1話目
七不思議。どの学校でもあるであろう怪談話でほとんどは根の葉もない噂話だ。
だがある学校では本当に出ると言う話もある。
とある田舎にある県立伏木高等学校。もうすぐ日付が変わるであろう時間帯にも関わらず制服を着た1人の少女が教室いた。
ここの生徒もしくは何かしらの関係者だろう。
今夜は満月で月の光に照らされた長い黒髪が光り、幻想的な空間を作り出していた。
「暇~。暇過ぎて暇死する~~~」
……訂正、彼女がしゃべらなければ幻想的な空間を作り出していた。
見た目は美少女なのに何故か言動が残念感を出し空間をぶち壊してしまった。
教卓に座っている彼女は黒髪を揺らしながら両足をブラブラと動かす。
そんな死因はないがそれだけ暇なのだろう。深夜の学校で何をする訳でもなくただ1人っきりでいたら当然退屈であろう。
「思いきって学校の窓を全部叩き割ってみるか。朝になったら大騒ぎかも」
などと物騒な事を言っているが彼女は行動する気はなくただ言ってみただけのようだ。意味のない独り言を言うほど彼女は暇を持て余しているのだ。
「せめて話相手がいればな~。なんてこんな時間に誰もいるわけないか~」
普通に考えれば深夜の学校には誰もいない。
警備員か職員であればいたかもしれないが田舎の学校に警備員の需要はなく、職員もこんな時間まで残る人もいない。
普通に考えればそうなのだがここに普通じゃないのが1人いるので必ずとも言い切れない。
そう、誰もいない廊下から足音など本来なら聞こえるはずもないのだ。
「え? 私が言うのもなんですがマジッスか? こんな時間にいるってどこの家出娘か泥棒ですかって話ですよ……」
不意に聞こえてきた足音に驚きながらも内心暇潰しが出来たと喜んでいた。
「もしかしたら七不思議の1つの原因かもしれないし面白そうかも」
この伏木高校には七不思議があり、それが噂ではなく実在する事を彼女は知っていた。
こと、噂話について彼女より知っている人は少ないだろう。そのぐらい彼女は噂などの情報収集がすごいのだ。
月明かりで真っ暗ではないがそれでも薄暗く、普通ならしり込みをしたくなるようなシチュエーションにも関わらず足音は一定の早さで聞こえてくる。
その理由を挙げるならこの暗さに眼が馴れ怖さが薄れたか、物怖じしないのか鈍感なのか、もともとそんな感情を持ち合わせていないかそのくらいだろう。
それでなのかこの足音が七不思議の1つとして囁かれている。
『夜の校舎に響く足音。その足音の正体を見てしまったら奈落の底へ連れ去られてしまう』
なぜ正体を見たら奈落の底へ連れ去られるはずなのにこんな噂が立つのか。七不思議とはそんな物である。いちいち気にしてたら負けである。
「足音はこっちに近づいてるみたいね。さてさて、この足音の正体は一体どんなモノなのかしら」
廊下の真ん中で仁王立ちをして相手が来るのを待っている。
夜に馴れている彼女は怖さからのドキドキなのか未知へのワクワクなのか、はたまた両方なのか声が弾んでいた。
少しすると足音の正体が姿を見せた。
「おい、アンタこんな所でなにやってんだ?」
そこにいたのはこの学校の制服を着た少年だった。
深夜の学校、しかもおそらく自分と同じ年齢の少女がいたらそう言いたくなるが完璧にブーメランである。
そして、何故か少年はマクラを持参している。
「モノを尋ねる前にまず自分がなにをしているのか話せ!」
まず名を名乗れ! とでも言いたげに彼女は言い放つ。
少しの沈黙の後、少年は素直に話しだす。
「…………俺の名前は廻見夜道だ。見ての通りここには寝に来ている。その一環の巡回だよ」
夜道はそう言いながら自分のMyマクラを見せる。
見ての通りと言われても全然わからないし。そもそもなぜ学校に寝に来ているのか?
「学校の授業が退屈でな。よく授業中に寝ていたらベッドより机の方が寝心地がよくなってな。それからずっと自分の机で寝に来ているのさ」
「………………」
どうにも頭の悪い話だが少女は黙って話を聞いていた。
「俺も家の机で試してみたんだが、どうにも寝づらくてな。学校の、しかも自分の机じゃないとダメなんだ」
俺の事は机マイスターとでも呼んでくれ。などとどうでいい事をキメ顔でほざいている。
こんなどうでもいい事を10人聞けば9人はスルーするはずだが、運悪くなのか残り1人のちゃんと聞く奴が彼女だった。
真顔でうんうんと相づちも打っている。
「なるほどね。でも机マイスターを名乗るなら寝心地の他に形にもこだわるべきだわ! いい感じの丸みもありそれでいてなだらかな角があるとより良い!」
なぜか今度は少女の熱弁が始まった。
「そうじゃないと角オ━━━━」
※この度不適切な表現があり大変失礼しました。
「わかった? 寝るだけが机じゃない。机の角には重大な意味があるの!」
「つ、机にそんな活用法もあったのか! 男の俺では到底考えつかなかった!」
夜道は両膝を地に付ける程悔しがっている。ここに第3者がいたのなら正しい机の使い方を教えたに違いないだろう。
「で、俺の事は話した。次はお前だぞ。不法侵入者」
「……不法侵入なんてしてないんだけど」
自分の事は棚に上げて夜道は言い放つがそもそも彼女は学校に侵入してないのだ。
「私、ここに住んでるの」
「は?」
「初めまして。私の名前は浮遊玲子。この伏木高校の自縛霊よ」