表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

過去を読む

作者: PAOKUN

作者は母親がどうも苦手です。

 母がこんなにはやく死ぬとは思わなかった。誰もが驚いた。一番驚いたのは父だった。父は母が自分よりも遅く死ぬと思っていたのだ。父は自分が死んだときのことを考え、いろいろと準備していた。お金のことを一番悩んでいた。どういう感じで、私と母に分けようかと目が白くなるくらい考えていた。父はお金の恐ろしさを良く知っていた。友人はお金のせいで死んだ。優しかった父の姉はつばを垂らしながら、祖父の金をよこせと言ってきたという話は今聞いても恐ろしい。母が死んでから父はお金を数えるのをやめた。

 

母はよく私にこう言っていた。

「お前と私に違いがあるか、いやない。なぜなら腕は一本や二本あるし、目もゼロ個、一個や二個ある、鼻もあったりなかったりするが特に違いはないんだ。」

小さいころ言われたときはよくわからなかったが、今ならわかる気がする。


 父は気が小さかったが燃えるような魂を持っていた。母はそこを好いていたのかもしれない。私は学校の授業で自殺する人の話を聞いた。先生には授業の感想を書かされた。父は言った。

「自殺のことなんか自殺する者だけが考えればいい、自殺者の気持ちなんてわからなくったっていいんだ。」

なぜかもっともだと思った。

いつだって真っすぐを向いていた。

そんな父は八十になろうとした春、散歩に行くと言って帰ってこなかった。

 



 母は死ぬ直前に病院へ入った。夕方ごろ、毎日のように病院へ向かった。帰りの車の中は冷え切っており、沈む太陽はもう暖めもしてくれなかった。家族三人で遊園地へ遊びに行くことがあった。入り口で母が写真を撮ってくれとカメラを渡してきた。私の元から離れていったのだ。母はメガネを取り、髪を手でとかし、空を仰ぎ、こちらを向いた。その思い出がサイドミラーに流れていたようだった。



 母はすんなりと死にたがっていた。治療などごめんだといった。無理に生きたってしようがない。鼻にチューブを刺される。飯を鼻で食うなどごめんだとも言った。一番悲しいのは、生きるだけ生きて、頭がおかしくなり、お前のことが分からなくなるのが嫌だといった。私はずっと病室でささくれをいじっていた。私から話しかけるのは嫌で話しかけてほしかった。力強く握った手は、もうこれしかできないことを物語っていた。力強い無力。踊る衣装。目には見えない信号機。散らない桜。






 しんみりした部屋だ。俺は出た。毎度毎度このような家族に出会う。温められたものはいつか冷める。そしてみんな、覚める。友人と飯を食っているときには忘れているはずだ。時折、思い出す、その視線の先はどこでもよかった。病室の扉を閉めながら、ぎいぎいと鳴く、ネジの緩みを呪い、食堂へと急ぐその足音に生命を感じた。休憩の打刻をせずに出る。職場はなんとも幸せか! うどんをすすり、白米を喰らった。水は何とも冷たいな! 椅子をどんとしまい、口をぬぐった。なんと汚いか! 職場に帰ってきたら上司に今から休憩に行ってきますと伝え、打刻を打った。人生そんなもんさ。

 


小説はリズムだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