私だけ違う乙女ゲームの登場人物だった!
誤字、脱字気になったらすいません、気楽に読んで下さい。
後半シリアスです。
残業続きの忙しい時期を抜け、やっととれたよ連休!
行くしかないでしょ、聖地巡礼!
そんな訳で、最寄り駅から2時間に1本のバスに乗り、山道くねくねやってきました!乙女ゲーム『忍ラバーズ(しのびラバーズ)』の舞台の1つ、山の上の道場に。
路線バスについてる手をあげる人のマーク、あれ何?って思ったら、停留所以外の場所でも手をあげたらバスがとまって乗り降り出来るらしい! なんて田舎! でもさすが『忍』が住む設定にはぴったりじゃない? なんてウキウキしながら、攻略対象者が雷を落としたと言われる杉の木や、修行で真っ二つにした巨石なんかをパシャパシャ写真とって大興奮!
『忍ラバーズ』は忍者が住む里にある忍術学校を舞台に、産まれて間も無く里に置き去りにされたヒロインが、恋をしつつ1人前のくノ一を目指すストーリーである。
このゲームの何が良かったって、攻略対象者が黒髪ばっかり!!
日本を舞台にしても、赤髪、金髪、青髪、カラフルヘアが一般的な乙女ゲームの中で異色中の異色!
「今までに無い地味な乙女ゲーム!」なんて逆に話題になったけど、中世ヨーロッパ風舞台の乙女ゲームをはじめ、どんなキラキラしい乙女ゲームでも黒髪の攻略対象者ルートに進む黒髪大好き!しかも彫りの深めなキラキラした顔より切れ長なあっさり顔好きな私にとってはどんなご褒美ですかってほど性癖にささる乙女ゲームだったわけで、今いる山の上の道場は、落ちこぼれヒロインが私の推しである某忍術学校アニメの先生似の攻略対象の先生と道場裏で特訓した場所なのである。
まぁ、聖地巡礼するぐらいはまってるといっても実はストーリーには不満ありありなのよねー。
ヒロインは落ちこぼれだけど、健気で庇護欲そそる小動物系女子なんだけど、忍者の世界に庇護欲必要!?、いやそれを武器に戦えるならいいけど落ちこぼれだよ? 生きるか死ぬかの世界で絶対足引っ張るじゃん。攻略対象者と挑んだ暗殺の任務中に敵にまで慈悲をあたえるヒロインって(その敵もまた攻略対象者)駄目じゃない?
殺伐とした世界に生きる攻略対象者たちにとってヒロインは砂漠のオアシス、干天の慈雨、春の日溜まりで惹かれていくんだけど、このヒロイン多分攻略対象者たちに守られ房中術も習ってないと思われる。
そりゃいわゆる悪役令嬢ポジションのくノ一たちからも嫌がらせさせられるわ。むしろそんな罠ぐらいかいくぐってこそじゃない?
そんな訳で私はヒロインじゃなくライバルくノ一のが好きだったんだよねー。ゲームは全年齢だったけど、房中術もばっちり仕込まれたライバルくノ一と攻略対象者との薄い本が一部で大人気だったりするし、日々の癒しとさせていただいてます。
なんて写真とりながら考えてたら、乙女ゲーム仲間の親友からピロン♪とメッセージが入りました。
『旅行中ごめんねー。もし時間あったら共闘頼む!』
『オッケーオッケー』って返信しながら、親友が今やってる、まさにキラキラカラフル中世ヨーロッパ風の乙女ゲームのアプリを立ち上げる。このゲーム、アクションに重点を置いたちょっとかわった乙女ゲームでフレンドと一緒にクリアするとボーナスがもらえるのよね。
ってかさすが山の中、ここ電波悪いわー。メッセージはなんとか送れるけどゲームのたちあがりが悪い。『ちょっと電波悪いから待ってね』と送りながら、バス停ぐらいまで戻ればいいかな?と山道をくだる。
時が戻るならここでその時の私に大きな声で言いたい、いや今でも全世界に言いたい。
『歩きスマホダメ!絶対!』
私は足を滑らせ崖を滑り落ちたのである、崖の下で薄れ行く意識の中『薄い本がみつかったら嫌だなー』って思う耳に鳶の鳴き声が聞こえてきた。『私の推しの先生の名前は鳶だったなー。生まれ変わりがあるならあの世界に行きたい』
なんて考えながら私は意識を無くしたのであった。
◇◇◇
ゆっくり目をあけ、今みた夢を思い出す。夢にしてはやけにリアルだったけど…
「…薄い本」
呟きを聞き、ベッドの横で私の手を握っていた女性がこちらを向いた。
サファイア色の綺麗な瞳と目があうと、その瞳から雫が溢れる。
(人間ってこんなに綺麗に泣けるものなのね)
「アイリス…良かった…もう3日も目を覚まさなかったのよ…もう…もう…」
そう言うとサファイアの瞳の綺麗な女性は私を思い切り抱きしめたのだった。
その後呼ばれた医師の診察を受け、駆け付けたお父様とお兄様の包容を受ける頃には私の頭の中はだんだんと落ち着いて来た。
意識を失った3日前以前の記憶はところどころ朧気だがある、
この国の公爵家の娘アイリスとして生きてきた10年間の記憶である。そして先ほど見た夢とともに、こことは世界も時代も違う日本という国で生きてきた27年の人生も思い出した。
3日前、私は無駄に大きな我が公爵家自慢の大階段の一番上から足を滑らせ意識を失ったらしい。
こういうシチュエーションで思い当たるのは
(…異世界転生)
なのかなやっぱり?
