7話目
「浮遊先輩の目的ですか?」
「ちょっと待てよ廻見。本当の目的ってただ七不思議を巡るだけじゃなかったのかよ?」
「その七不思議自体が嘘だとしたらどうッスか? 兄貴にも聞かれたッスけど自分の知る七不思議に屋上も視聴覚室もないッスよ」
「どういう事なんだい浮遊君?」
夜道と悠真の言葉で戸惑う視線が玲子に集まる。
「……参ったわね。いつから気が付いてたの?」
玲子は悪びれもせず夜道に問う。
「確信になったのはこの七不思議をお前が考えたと言ったときだ」
「かなり早いわね……」
「これは俺の持論だが生徒の間で語り継がれているものが七不思議だと思っている。ならその七不思議を自分で作った意味とは……。俺達を集めて何がしたいんだ?」
夜道の質問に玲子は少しずつ語り出した。
「私の生前は面白みのない生徒だった。陰キャの私は友達と言える仲の人もおらず……「え? お前が面白みのない? 陰キャ?」シャラップ! 黙りなさい! 今自分語りしてるんだから邪魔しないで!」
玲子の話に堪らず夜道はツッコミを入れたが今は黙っておけと皆から視線を向けられる。
「えーと、どこまで言ったかしら?………………アレよ。うん、そう。………………………………………………………………………………………………………………アンタ達がつまらなそうな青春を送ってるから文句言いたかったの!!」
「コイツ自分の生前のなんやかんやを忘れて簡潔に終わらせやがったぞ……」
「いいのよ! 死んだ人間の思い出なんて聞きたくないでしょ! てゆーか今の私とのギャップがありすぎて引かれるわ!」
「あの、浮遊先輩。さっきから生前とか死んだ人間とか言ってますけど……」
「あれ? 言ってなかったけ? 私幽霊なのよ」
兎月の言葉に玲子は体を浮かして見せる。
「ぴっ!」
「おわっ!」
「…………」
「おお!」
「これはまた……」
驚き、放心、歓心などいろいろリアクションをする一同。
「そういえばそこら辺説明してなかったな。霊子は自爆霊で触ったりしたら危険だぞ」
「アンタの説明はなんか違う気がする! 私はこの学校の地縛霊。アンタ達は1人でもいいから気の合う友達を作りなさい! それだけでも学校生活が変わるから」
夜道の適当な説明を払い除け玲子は自分が幽霊であることと学校生活の助言をする。
「それかここにいる6人で友達になりなさい。いや、なれ!」
「……それがお前の目的か?」
「そうよ! みんな訳ありで他人と関わりづらい人達なんだからこれで少しは退屈じゃなくなるでしょ!」
「余計なお世話だ」
「で、でもうさぎは皆さんといて楽しいですよ」
「廻見と同意見だが……まあ、気遣いはありがたい」
「私には部員達の事もあるし、感謝はしてる」
「このメンツなら兄貴の無茶振りも大丈夫そうッスね」
「久しぶりにパーティーゲームもいいでござるな」
玲子のやった事は生前の自分と重なった普通の生活でもどこか寂しいようなそんな人を少しでも楽しくなってもらいたいという動機で行われた行為である。
「ならこれで私の願いは叶ったかな……」
「せ、先輩! 体が……!」
満足したような笑顔とともに玲子の体が徐々に薄くなっていく。
「もしかして成仏するのですか?」
「おい!言いたい事だけ言って終わりとかふざけんな! コッチは言いたい事山程あんだぞ!」
「甘口君の言うとおりだ。私もまだ受けた恩を返せてないんだ。せめてもう少しの間待てないのか?」
「結構無理めな願い言うッスね先輩」
「もう思い残す事もなくなったのでござろう。ここは彼女の旅立ちを見届けるのが友というものでござる」
皆が玲子を囲んでいるなか夜道だけその輪から外れていた。
「アンタまだそんな所にいるわけ? 早くコッチに来なさいよ」
「……そうだな。誰かさんが成仏できなかったら後々メンドそうだ」
夜道はため息をつきながら皆の輪に入る。
「それじゃあみんな。短い間だったけど面白かったわ。みんなは悔いの無い学園生活を送ってね」
「浮遊先輩……」
「まあ善処はするよ」
「今年卒業だがそれでも頑張ってみるよ」
「そうでござるな。いざとなったら生徒会長権限を使って何かするのも一興でごさる」
「先輩方が卒業してもまた集まればいいじゃないッスか」
もうすでに玲子の体は半分以上が消え胸から上がある程度だった。
「夜道。アンタが一番の問題児なんだから最後くらい何か言いなさいよ」
「そうだな。達者でな玲子」
短い返答だったが玲子はそれで満足だったのか笑顔で消えていった。
「うぅ……。浮遊先輩本当に消えちゃったです……」
「それでも最後は笑ってたんだ。悔いは無いだろうさ」
泣く兎月を慰める泳。いきなりの事で皆が沈んでる中夜道だけ視聴覚室を出て外の様子を見ていた。
「ちくしょう。結局眠れなかった……」
その目には昇ってくる朝日が映っていた。
後日夜道は図書室で調べ物をしていた。
調べ物とはもちろんあの幽霊の事だ。調べてわかった事は彼女は自分から飛び降りた訳ではなかった。
半ば事故のようなもので誰かのせいでもなく偶然に偶然が重なった結果としか言いようがないものだった。
それでも本人からしてみればたまったものではない。窓際でボーっとしていただけで死んでしまったのだ。そりゃあ幽霊にもなるというものだ。
「生前は物静かで真面目な娘だったらしいな。それがアレなってしまうとは人生変われば変わるものか」
「ま、私の場合は人生終了した後の話ですがね」
夜道の横で玲子がフワフワと浮いていた。
「目障りだ。消えろ」
「オイコラ。なんだその言い草は」
玲子が消えた日全員が一旦帰って学校の仕度をする事になり家に帰って来た夜道は隣りに玲子がいることに気が付いたのだった。
「なんか地縛霊じゃなくなったけどアンタに取り憑いちゃったみたいなのよね〜」
「迷惑だ。消えろ」
その後は他の面々にも事情を説明したのち玲子は全員から説教をくらった。
「なんでよ〜~。私悪い事してないも〜〜ん」
「お前が存在していたからだろ」
「存在の全否定!!」
「はあ……。まあいいか」
溜息を漏らす夜道だが玲子に振り回される日もあるこの日常を楽しく思うのは、あの日どこかの幽霊がお節介を焼いたおかげかもしれない。