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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

首から伝える愛

作者: 星見

首をしめる行為を書いているため、そういった内容が苦手な方は閲覧非推奨となっております。

彼女の首を両手で優しく包み込む。さらさらとして少し冷たさも感じる肌。柔らかい皮膚。

撫でるように触るたび彼女は体をびくりと小さく震わせ、首まわりの体温が徐々に上がっていくのが手のひらから伝わる。

やめて もうやめて と、か細く言う。その様がとても可愛いかった。


「ねえ 愛してるよね?」

喉頭の近くを親指の腹で少しずつ押していく。


「不安なんだ また君は僕を愛していないだなんて言わないか。そんなことないのにね。

…でもあの日からずっとその不安が消えないんだ。君が僕のそばを離れようとしたあの日から。

ずっと愛する約束をしたのに君はそれを破ろうとしたんだから。」


押す力を強めると彼女は更に顔を歪めた。苦しそうにもがき始め、可愛い嗚咽を漏らし出した。首を触る僕の手首をやめてと言わんばかりに掴もうとしているけどその力は弱い。


「今とても不安なんだ 怖いんだ。

僕を愛していないんじゃないかって

怖くてたまらないんだ 僕は大好きなのに。」

ぐっと親指に力を入れていくとさらにぐぅ、うぅ、ううっ、と呻く彼女。身をよじる姿と何かを言いたそうに口を動かす彼女。



ーーーああ やっぱりたまらない。愛しい彼女に触れたこの感触と、僕だけで満たしてあげられるこの時間が。


大好きな彼女の首に触れて撫でて、そうしてゆっくりと指で喉の近くを押す。

そうすると苦しそうに彼女は僕を見つめ続けて、心の中も僕のことしか考えられなくなる。


首を締めて殺すなんてことは勿論しない。

力を強くしたり弱めたりして加減はしているし、何より僕のことでいっぱいになる様と、強弱をつける事によって大きく乱れる呼吸と苦しむ表情を見ているとどこか安心する。

こうしているとどんな時よりも彼女の時間と心を独占できているし、僕がどれだけ愛して思い続けているのかを伝えられる時間でもあった。


……今日もまた首に触れることをやめられなかった。

不安な気持ちに駆られると彼女の首に触れるこの悪い癖が、もうやめられない所まで来ている。



-----



初めて彼女の首に触れ、絞めてしまったあの日。その時は怒りの衝動が抑えきれなかった。


別れよう、好きじゃない。愛する人がそんなことを言い、離れようとしていた。

「どうして?君の事何もかも一番知っているのも愛しているのも僕だけだよ?」

全てをぐちゃぐちゃに壊された悲しみが溢れて、僕は無意識に彼女の首に手をかけていた。



僕のこと、愛してるって言って?

僕のこと、嫌いにならないでよ

僕はずっと君だけを愛しているよ

ずっとずっと愛してる 嫌いになんてならない

大好き ずっと離さない 愛してる あいしてる

約束したでしょう?ずっと僕達は一緒だって

ねえ、僕のことを好きって言って

愛してるって そう言って

ねえ ねえ


首を握り潰すほど強くかけた僕の手。あのまま力をもっと強めていたら彼女を殺してしまったかもしれないと思うと今でも恐ろしく思う。


悲しくてしょうがなかった。

誰よりも大事で大切な愛する人に突き離されたことが耐えられなくて悲しくて。

愛してるって、そう言ってくれた。だから別れるなんておかしいよね?愛してるでしょう?