「はぁ」
大きなピンクの寝具のベッドに寝ながら部屋をキョロキョロとみる。
広い部屋には一目で質の良さがわかる家具にゴージャスな照明。
目が覚めた時に手を握ってくれていた女性はお母様で、綺麗なサファイア色の瞳に髪の毛は光るようなブロンドであった。
お父様は燃えるような赤髪にエメラルド色の瞳、お兄様はお父様譲りの赤髪にお母様譲りのサファイア色の瞳。
その他にも診察に来た医師やお世話をしてくれるメイド、お父様の後ろで一緒に涙を浮かべていた執事にいたるまでみんなカラフルな髪と瞳の色をしている。目がチカチカする。
どう考えても私が転生を願った世界じゃないのは一目瞭然である。
ベッドから起きあがれないのでまだ自分の姿を見れないのだけど、髪の毛はお父様ともお母様とも違う黒髪だ、階段から落ちるまでも鏡を何度もみてるはずなのになぜか自分の顔が思い出せない。
「シチュエーション的にやっぱり乙女ゲームに異世界転生なのかな~?」
でも桃色髪じゃないからヒロインって訳でもなさそう。
主要女性キャラの黒髪は珍しいけど、公爵令嬢ってのが悪役令嬢ぽいよなー。
なんて考えていたら瞼がだんだん重たくなってきた。
10歳の身体に前世の記憶を思い出すなんてヘビーだったらしく、私はそこからまた2日ほど眠り続けたのである。
◇◇◇
2度目の目覚めから数日がたちわかったのは、私はこの世界で中々、いやかなり周りの人たちに愛されていると言う事だ。(それまでの記憶があるから知ってはいたけどね)
お母様も貴族なのに目の下に隈を作りながらも他人に任せずずっと私についてくれていたらしいし、お兄様は毎日自分で摘んだお花を運んで下さる。お父様は「あんな危ない大階段は取り壊す」なんて事を言い出し、周りに嗜められいる。
メイドをはじめ使用人の態度をみても我が儘で疎まれたりしていないみたいね、10歳までの私グッジョブ!
そんなこんなでベッドの上で甘やかされ住人と化していた私アイリス、本日歩行許可が出ました!!
もうすぐこの世界の私と初対面!
7つ上のお兄様はタイプでは無いもののかなりの美形だけど、あのお顔が出てくる乙女ゲームを私は知らないので、自分の顔を見れば何かわかるかしら?出来れば自分の知ってるゲームだと嬉しいんだけど…
そんな気持ちで鏡を見た私、
「!!!!!!!!」
思わず口に手を当て声を出さなかった私を誉めて欲しい。
後ろで髪をすいてくれているメイドは驚いた様子の私を見て、
「アイリスお嬢様かなりおやつれになられましたから、驚くのも無理ございませんね。」なんて悲しげに言ってるけど、そこじゃない!
鏡の中には、私が前世にどはまりした、乙女ゲーム『忍ラバーズ』のライバルくノ一[四ツ原アヤメ]の小さい頃の姿がうつっていたのだ。
そして余りの衝撃に意識を失った私は、ベッドの住人へと逆戻りしたのであった。
◇◇◇
自分の姿を見たことで、朧気だった記憶もはっきりしてきた。
この国はスコット王国、我が家はフォース公爵家、この国はぐるっと大きな森に囲まれており伯爵以上の位の貴族の領地はこの森に接しており、その森に溢れる魔獣を討伐する使命を担っている。
そんな3つの情報からでも簡単に導き出されるのは…
『戦場に咲く花』
前世の最後に共闘を頼まれアプリを起動しようとした乙女ゲームである。
その中に出てくる、私 アイリス=フォースは
「悪役令嬢の名前…でも」
こんな外見してなかった。
確かゲームの中ではお父様譲りの真っ赤な波打つ髪にお母様側のお祖父様から受け継いだアメジストのような紫の瞳。
魔獣の討伐では片手を口元に当て「オーホッホッファイヤー!」と叫びながら、バンバン火魔法をうち、森まで燃やすような豪快な悪役令嬢だった。
片や今の私は、眉上で切り揃えられた前髪に腰まで伸びる真っ直ぐな黒髪に切れ長な黒曜石の瞳。
お父様にもお母様にも似ていない色だがお父様のお祖父様とそっくりらしいのでれっきとした血筋なのは証明されている。
魔法については最初に倒れた後にそれまであった膨大な魔力がなくなっており、代わりに、火遁、水遁、木遁…などなど数々の忍術を使えるようになっていた。
さすが『忍ラバーズ』では幼い頃より厳しい修行に耐えていた四ツ原アヤメのスペックだわ、ゲームの中では男性より優秀なアヤメを疎ましく思った攻略対象者とうまくいかなかったのよねー。忍がそんな劣等感で精神乱してどうすんだ、滝行もっと頑張れよって思いながらゲームしてたなー。
な感じでまんま『忍ラバーズ』のライバルくノ一[四ツ原アヤメ]としてこの世界に存在している。あっ、中身は前世日本人27歳ですが。
「どうすっかな~」
一人でゆっくりしたいと人払いをした自室の机に向かい、ノートに覚えている情報を書き込みつつ、整理をしている。
ゲームの中では悪役令嬢の最期はやっぱり断罪だった、魔法を使えないよう、喉を焼かれ、手を切り落とされた上で、衆人環視の中での斬首。
罪状としてはよくあるヒロインへの嫌がらせと言うより、魔獣への憎しみから国土の森林の三分の二を焼き払って自然環境を破壊した事だった。
各領地の騎士団に魔獣討伐を任せる貴族が多い中、一番魔獣発生率が高い森に面しているフォース公爵家は当主自ら先陣に立つ家だった、その戦いの中で12歳の時にお父様、その後を継いだお兄様を14歳の時に亡くしたアイリスの魔獣への怨みは凄まじく、存在自体を許せなかったので、癒しの力で魔獣の穢れだけを浄化しようとするヒロインの考えは甘ったるいと考え常に対立していた設定だ。
ストーリーは悪役令嬢断罪後、攻略対象者と焼き払われた森の跡に立ち、破壊という生き方しか出来なかったアイリスを思い流した慈悲の涙から金色の光が広がり森は再生されピンクの花びらが舞う所で終わりを迎える。
と、筆を置き考える。
まず目標はお父様とお兄様を死なせない事。
特に婚約破棄イベントがある悪役令嬢じゃなかったはずだし、15歳から通うスクールも魔獣討伐の力をつける授業や実習が多く、教科書破ったり階段から落としたりもなかったはず。
好感度も魔獣討伐の実習中に上がって行くので、そこはヒロインに任せて邪魔せず、お父様とお兄様の為に出来る事をしよう。ゲームの中のアイリスも家族に愛されていたからこその悪役への転身だったのではないだろうか?
