美しき2人の交差点 〜 昇って行くのだ、この男坂をよ 〜
女の子みたいに綺麗な顔をした少年が、ピアノをだん、だらりららんらん♪と弾いていたかと思うと、突然アッパーを繰り出した。
『クレシェンド・アッパぁー!』
唇がやたら綺麗なヤンキーのボクサーが、高速のフックで対抗する。
『ローリング・フック!』
打撃音が轟き、アッパーとフックの交差点に眩い光が産まれる。そのあまりの輝きに観客は全員目を覆う。
2人が必殺技を叫んだその声は、エコーを伴ってしばらく会場中に響き渡っていた。
「神が降臨されたのかと思った」
「なんて光だ……。尊すぎる」
観客が口々に洗い清められたような言葉を発する中、2人のボクサーは再び離れ、距離をとった。
「素晴らしいアッパーだ、河飯騎士よ……」
ヤンキーが美少年を褒め称える。
「あなたのフックも大したものですよ、フランク一城。一撃で3回も攻撃するとは……」
美少年は目を閉じ、うっとりした表情で言う。
「だが、次で最後にするぜ」
「ええ。お互い、フィニッシュ・ブローを交わしましょう」
観客席で、主人公の猫崎僚汰は、ピンクのトレーニング・ウェア姿の姉と並んで、固唾を飲んで試合を見守っていた。
「この勝者と次、俺は闘うんだな……」
「せやで」
姉の『はな』が興奮し、拳を握りしめて言う。
「どっちが勝っても強敵や。僚汰! アンタ気ィ引き締めて、よう観察しときや!」
「うん、姉ちゃん」
「見とき……。そろそろ決着やで!」
フランク一城が大きく腕を左右に広げた。河飯騎士はその胸に飛び込んで行く。
「騎士……」
「フランク……」
2人は顔を互い違いに傾けると、強く引き合うように接近した。その唇が重なり合う。
2人の交差点から銀色の唾液が飛び、聖なる光は会場中を白く染めた。
2人同時に叫んだ。
『ラヴラヴ・サンダー・ジェット・ハーモニー!』
「姉ちゃん……」
僚汰が困ったような声で姉に聞く。
「これって勝敗つくのかな……」
「つかんやろな」
はな姉ちゃんは腕組みをしながら、笑いを浮かべて答える。
「愛に勝敗はないんや」
「じゃ、俺、どうすれば? 次の決勝戦、俺、不戦勝?」
「これでも読んでおけ」
姉は弟の膝に一冊の本を投げた。
それは古いボクシング漫画だった。パチスロの台にもなっている作品だ。僚汰もパチスロをきっかけに読んだことがあり、原作の絵のあまりの下手さにびっくりしたことがあった。
「愛とボクシングは違うものなの?」
そう呟く僚汰の向こうのリングの上で、2人のボクサーはいつまでも白く輝き続けていた。