かれないようにそう呟いて周囲を見渡すと、アフェクシーの皆には不安と動揺が広がっていた。


「俺達はこれからどうなるんだ……?」

「このまま搾取され続けたら、私達生きていけないわよ……」

「くそ……何であいつらこんな辺境の村に……!!」


 アフェクシーの皆の様子を見たルグレは、皆のそんな不安と動揺を払拭するため、テーブルの上に立って高らかに宣言する。


「師匠はいませんが、俺とヒメナは対人戦を師匠にみっちり教えてもらってます!! 俺とヒメナが必ずアフェクシーを守ります!! 皆様安心してください!!」


 ルグレの言葉を聞いた皆は静寂する。

 無理もないよね、私達の見た目はただの子供だもん……。


 だけど、静寂を切り裂くようにジャンティが拍手をし始めたことで、他の皆も次第に拍手をし始め――次第にそれは歓声へと変わり、沸き上がった。


 アフェクシーの村には戦えるよう訓練されている人は、一人もいない。

 そんな中で、ポワンの元で修行をしている私とルグレが子供と言えど、自分達の代わりに戦ってくれることに安心し、高揚したのだろう。


「行こう、ヒメナ」


「気を付けて、ルグレ……ヒメナも」


 ジャンティを始めとした皆に送り出され、私とルグレは盗賊達の元へと向かう。


 唯一気がかりなのは、ヴェデレさんだけが最後まで浮かない顔をしていたことだ。

 ヴェデレさんから見たら、盗賊の方が私達より強く見えたってことなのかな……気を引き締めないと。

何となく面白そうなど、少しでも思ってくださった方は、画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると幸いです。

感想を頂けたりSNSなどで広めて頂けると、作者は更に喜びます。


皆様が応援してくれることが執筆の原動力と自信にも繋がりますので、何卒よろしくお願いします。

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