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百八話 終焉の歌

 以前のポワンが十歳くらいの年齢だったけど、今は背格好からして十六歳くらい。

 私と身長も似たり寄ったりだ。


 前までのポワンは闘気を纏わなければただの子供に見えていたけど、全盛期の身体となった今は迫力が増し、その強さを隠しきれていない。

 溢れる力を、無理矢理その体に抑え込んでいるようだ。


「ゆくぞ」


 その力を解き放ち、ポワンは私に襲い掛かって来る。

 先程までの闘気も異常な強さだったけど、更に上をいく力強さ。


 一目でわかる……ヤバい!!


 ポワンがふるった拳をギリギリで躱す。

 拳を振るった風圧だけで、私の冷や汗が飛び散ると共に、背後の地面が抉られた。


 ――この瞬間、私は決断する。


『アリア……先に謝っとくよ』


『え?』


 二度とアリアとは会えなくなるかもしれない。


『死んだら、ごめんね』


 私が負けたらポワンはアリアも殺すだろう。

 謝ったのは、私が死んだら、という意味でもあるけど、アリアが死んだら、という意味でもある。


『大丈夫。私も覚悟してるから』


『……アリア、ありがとう』


 アリアにお礼を言った私は、僅かに保っていた理性を手放し、【終焉の歌】に明け渡す。

 目の前の世界最強を、殺すために。


 理性を手放した私とポワンは全力で殴り合った。

 技術も何も無い、ただただ純粋な殴り合い。

 子供の喧嘩と違うのは、世界最高の闘気を纏っている二人の殴り合いということだけだ。


 ルグレから受け継いだ左手の手甲は既に砕け散っており、フローラに作ってもらった義手の右手にはヒビが入っている。

 私の限界は――もう近い。



 育ての親のエミリー先生を父親のアッシュが殺して。

 ララがカニバルに殺されて。

 ベラが体を私達のために売って。

 メラニーがロランに殺されて、アリアも失明して。

 ルグレを私が殺しちゃって。

 エマをブレアが殺して。

 ルーナがカニバルを殺して。

 私がルシェルシュを殺して。

 ルーナとフローラとベラ、それに私の知り合いをポワンが皆、殺して。

 私がブレアとロランを殺して。


 もう、戦争なんて沢山だ。

 この負の連鎖を終わらせるためには、世界を救うのは、今ポワンに勝つしかないんだ。


 負けてたまるか……!!

 死んだっていい……この勝負だけは絶対に負けられないんだ!!



 激しく打ち合い、最後に私の義手とポワンの左手が全力でぶつかり合う。


「がああぁぁ!!」


「ぬああぁぁ!!」


 ぶつかり合った闘気の力強さに耐えきれず、私の義手の右手は粉々になって弾け飛ぶ。

 義手を貫通したポワンの左手は私の頬を捉えた。



 ぺしっ。



 でも、その威力は無いに等しかった。


「かっかっか」


 一瞬舐められたのかと思ったけど、そうじゃない。



「ワシの負けか」



 ポワンは丹田のマナを切らしていた。

 時を戻せず、闘気を纏えないほどに。

 立っているのがやっとの様だ。


 私も【終焉の歌】の効果で痛みが無いとはいえ、立っているのがやっと。 

 左手の指は全て折れ、義手の右手は失った。

 だけど、私がマナを切らすことはない。

 そのことが分かっていたポワンは負けを認めたのだろう。


 理性のない私はボロボロの左手をポワンの肩に置いた。



「存分に楽しめたのじゃ」



 そう笑ったポワンに、私は――。



【消滅】



 魔法を使った。

 一定時間触れた対象を【消滅】させる魔法。

 発動すれば、多分誰にも抗えない最強の魔法だ。



「お主が世界最強じゃ。ヒメナ」



 光と共に消えゆくポワンは、初めて私の名前を呼ぶ。

 最期の最期で名前を呼ぶなんて……ずるいよ。

 

 ポワンがいなければ、私はアリアの元に戻れず冥土隊にも入れなかっただろう。

 今まで何とか闘って生き残ってこれたのも、ポワンとの修行のおかげだ。

 帝国と王国に休戦協定を結ばせることが出来たのも……。


 ポワンが完全に消滅し、理性のないはずの私の目からは、涙が流れ出る。

 私の大切な人達を殺された恨みももちろんあったけど……。


 【終焉の歌】が止み――。



「ありが……とう……」



 正気が戻った私は、恨みがあるはずのポワンに何故かお礼を告げて、気を失った。

次回、最終回です。

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