今の私は魔法は使えないけど、10歳にして100年に1人と呼ばれた『四ツ原アヤメ』の才能を持っており、聖地巡礼をするほどはまり、設定集を読み込んだ忍術や修行方法の知識もある。
「目指せお父様とお兄様の死亡回避!」
私は一人の部屋でエイエイオーと腕をあげるのであった。
◇◇◇
そんなこんなで私が目標をたててから4年の月日がたった。
結果から言うとお父様もお兄様も元気である。
お父様が戦場で命を落とさなかったことで、私には歳の離れた双子の弟たちができたりもした。
この4年間、魔力をなくした事で、
「アイリスが望むなら無理に嫁がなくていいよ。」
と社交の場への参加も免除して下さったお父様とお兄様の言葉に甘え(お兄様の圧のが強かった!)私は領地で好きに過ごさせてもらっている。
前世、日本人の時に製薬会社の研究員として働いていた知識と『アヤメ』が持つ毒物の知識を合わせ、表向きポーションなどの薬をつくり、裏では魔獣にも効く毒物の作成。もちろん国が調査してもわからないような成分で作ってあるわよ。
魔力が無くなった分身体を鍛えたいとお願いして、公爵領の訓練にも参加させてもらっている。これには当初家族の猛反対を受けたけれど、かけっこでお兄様に勝てたら!という条件をとりつけ、疾風の術でみごと勝利をもぎとった。私の風に煽られ、途中で転けてしまったお兄様の頭には落ち葉がひっついていて、それが前世で見た狸みたいでおかしかったのを覚えている。
そうして訓練をしつつ苦無や私でも装備出来る鎖帷子なんかの開発をそそのかしたり。
忍術の訓練は『アヤメ』の一番得意な隠密スキルを使い深夜にこっそり館を抜けて行い、ついでに夜に数を増やすという魔獣をさくっと討伐。この世界の魔獣は額の魔石を破壊すると存在も消滅するので後が残らず助かった。
(ヒロインの浄化では魔石が黒→透明になる)
何気にこの破壊が一番難しいんだけど、アヤメの苦無の腕では百発百中だった。
そんな隠密スキルを駆使する中でわかったこと、それはフォース公爵領の森林に魔獣が多い原因がフォース公爵領の両隣の貴族が手を組み、魔獣を誘い出す研究をしフォース公爵領にけしかけていると言うことだ。
もちろん隠密スキルを使い証拠を集めてこっそり対処したわよ。
だいたい、この世界の諜報部隊?影っていうの?全然ダメダメよね。
あんなキラキラしい髪色で闇の中で活躍出来ると思ってるのかしら?
やっぱり、忍は真っ黒であるべきよね!
髪の毛が目立たないように真っ黒な目出し帽でもかぶればいいのに、キラキラしい方たちにはプライドが邪魔して無理みたいですね、まぁ瞳も派手なんですけどね。
フード被っただけで隠せるわけないじゃない。
そんなわけで、4年経った今でもフォース公爵家おかかえの影にもなんなら国の影にさえ私の隠密行動はばれていない。
王城ですか?なんなら王都に行くたびに忍び込ませていただいてますが何か?
そうして今現在、スコット王国はゲーム内容よりも平和である。私1人の力でここまで上手くいくとは思ってなかったし、魔獣もここまで数が減るとは思ってなかったけど、私が落とした小石が巡りめぐって歴史を大きく変えたのだろうか?
