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百三話 新たな生活

 ここはボースハイト王国。

 隣国のアルプトラウム帝国は軍事国家で、少し前までは隣国に戦争をしかけては植民地としていた。

 王国も例外ではなく、昔から何度も小競り合いをしていて、この前ようやく大きな戦争が終わって、休戦協定が結ばれたんだ。


 私とアリアが住む孤児院は、帝国から返還されたアンファングという街から、少し離れた丘にある。


 孤児院から少し離れると、街一面を見渡せるお花畑があったんだけど、戦火の跡で今はもうない。

 そこは私とアリアのお気に入りだった場所だ。


「さて、やるかー!!」


 王国軍から脱退した私は、周囲一面を耕し、王都で買った花の種を蒔き、水を撒く。

 またお花畑を戻すために。

 アリアとのお気に入りの場所を取り戻す為に。


「ふぅ……」


 沢山の種を蒔き、一息つく。


 改めて思う。

 壊したり死ぬのなんて一瞬だけど、作ったり生まれたりするのは大変だし、時間がかかるんだ。


「もう、戦争なんて起こさせない。絶対に」


 アリアとのお気に入りだった場所に作った、エミリー先生、ララ、メラニー、エマ、ベラ、フローラ、ルーナ、そしてブレアのお墓。


『人ってのは死んじまったら、ただの物になっちまう』


 ヴェデレさんはそう言ってたけど、私はそうは思わない。

 悔しさや、虚しさ……想いや、願いは私が今も引き継いでるんだから。


 生き返ったりすることのない皆のお墓を見て、私は決意したんだ――。



 夜――晩御飯を私は鼻歌まじりにご機嫌に作る。

 アリアは孤児院の食卓に座って待っていた。


「ふんふーん、ふんふふーん」


「ごめんね、ヒメナ。私、何も出来なくて」


 目が見えなくて料理が出来ないアリアは、手伝えなくて私に謝る。


「いいよ、いいよ! 気にしないで!! それに私実は料理好きなんだーっ!!」


「ふふ、楽しみ」


 私は王国軍を抜けた今も、漆黒のメイド服を着ている。

 これは死んだ皆の意志を継ぎたいし、アリアを守る象徴の服だから。


「はーい、出来たよーっ!!」


「わぁ……何だか、凄く特徴的な匂いだね……」


「修行してた頃は焼くか、煮るかくらいしかしたことなかったから、力入れちゃった! はいっ、あーん!」


 私はお皿に入れたシチューを、スプーンで掬いアリアの口元へと運ぶ。

 アリアの顔は何故か冷や汗をかき、緊張感に包まれていた。


「もーっ、早く食べてよーっ!」


 私は中々食べようとしないアリアの口にスプーンを無理矢理ねじ込む。


「ぅぐっ……!?」


「どう? 美味しい?」


「このシチュー……ぅ……」


 アリアは何か感想を言おうとしてくれたのかはわかんないけど、変な呻き声を上げながら椅子から卒倒した。


「ほぇ!? アリアどうしたの!? 喉に詰まらせたの!?」


 アリアは泡を吹いて痙攣している。

 まるで、毒を盛られたかのようだ。


「アリアァァ!?」


 どうやら、私のシチューが猛毒だったみたい。

 そういえば味見してなかったや。

 てへっ。



 私は倒れたアリアをベッドに寝かせた。

 昔エミリー先生が使っていた部屋で、戻って来ていの一番に掃除した場所の一つだ。


「ごめんね、アリア。大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ。でも、今度から味見はしようね」


「おっかしいな~、手間かけたのにさ~」


「ヒメナはメイド服着てても、メイドには向いてないのかもね」


「ほぇ〜……酷いよぉ」


 へこむ私の声を聞いて、アリアは楽しそうに笑った。

 戦争が終わってからアリアは本当に幸せそうだ。

 死んだ皆のことを想いつつも、私と前を向いて生きると決めたんだろう。

 帝国やアッシュには復讐心もないみたい。


「それじゃ、寝よっか。私が料理失敗しちゃったから、お腹ぺこぺこだけど」


「昔のこと思い出すね」


「アリア、いっつもブレアにご飯取られてたもんね」


「それでいつもヒメナが取り返そうとしてくれてた」


「喧嘩にはいっつも負けてたけどねー」


 エミリー先生が寝ていた大きなベッドで横になりながら、二人で談笑をする。

 昔は布団に二人でくるまってエミリー先生にバレないように、コソコソ話してたなぁ。

 今はコソコソする必要は無いけどね。


「……すぅ……」


「…………」


 昔から一緒に寝るといつも私が先に寝ているけど、この日だけは違った。

 アリアが寝息をたて、私の意識はハッキリしている。


 アリアを起こさないように、ベッドから出て掛け布団をアリアに掛けた。

 そして、ルグレから受け継いだ手甲を左腕に装備し、身支度を済ませる。



「じゃあね、アリア」



 私がここを去った後、王国兵にアリアを保護してもらうように頼んでいる。

 最後にアリアと二人で楽しいひと時を過ごせた。

 何の憂いもない。


 寝ているアリアと束の間の平穏に別れを告げ、最期の清算を済ませるためにアフェクシーへ旅立つことを決めたんだ。



 そう、拳帝ポワン・ファウストを殺すために――。



 意を決して部屋を出ようとした時、


「どこに行くの? ヒメナ」


 寝ているはずのアリアに声をかけられた。

何となく面白そうなど、少しでも思ってくださった方は、画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると幸いです。

感想を頂けたりSNSなどで広めて頂けると、作者は更に喜びます。


皆様が応援してくれることが執筆の原動力と自信にも繋がりますので、何卒よろしくお願いします。

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