僕の思いを吐き出しながら首を締め続けていた時、彼女は途切れ途切れに口を動かして僕に言った。


「 あい し て る 」



潰れかけた声で紡がれる言葉はとても小さいものだったがその言葉を聞いた瞬間、首を絞める力がゆっくりと弱まっていった。


弱まると同時に彼女はむせて激しく咳き込み、肩を大きく震わせた。

荒々しく肩を震わせながらもひゅう、ひゅう、はぁ、はぁ、と呼吸を整えようとしている。

彼女の目からは大粒の涙がボロボロ溢れ出て苦しそうに泣き、顔を手で覆っていた。


いつも優しく笑う君が、苦しんでいる。

その姿を見て我に帰った。

「…あっ、…あ……ご、ごめんね、苦しかった、よね。ごめんね。ごめんね、本当に。ごめん……。」

苦しむ彼女をあやすように優しく抱きしめて背中をさする。腕の中の彼女は抵抗せず僕に体を預けて、ひたすらに泣き続けていた。



ーーー大好きな彼女を殺しかけてしまったことに申し訳ない気持ちと罪悪感を抱く。

愛しているのにこんな行動をした自分が恐ろしくも感じ、自分は一体なんという事をしてしまったんだろうと。大切な人に、愛する人に、僕は…。

……確かにあの時は、そう思っていたのだ。


「ごめん。本当にごめん。ごめん…ごめん、なさい、許して、嫌わないで…愛してるんだ。君の事、大好きなんだ…嫌わないで、許して、」

本当に申し訳ないと思っていた。大切な彼女を危うく殺しかけていたのだから。


しかし罪悪感とは裏腹に何故か心の奥には不思議な感情がじわりと生まれていく。


首に手をかけた時の感覚がずっと消えない。


「愛してるよ 心から愛してるんだ」

ずっと泣き続ける君。苦しんでる君。


「だからもう二度と、別れようなんて言わないで」

喉の近くをぐにっと指で押した時の首の体温、皮膚の触り心地、僕の爪が彼女の皮膚に少し食い込んだ感触。


「…ね、もう一度約束をしよう?僕達はずっと一緒。ずっと愛し合う、って。」

首に触れる手を退かそうと必死に僕の手首を掴もうとする君。

苦しそうに体をよじらせて、歪む顔をしながら僕を見つめていた君。


心の中も、僕だけを感じていた君。

すべてが僕だけに向けられたあの時間。

大好きな彼女が僕にだけ向けた姿。

思い出すたびに得体の知れない背徳感がゾクゾクと湧き出て、罪悪感を覆い隠すようにどす黒い背徳の闇が心を塗りつぶしていく。


「……っ…」

彼女は震えながら小さく頷き、涙でボロボロになった目をゆっくりと閉じる。


「ずっと、一緒だからね。 ……約束だよ。」

耳元で囁いて彼女の体を強く抱きしめ、僕も目を閉じる。

抱きしめた彼女の体温と、首を締めたあの時の彼女の熱が僕の心を満たしていった。



-----



あれから月日が流れて、彼女に対して不安が募るようなことがあれば、安心を得たい気持ちで彼女の首を触るようになっていた。

今日もまた悪いと思っていても手は勝手に彼女の首の近くへと伸びていく。

それに気づくとびくりと小さく震え、やめてと弱々しく言う彼女が可愛く、それが高揚感をさらに煽る。



そのまま組み敷く体勢をとって彼女の上にまたがり、僕は両手を彼女の首に添える。

首の皮膚、喉仏、首筋。首や鎖骨の近くも撫でるように優しく指を這わせると彼女はまたびくっと体を震わせていた。

両手の掌で首を包み込むように覆うと彼女の体温が手全体にじわりと広がる。首から脈打つ振動も伝わってきて僕も鼓動が高鳴っていた。

僕の手が君の体の一部になっているような錯覚すら感じた。



親指で喉頭を押して、強くして弱めて、離して。それを何度も繰り返す。

「…っ……か…っ…はぁっ……、げほっ、うっう……う、…はぁ…っ、…っあ…い ……、し てる っ…よ……ぉ…っ、」

呼吸が乱れて上手く喋れない姿。

「本当に、本当に僕を、愛してる ?」

苦しみながらも僕を見て、愛を伝えようとする姿。もっともっと見たくなってまた親指で喉を押す。

「あっ…ぁ…ぐぅ……っっ!?っはぁ…っ、や、だ、 やだ や……、ぐあ、…ぁ…や、だ…うぅうーーっっ、ぐう、ぅえ…っ…うっぐ、うっ、」

顔は赤くなり涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。僕の手を止めようとまた暴れているけど力は僕のほうが上だから無駄な抵抗でしかなかった。



「ふっ んふ、…ふふっ…、ふっ」

僕の手がやまない限り彼女は僕をどうすることもできないんだなと思うと気持ち悪い笑いが溢れた。

こうした行為をあれから数回するようになったけど、笑いが溢れたのは今日が初めてだ。

君は色んな感情を僕に与えてくれるね。

大好きな気持ちがまた増えていく。



「僕はずっとずっと君を愛してる。僕は一生、ううん、死んだ後の世界だって僕は君を愛し続けるよ。君は僕のすべてだから。

ねえ、ねえ……僕のこと、愛してる?愛してるって言って…?僕は永遠に君だけを愛する人なんだから」

「ぐぅ…っ、ぐっ、あ…っっ、…ふうっ、ぐうっ、あっ、がぁ…っ…ぐあっ…」

「約束、したよね あいしてる、よね 」

喉を押す力をまた少し強める。可愛い嗚咽が増えてドキドキしてしまう。とても可愛い。

「が…っあ…っ、は、ぁ、っっ、ぐ、…ぁあ、…い、ぃしてっ、る…っ…、よ、ぉっ」

「本当に、愛してる? …嘘じゃない? ほんとうに?」

指の力を少し緩めて彼女の瞳をじっと覗き込む。歪む表情の中でも彼女の優しい瞳は僕を見つめていた。



「…っふぅ……っ、かはぁ…っ、ぁ…は…っ、はぁ…っ、…っ…あ、ぁ、い し…て、るよ 、あい し て、る」

彼女の思いをひとしきり聞けて満たされれば首から手を離し、ボロボロになった彼女へゆっくり覆い被さって頬に、唇に、優しくキスをする。顔も優しく撫でて、流れ出る涙を指でぬぐってあげる。

「ふ…、ぅ、…は、ぁ…うぅ、っ、ううう…っぅううっ…ぅっ、うっ、ううぅ」

泣き止まず苦しむ彼女はとても儚く弱く、でもそれがたまらないほどに愛おしかった。

彼女を抱き寄せて頭を撫で、背中をさする。

「よかった、僕も 愛してるよ。誰よりも一番大好き、愛してる。」




彼女は抵抗はしない、というよりさせない。

しかし前に一度、強く抵抗された事もあった。

抵抗されるととても嫌な気持ちになってあの時はいつもよりかなり強く首を絞めて、ひどく怒ってしまった気がする。大好きな君が僕の全てを否定した気がして、すごく嫌だったな。

あれから彼女は僕を突き放すようなことは二度としなくなって、また笑ってくれるようになったから良かったけれど。



鼻をすすりながらずっと泣いている彼女を抱きしめ、ふとそんなことを思い出す。

彼女への愛おしさがまた増していった。

「僕は君が大好き。好きだよ、大好きだよ。

心の底から愛してる。」



彼女の首の周りにはあの日から僕が付けた爪の痕が無数に残っている。皮膚に何度も食い込ませた爪痕。

僕のことはどんなに離れていたって、忘れさせない。そんな想いと僕の愛がつまった痕だ。

だからどんな時でも、いつでも僕を愛して想い続けていてほしい。僕の爪痕がこれ以上増えないように。



-----



少しぐにゃりとしたあの感触、肌の温度、歪む顔、僕だけを見つめる綺麗な瞳。

あの日からそれがずっと染み付いて、消えない。

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