この春から通うスクールも平和になった事で、討伐実習より座学や貴族としての勉強を重点に置くことになった。
ここまで濃い4年間を送ったけれど、ゲームの舞台としては今からが本番だ。お父様もお兄様も無事だしヒロインの癒しを邪魔する気は無いけれど、どうか平和にスクールの3年間を過ごせますように……
「目指せ平和な3年間!」
エイエイオー!と私は4年前同様に腕をあげるのであった。
◇◇◇
「痛いっっ!ひどいですいきなりぶつかって来るなんて!」
廊下の奥でピンク色のふわふわな髪型のヒロインがうずくまりながら叫んでいる。
そんなヒロインの大声をドキドキしながら気配を消した廊下の隅で聞く。
「あぶなかった~。」
もう、なんでこうなった。平和になった学園に入学してきたヒロインはいわゆる電波ちゃんだった。
「教科書が破られました~。」
「噴水に落とされました~。」
「制服が破られましま~。」
もうそんな噂を聞き、怖いから最初から気配を消して顔を合わせないようにしてるんだけど、今日は考え事をしてたからうっかり鉢合わせする所だったわよ。
その考え事なんだけど、今日の午前中にあった魔獣討伐実習の時に聞いたヒロインの一言についてだ。
幸いにも同じグループじゃなかったから直接の被害はなかったんだけど、聞こえてくる噂では、
「魔獣にも命があるんですぅ!討伐なんてかわいそうです!」
って全然実習に参加せず、魔獣が来たら「キャーキャー」逃げまとい、攻略対象者の背中に隠れていたらしい。
これには攻略対象者たちも「…いや邪魔だし」って苦笑いだったみたい。
そもそも、ゲーム内では攻略対象者たちはそれぞれ近い人の命を魔獣に奪われ心に闇を持っていて、ヒロインとの出逢いで癒されていくんだけど、私がかなり魔獣の数減らしたんで、皆さんの近い人々は命を奪われることなく健在である。
なので特に闇落ちもせず、そこまでヒロインに傾倒していない。
そのヒロイン、逃げ回った後、魔獣の動きを止めた同じグループの第2王子に、
「魔獣を浄化してくれないか」と頼まれ
「もう、しょうがないですねー。いたいのいたいのとんでけー。」
と言って浄化したらしい。その後一匹の浄化で疲れて早々にテントで休んでいる姿をみんなに目撃されている。
いや、それより、
「いたいのいたいのとんでけー」か……
確実に転生者だな。もう隠密スキル駆使してこれからも絶対顔合わせないようにしよう。
なんて考えていたら、ヒロインに遭遇しそうになったのだ。
(集中、集中、気を抜くな)
心を落ち着かせていると、ふと真後ろに気配を感じはっと振り返る。
そこには、、
「な~んだカイトお兄様か~。」
「こら、学校では先生と呼びなさい。」
私の入学とともにスクールに教師として赴任してきたお兄様の姿があった。
家族に気を許してるからか、たまにお兄様の気配を感じないことがあるのよね~
平和ぼけかしら、気をつけないと。
「アイリスはこんな隅に隠れてどうしたの?」
「先生こそ、生徒の名前親しげに呼ばないで下さいね。」
と言う私の視線の先をたどり、
「赤い髪に紫の瞳の女生徒に突き飛ばされた~」
なんてまだ叫んでるヒロインを見つめるお兄様。
「あぁあの子か~」
困ったな~なんて頭をかきながら、対処のために歩き出したお兄様の背中を見ながら、なんとなく胸がドキンとするのだった。
(なんだろう、この気持ち)
廊下の奥では
「ほら、みなさんの邪魔になるからケガがないなら起き上がる。」
とヒロインに手をさしのべるお兄様に、
「モブなんかに助けられたく無い!」「赤い髪に紫の瞳の女生徒に突き飛ばされた!」ってまだ叫んでる。
「このスクールには赤い髪に紫の瞳の女生徒は在籍してませんよ。」
と言うお兄様の言葉も全然聞いていない。
(本当、関わりあうのはやめよう。)
そう思いながら、私はその場をそっと立ち去るのであった。
◇◇◇
そんなこんなで、ヒロインに会わないように過ごした3年間のスクール生活、なんとか無事に卒業まであと1週間と言う今日この日、私は第2王子に呼び出されスクールの応接室に呼び出されている。
部屋に入ると、第2王子、王都の騎士団長の長男、国一番の商家の跡取り息子、王弟である学園長、魔法騎士団長様の義理の息子と言う『戦場に咲く花』の攻略対象者たちが勢揃いで待っていた。
第2王子は、魔獣に兄である皇太子の命を奪われなかったので、重圧に負けず、兄を支えるべく健全に成長している。1学年下の婚約者とは彼女の卒業を待って婚姻を結ぶ予定だ。
騎士団長の息子は、魔獣に初恋の幼なじみの命を奪われなかったので、スクール内でも仲睦まじい姿をよく目撃されている。
商家の息子は、商品を運ぶ商隊が魔獣に襲われなかったので、商家が傾くことなく、さらに商売の手を広べるべく卒業後は隣国の商業都市に留学するらしい。
学園長は、魔獣に妻と娘の命を奪われなかったので、酒に溺れることもなく、愛妻家として有名だ。そんな彼のおかげでスクールは働くものも残業無しのホワイトな職場になっているとお兄様が言っていた。そういえば毎日ディナーはお兄様と一緒だわ。
魔法騎士団長の義理の息子は、魔獣に義父の命を奪われなかったので、たった一人の家族を奪われ、悲しみの中団長の地位を継ぐこともなく、のびのびと魔法の力を伸ばしている。
誰一人として、憂いをおびてはいないけど、その表情には疲れがありありと出ている。
その理由は
「もう!早くアイリス=フォースを呼んでよ!何度も何度も嫌がらせされて困ってるんですぅ」
「この間も誘拐されかけたけど、犯人は赤い髪に紫の瞳の学生に頼まれたって言ってましたぁ」
「こんな黒髪の辛気くさい人じゃなく、アイリス本人を呼んでよ!取り巻きを代わりによこすなんて卑怯ですぅ」
「だいたい悪役令嬢の断罪って卒業パーティーでじゃないの?逆ハーレムルートにもなかなか、入らないし…」
とわめきちらしているヒロインのせいだろう、確実に。
学園長以外の4人は生徒会に所属しているので、ヒロインに関するゴタゴタに3年間巻き込まれたらしい。
「アイリス嬢、急に呼び出したうえにこんなことに巻き込んでしまい、申し訳ない。」
第2王子、頭下げちゃったよ~
って王子以外の3人「「「幻姫初めて見た~」」」って後ろでざわつかない!
3年間気配を消していたので、後ろの3人ときちんと顔を合わせるのは確かにはじめてですが!
