宇宙人の夢オチ談義
家紋 武範様主催【夢幻企画】の参加小説です。
「みんな、見てくれ。また宇宙生物の資料が見つかった」
「今度はどんな生き物だ?」
「文字はどれに近い?」
悠久のときを生きる我ら。
この星に来てから仲間は欠けることはあっても、増えることはない。
偉大なる母星から振り落とされた罪人たる我らに休息の日々などない。
けれど、何もせずに死を待つというのは、我らをもってしても退屈であった。
「文字の形はグリンが持ってきたものに近いな」
「ということは、地球に住む人間の記録か!」
「いいぞ。あそこは戦争もするし、文化も奇妙だ。きっと我々の心を満たしてくれるに違いない」
「さて、早速解読しようか」
「ああ。向こうで暇してる連中も引っ張ってくるよ」
退屈をもて余した我らがしたのは、壊れた飛行船を直すことと、直した飛行船でさまざまな星の資料を集めることだった。
元より我らは知を集めるもの。
それは、二度と母星には帰れぬ身になっても同じこと。
我らは探究すること、蓄積することがなによりも好物であった。
「今回は文化の方の資料のようだな」
「ああ。妙に修正された箇所はあるものの、修復する手間がなくて助かる」
「軍事資料などは検閲があって、もとの文章が読めぬことがある。あれではつまらない」
蓄積した知識は仲間たちと分け合うのが鉄則だ。
仲間の意見を聞き、本質はどうであれ、あれだこれだと話し合う時間がなによりも楽しい。
なお、蓄積はするが、継承は任意だ。
欠ける一方の我らに、残すものはなくていい。
「これは……小説か。しかも結構な量だ」
「いや、よく見てみろ。これとこれは題名が違う。ショートショートの集まりのようだな」
「レド、君はその言葉がお気に入りかい?」
「ああ、すまない。我らの言葉でいうところの短編集だったな」
「そういうのは確か……マウントとか言うんじゃなかったか?」
「ブルまでそんなことを言って。我らは人間の言葉が大好きだな」
グリンは資料に伸びる触手の先を緑色に光らせて、笑った。
我らも一斉に触手の先を色とりどりに点滅させて笑った。
「短編集か。じゃあ、それぞれ区切ってそれぞれ翻訳しよう。そして、あとで持ち寄って小説の内容を説明するんだ。みんなが説明し終わったら、一つずらして、また翻訳しよう」
「前のやつとは違う何かが見つかるかもしれないからな」
「パプルめ、この間の読み落としを根に持っているようだ」
「まあ、いいじゃないか。我らに時間は永遠にある。これはよい暇潰しになろうぞ」
しばらくは紙をめくる音と、カチカチという歯音が聞こえていた。
それから、さまざまな感情の発露としても使われる触手から、それぞれの光が漏れるのも見えた。
私が翻訳している紙の束もかさかさ言ったし、私の歯も興奮のあまり上下に揺れた。
触手からは、正の感情を表す規則的な点滅と、青色の光がこぼれていた。
「……という話だった」
「ふーむ、またその終わり方だ」
「夢オチか。我らの知らぬ言葉だな」
「夢についての資料は以前あっただろう。人間が眠るときに見たり見なかったりするものだ、と書いてあった気がする」
「眠るというのは休息の一種だったか?」
「そうだ。我らは休息を必要としないからいまいち分からないが、夢で落ちるのだから、さぞかし恐ろしいことのなのだろう」
落ちる。
それは我らが罪人となった原因でもあった。
今さらその言葉に恐怖を感じることはないが、それでもそれを休んでいる間に体験したら、なんと恐ろしいことかというのはよく分かる。
だが分からないのは、何故恐ろしいものを小説の終わりに使いたがるのかということだ。
この資料には、20と8の短編が挟み込まれていたが、一つを除いてそれらはすべて夢だったという終わり方をしていて、残りの一つにそれが夢オチと呼ばれる手法であると書かれていた。
人間たちは何故夢オチを好んだのか。
これが今日の議題だった。
「最後に恐ろしい目に遭わせて、矛盾点などをうやむやにしようという作戦ではないか?」
「いや、インパクト重視に違いない」
「そうだ。この前落ちていた人間の資料の、何かでも爆発が多用されていたではないか。人間は最後に何かとんでもないことを起こすのが好きと見える」
「何かではない。映画だ。映像作品だ」
「共通するのは、架空世界の衝撃たる終わりか。普段の生活がよほど退屈なのだろうな」
「ちょうど我々のように?」
グリンの言葉にパプルが茶々を入れた。
我らの触手がチカチカと光る。いけないいけない、笑いをこらえなくては。
まずい、グリンの触手がこっちを向いた。
その緑色の光は、私を睨み付けるかのように点滅もせず暗く光っていた。
グリンの負の感情に気付いた我々は慌てて触手を引っ込め、何食わぬ顔で続けた。
「しかし我々は夢を見なければ、爆発も嗜まない。やはり人間と我々は違う生き物なのだな」
「当然だ。あいつらは宇宙生物で、我らスキエンティア人とは違う」
「身体なんて、我々よりはるかに大きい。発達が偏ったのか未熟なのかまでは分からんが、手足などというものまである」
「触手もないし、光らないとも言うな」
「まったく、摩訶不思議な生き物だ」
ひとしきり我々の自慢が済むと、話題はまた夢オチの話へと戻る。
夢オチはいい話題だ。
我らの探究心を満たしてくれる。
嗚呼、死ぬまでこうして仲間と語り合っていたいものだ。
読んでくださった方と、家紋 武範様に感謝を。
せっかくだからと宇宙ジャンルに挑戦した結果がこれだよ。
活動報告にあとがき的裏話あり。
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