恐縮する私に王子は説明を続ける。
「フォース公爵家のアイリス嬢は黒髪に黒い瞳をしていて、赤い髪に紫の瞳の令嬢ではないといくら説明しても聞いてくれなくて。」
私はその場でカテーシーをすると、
「はじめまして、私があなたがお探しのアイリス=フォースでございます、本日はどのようなご用でしょうか?」
と笑みを浮かべる。
「「「幻姫の微笑み!春風が吹く!」」」
後ろ、聞こえてますわよ。
あと春風と言うより私の斜め後ろからは北風が吹いておりますわ。部屋の温度が5℃ほど下がりましたが、みなさまお気づきになって?
気づくといえば、この部屋で座っているのがヒロインだけだというのにこの娘は気づいているのでしょうか?ソファーにもたれプルプル
震えていますが、他の方たちは違う意味で震えていらっしゃいますわよ。
私の挨拶を聞き、ポカーンとした顔をしたヒロインは
「えっ、これが悪役令嬢?何なの?やっぱりバグ?」とぶつぶつ呟いている。
ちなみに、私を「これが」呼ばわりした所で部屋の温度がまた5℃ほど下がりました。
この空気に気づかないヒロインは、私をビシッと指差し、
「いくら大切なお父さん、お兄ちゃんが亡くなったからって、森を焼くのは駄目だと思いますぅ!」
決まったとばかりにどや顔ですが、さらに温度が下がりましたね、何か上掛けを持ってくれば良かったですわ。
「誰が亡くなったって?」
私の斜め後ろで、ずっと付き添ってくれていたお兄様が氷をまといながら口を開く。
「えっ?誰?」
突然現れた(ように感じる)お兄様にびっくりしてヒロインがたずねる。
「君が言う所の、アイリスのお兄ちゃん、カイト=フォースです。あとスクールで3年間魔法理論を教えていたのだが、授業内容だけでなく、教師の顔も覚えてなかったのかな?」
室内なのに雪も積もってきましたわ。
「それから、かわいいアイリスは森なんか焼いたことないからね。」
応接室に置かれている観葉植物が、樹氷のようになりましたわ。
そういえば『忍ラバーズ』の聖地の1つに樹氷で有名な山もあったわね、あそこも行きたかったな~。
私が軽い現実逃避をしていると、ハッと目を開いた王子が(さすが王族すぐに冷静になる!)得意の炎魔法で部屋の雪と氷を溶かし蒸発までさせた。
そしてヒロインに向かって、
「自分の言っていることが事実無根だということがわかったか?ちなみに私の兄も彼らの、幼なじみも商隊の者たちも、妻子もお義父上も亡くなってなどいない、自分のことなら我慢できても、大事な人をおかしく言われるのがどんなに耐え難いかわからないのか!?」
唇を噛みしめ、王子はそう言うと。
「いくらスクール内とはいえ、私が裁いていい問題ではない、きちんと司法の場で裁きをうけるがよい、連れていけ!」
と控えていた騎士に命令を出した。
連行されながらも、まだ自分の立場がわかっていないのか、
「何このゲーム、バグばっかり!私はヒロインなのよ!」と叫んでいる。
どんな刑に処されるのかはわからないけども、どうかこの世界がゲームではなく現実だと理解して反省して欲しい。
まぁ、私はそんなに迷惑かけられていないけどね。
◇◇◇
「はぁ~」
( ´Д`)こんな顔をしながら帰りの馬車の中で大きなため息をついた私の頭をお兄様がぽんぽんと優しく撫でてくれる。
「お疲れ様、アイリス。」
「お兄様こそ、今日はついて来て下さりありがとうございました。」
お礼を言い、そういえばと疑問に思ったことをお兄様にたずねる。
「お兄様はいつの間に氷魔法まで覚えられたのですか?赤い髪ですし炎魔法ばかりだと思っておりました。」
「うーん、いつからだろうね?教師をはじめてからかな?スクールには害虫が多いからね、抑えきれない怒りでいつの間にか上達していたよ。」
「害虫? 領地の薬草栽培には虫が重要でしたけれど、確かに王都は都会だけあって害虫と呼ばれる虫が多いですわね。」
私は前世で黒光りのあいつを「凍らせて殺虫」できる商品を思い浮かべてそう答える。
「今日も(青やら黄色やらオレンジなんかのカラフルな)害虫が多かったからね。」
「まぁ!観葉植物なんかの土には害虫がつきやすいと聞きますが応接室にもいたのですね。」
「あぁ、大きいのがいたよ、、それよりアイリス、今日は生徒会のメンバーにかわいく微笑んでいたけれど、好みの男性でもいたのかい?」
「微笑んで…?」私は今日の自身の言動を振り返る。
「嫌ですわお兄様、あんなのただの挨拶じゃありませんか、それに私の好みは黒髪に黒い瞳なのです、あのようなカラフルな男性はタイプじゃありませんのよ。」
思わず言ってしまって、ハッと気づく、
「でも、カラフルでもお兄様とお父様は大好きですわ。」
そっとお兄様をうかがうと、手のひらで口許を覆い何かに耐えている、そしてその手を上に持っていき頭をかきながら「困ったな~」って呟いている。
それを見て私はなぜかほぅっとあたたかい気持ちになったのだった。
◇◇◇
それから1週間後、スクールでは無事に卒業式が行われた。
夕刻からの卒業パーティーまでの空き時間にまたまた応接室に呼ばれた私は、第2王子からヒロインのその後を聞いた。
「司法にかけるまで牢に入れていたのだが、その前に精神を病んでしまい北の塔に幽閉されることになった。このまま症状が回復しないなら、いずれ……、すまないきちんと罪を理解させ謝罪をさせたかったのだが。」
話を聞くと、ヒロインは何かに怯え「出られない!出して!出して!」と叫び続けているらしい。王子は精神を病んだと言っているが、この症状を私は知っている。『忍ラバーズ』で断罪され夢幻泡影と言う術をかけられたアヤメと同じ状態だ。
優秀なアヤメでもかけることができなかったあの術をかけたのはゲーム内で誰だったのだろう?
この世界には忍術が無いので、闇魔法のようなものでもあるのかな?
そんなことを考えながら、
「いえ、大丈夫でこさいます、報告していただきありがとうございました。」
と挨拶をした私は、その後お兄様のエスコートで卒業パーティーに出席し、3年間のスクール生活を終え、次の日にはお兄様と一緒に領地へと戻ったのであった。
◇◇◇
ゲームの3年間も終わり、さぁこれから何をしよう、この世界には私以外に黒髪に黒い瞳なんてお父様のお祖父様の姿絵でしか見たことない、20年ほど前に王都のスラムで見かけたと言う情報はあるけど、今ないならそう言うことなんだろう。幸いにもお父様はいまだに結婚しなくていいって言ってくれている、領地でのんびり魔獣退治しながら過ごそうかな~
なんて半刻前まで考えておりました。
なのにこの状況はいったい何が起こったのだろう!!
「アヤメ久しぶりだね。」
なんて言いながら、私の最推し、忍術学校の先生が私のベッドに長い脚を組んで腰かけております。衣装もそのままですわ!
何が起こった!と考える以前に鼻血が出そうです。
「いかなる時でも精神を乱してはいけないって教えなかったっけ?」
立ち上がった先生は私に歩みより私の頬に手を当てます。
もう精神ギリギリ倒れそうですが、これが夢なら次起きた時には先生はいなくなっているかもしれないと思うと怖くて倒れられません。
「夢じゃないから大丈夫だよ。」
心の中を覗かれているかのような返事に、ドキドキしながら、
「えっなんで鳶先生がここに?」
って呟く。
「さぁなんででしょう?」
そう言いながら、先生は自分に術をかけていく、
(あっ、これ幻術だ~)
と思う私の目の前で先生の姿がお兄様に変わっていく。
1000年に1人と言われる天才忍者の先生の幻術を100年に1人の私が破ることなど出来ない。
私が産まれた時から先生は側にいたんだ、、
(そう言えば……)
鳶は英語でカイトだなーとか
忍術学校で問題が起きると「困ったな~」と言いながら頭をかくのは私の大好きな先生の癖だったなー
とか思い出しながら、私は先生の腕の中で意識を失ったのである。
と、その前にこれだけは言わせて欲しい!
『私だけ違う乙女ゲームの登場人物だと思ってたら、もう1人いたよ!』
さて今度こそ本当に意識を失います。
ーーーーーーーー◇◇◇ーーーーーーーーーー
side鳶、カイト
俺は自分の腕の中で意識を失ったアヤメを抱き抱え、そっとベッドに横たえた。
(やっと、やっとこの腕の中に帰って来た)
アヤメの頬に手を当てていると、自分の頬に温かい何かが流れているのに気が付いた。
◇◇◇
俺はこの世界に生まれる前に、忍の里という、こことは全然違う世界で生きていた。
1000年に1人の天才と呼ばれても心はいつも乾いていて、ただなんとなく親がいない俺を拾ってくれた里の親方の下で忍をやり、里の為に死ねたらなーなんて、子ども心に生意気にも思っていた。
そんな俺に変化が起きたのは7歳の時、親方の所に赤子が産まれた。
寝てばっかりので中々眼を見せないその赤子が、俺の指を握った瞬間、パチリと瞼をあげて黒曜石の眼を俺に向けたんだ。
その時、『あぁ、この娘を守る為に生きたいなー』って『生きたい』ってはじめて思ったんだ。
アヤメと名付けられたその娘を守るため、そこから俺は才能に胡座をかかず、里の誰より努力をするようになった。
そこから半年ほどたった頃、里に1人の赤子が捨てられいた。その赤子を見たとき俺はなんか嫌な予感がしたんだ、赤子の胸当たりに黒い靄も見える、でもそう思っていたのは俺だけで、親方はその娘を自分の養子として育てるって決めてしまった。
同じように拾ってもらった俺がとやかく言うことじゃないし、親方の奥方がアヤメを産んだあと体調を崩しもう次の赤子を望めないってのもあって、その赤子はアヤメの妹として育てられるこたになった。
だから俺は何があってもアヤメを守れるように訓練にあけくれ、禁術までも扱えるようになった。
そんな俺の側で育ったアヤメも人一倍努力をし、10歳をこえる頃には
100年に1人の才能の持ち主と言われるようになっていた。
ただ。あの妹はダメだ、努力もせず、拾ってくれた親方たちへの感謝もなく出来ないとピーピー泣くだけだ。相変わらず胸に黒い靄がみえる。「にいさま」って呼ばれ抱きつかれると嫌な寒気もする。
アヤメには「お兄様頭に葉っぱがついてるわ、狸みたいね。化かさないでね。」なんて髪の毛に触られるだけで胸があったかくなるのにな。
アヤメが年頃になったら房中術も俺が教えた、アヤメに教えるのは俺だけがよくて、1000年に1人という特権も使った。
そして、アヤメが学校を出たら婚姻を結ぶ約束を秘密裏に親方夫婦と結んだ。
アヤメが学校に通う頃になると俺は教師と忍の任務をかけもつようになった。なんだか最近里の空気がおかしい、何かに蝕まれているように感じる。でも原因がはっきりしない。
里の男たちが任務で大きな失敗をした、もう少しで雇い主の藩主の命がなくなり、世の中の均衡が崩れる所だった。そうならなかったのはアヤメを筆頭とするくノ一の働きのおかげだ、アヤメの指導のもと、男たちに負けないほどの実力をつけている。そんなアヤメを誇らしくも心配にも思う。
里がおかしくなった原因がわかった時、すでに里は取り返しがつかないことになっていた。
考えていた通り原因はあの妹だ、あの娘は産まれてすぐに体内に毒を仕込まれこの里に捨ておかれた、娘から発せられる男にだけきくその毒は正常な判断を奪う。赤子を養子として育てると決めた時、すでに親方はその毒にやられていたのかもしれない。
その毒はゆっくりこの里の男たちを蝕ばんでいたのだった。
原因を突き止めるのが遅くなったのは、まさか産まればかりの赤子の体内に入れることの出来る毒なんてあると思わなかった先入観とそれをしかけたのが友好的な協定を結んでいる里だった為、調査が遅れたからだ。
敵対する数多の里に忍び込み、その間に腑抜けた男たちに代わり任務を1人で行う。そうして時間をとられ、あの悲劇が起きた。
その日、あの妹が原因とわかり、俺は特訓だと言い道場の裏に呼び出した、そこであの娘の力を封じる為に夢幻泡影と言われる禁術を使った。
その瞬間、妹を呼び出した俺を心配してついてきたアヤメを目ざとく見つけたあの妹は、動物を操りアヤメを身代わりにした。その時初めて知ったのだがあの毒は動物の雄にもきいたようだ。
そんな事実を今さら知ったところで時間は巻き戻らない、代わりに術を受けたアヤメは心を壊してしまった。
そこからの記憶はあいまいだが目の前の毒妹の命を奪うことに躊躇はなかった、なぜ最初からそうしなかったのだろう。
俺には俺より弱いやつが放つ毒や術はきかないという驕りがあって、実は俺にも毒がきいていたのだろうか。
心を壊したアヤメを昏倒させ、その間に毒妹が関わった里を潰す。里のくノ一たちを逃がした後は、自分が育った里を男たちごと焼き払った。
そうしてアヤメと二人きり、俺は一度も試したことのない禁術『転生術』を使い二人の命を終わらせた。
「アヤメごめんな」そんな俺の呟きはアヤメの耳に届くことはないだろうが、最期にみたアヤメの閉じられた瞳からは涙が一筋流れていた。
◇◇◇
そうして今の世界で、再び生をうけた。
忍の時の記憶がよみがえったのは、この国のスラムで盗みに失敗して死にかけていた時だ、『死にたくない、生きたい』と強く願ったことで記憶の蓋がひらいたみたいだ。
記憶とともに忍の力も思い出した俺はその場を切り抜け、この世界で生きる力を学んでいった。
アヤメが隣にいないことに絶望を覚えたけれど、探せばこの世界にいるかも知れない。そうして希望と不安をかかえ、俺の新しい人生がはじまったのだ。
その貴族の家を見つけたのは、盗みに入った悪どいと評判の貴族の家からの帰りだった。
月明かりに照らされたその家の庭には、忍の里に咲いていた菖蒲の花にそっくりなアイリスと言う花が一面に咲いていた。
それを見たときに『この家の子にならなくちゃいけない』そんな予感がした。
そこから、そこに住む夫婦が善良であること、結婚して7年だが子宝に恵まれず辛い思いをしていることを調べた俺は、その夫婦に似た色合いになるように、自分に幻術をかけた。
この国で俺みたいな黒髪に黒い瞳の色は1人も見かけず、スラムでも嫌な言葉を沢山かけられ、生きにくかったが、いつかアヤメに出会う時の為にそのままの姿で生活をしていた。
でも今は見た目の色をかえ、偶然を装いその夫婦を助け、色んな段階を踏みその家の養子となることが出来た。
その頃には利用しようと思った気持ちは薄れ、昔親方と奥方に感じたような気持ちになっていた。
家族になったその日、義母になった公爵夫人に抱きしめられた俺は、義母の体内の気の流れが滞っていることを感じた。そこで抱きしめ返すついでに、ツボを圧して流れを整えた。
義母が妊娠したのはその半月後である。
「カイトが幸運を運んで来てくれたんだな~」
って義父は俺を嬉しそうに抱きしめてくれた。
俺は妊娠中の義母を全身全霊で守った、そして出産の日、俺は奇跡を見た! 産まれた赤子はアヤメそっくりだったのだ!
義父と義母は喜びながらもアヤメの色に不安を感じている、
俺はそっと、義父の祖父が黒髪に黒い瞳だったと言う暗示をかけた。
後で屋敷に飾られている姿絵にも幻術をかけておこう。
アヤメが今回も俺の指を握りながら目を開いた、その黒曜石の輝きをみた瞬間俺は気づいてしまった。
(中はアヤメの魂じゃない)
禁術にかかっていたアヤメにさらに禁術をかけたからだろうか、アヤメの魂は迷子になってしまったみたいだ。
それでも、俺はこの娘を守ろう。悲しくて泣くことが無いように、俺が側でしっかり見ていよう。
◇◇◇
それから、アヤメはすくすく育っていった、あの両親と俺に育てられているから、心も健やかに。
こちらでの名前はアイリスだ、俺がこの名前を頼もうとしたら、義父も義母も、同じ名前を考えていた。
俺は俺で、この家に来てからさまざまな教育を受けさせてもらっている、この世界の魔術も勉強して忍術と合わせることで俺は新しい力を手に入れた、その中の1つの力で、俺はアヤメの魂をうっすら感じる事が出来るようになった。
でもアヤメの魂はガラスの向こうにある感じで遠い。違う世界にいるようだ。
さらに力をつけ、魂をこの世界に引っ張る方法もわかった。でも今の遠さだと無理だ、もっとこっちに近づいてくれアヤメ。
俺は15歳になり領地を離れ、王都のスクールに通うことになった。
最近領地に面している森林の魔獣の数が増えているのが心配なので、なるべく数を減らして、魔獣避けの薬を撒いておく。これで次の長期休みまでは大丈夫だろうが、ゆっくり時間をとって調べるべきだな。
◇◇◇
アイリスが10歳になって、俺が長期休みで領地に帰って来ている時に、それはいきなり頭に飛び込んできた。
アヤメの魂が限りなく前世で転生術を使った場所に近づいている、
チャンスは今しかない! 俺はありったけの力でアヤメの魂をこちらに呼んだ。あちらのアヤメとこちらのアイリスが同調したことで、行動もシンクロしてしまいアイリスが階段から落ちてしまった。とっさに風をおこしアイリスを受け止めたのでケガは無かったけど、急にアイリスが落ちた所をみると、向こうのアヤメはどこからか落ちる途中だったのだろう。
それからアイリスは3日間目を覚まさなかった。
俺はアヤメにひどい事をしていると自覚している、アヤメの気持ちを一切聞かず、俺がアヤメと居たいが為だけに動いている。
それでも、離せないんだ、どうか早く目を覚まして。
アイリスが目を覚まし、その瞳を見たときにアヤメの魂がきちんと入ったことがわかった。
その小さな身体を抱きしめた時にさらにアヤメにひどい事をした、これからの為に今しかチャンスは無いんだ。
(ごめんねアヤメ)
そう心で呟きながら、俺はアヤメの魔力を封印した。
それから暫くベッドの上から動けなかったアイリスは、歩行許可が出た日に自分の姿をみて倒れた。
その後はすっきりした顔で起き、こっそり手のひらの上で忍術をおこしている。
天井裏からその様子をこっそり見ていた俺は、思わず「アヤメ」って抱きつきに行きたくなったけれど、まだ我慢だ。
ある日人払いをするとノートに何かを一生懸命書いてる姿がみれた、
ここから内容は見えないが、ぶつぶつ呟いている。
「攻略対象は5人」「第2王子」「ヒロイン」「騎士団長の息子」……
途中から頭が真っ白になった!
アヤメはこの世界の誰かと結婚したいのか?
どうしてその人物を詳しく知っている?
でも、俺が魔力を封じたからもうこの国の貴族には嫁げないんだ、ごめんな、、
そんなほの暗い気持ちでいると、さらに不穏なキーワードがでてくる。
「断罪」「喉をやかれ」「斬首」「手を切り落とされるのはいやだなー」「お父様が12歳の時に魔獣にやられてー」「お兄様は14歳の時」
ん? アヤメが断罪される? そんなことはさせないぞ。
義父と俺が死ぬ? そんなことありえない。
アヤメにはいったい何が見えているんだい?
でも俺が守るから心配しないで。
パタンとノートを閉じる音がして下に視線をもどすと
「目指せお父様とお兄様の死亡回避!」
エイエイオーと細い腕をあげてかわいいポーズをしているのが見えた。
エイエイオーってなんだよ!思わず笑みが浮かぶ、
アヤメにどんな記憶があるのかわからないけど、あのかわいいポーズの為に、君の願いが叶うよう協力してあげるよ。
◇◇◇
それからの4年はかわいいアヤメを沢山見れた。
かけっこでズルをするアヤメ、わざと転けて勝ちを譲る僕の頭から葉っぱをとって「狸みたい」って言われた時は泣きそうになった。
夜中にこっそり、魔獣退治をしているのを見れば、倒し残しをひそかに処理し。
自信満々に隠密行動をしているのを見つからないように助け。
貴族の邸宅や城に侵入するのも助け。
アヤメが作った毒には他の人から見えないように隠匿の術をかけた、あれでばれないと思ってるなんてかわいいなー。
毒で倒した魔獣の処理ももっときちんとしないと。
苦無も回収し忘れてるよ。
社交の場には出なくていいからね。こんなかわいい姿を他の男になんて見せたくないから。
そんな風に過ごした4年目のある日。
久しぶりにアヤメの
エイエイオー!
が聞けた。
今度は平和な3年間か、その目標かなえてあげるよ。
そのためにアヤメにちょっと認識阻害の術をかけてあげるね。
そんな俺の努力を他所に、時々アヤメは存在を主張する、その姿をみた生徒からは「幻姫」なんて呼ばれている、本当にスクールには害虫がいっぱいだ。
ピンク髪の変な生徒にからまれて、ひと悶着あったけど、なんとか無事に卒業だ。
牢屋に忍び込みあのピンク髪に夢幻泡影をかけたけど嫌いにならないでね、アヤメを傷つけ、侮辱し、人の死を物語のように意気揚々と語る姿がどうしても許せなかったんだ。
君が黒髪、黒い瞳の男性が好きだっていいこと聞いたから、今日は19年ぶりに幻術をといて、あの頃の姿で君に会いに行くよ。
どうか、俺を受け止めてね。
END
ヒロイン→『忍ラバーズ』→現代日本→『戦場に咲く花』の順に転生、『忍ラバーズ』の記憶は無い
ヒーロー→『忍ラバーズ』→『戦場に咲く花』の順に転生
現代日本のヒロインの親友はたまたまあのタイミングでメッセージ送ったけど、あの場所に行った時点で魂ひっぱられてるんで、責任とらなくていいからねーといつか伝えてあげたい。