第2話 追いかけてきたのは…
カフェを飛び出してから走ること10分。さすがに疲れてきた瑞希は駅へと続く道をとぼとぼと歩いていた。
逃げ出すような形で逃げてきた。あの後どうなったんだろう。
小春たちには悪いことをしたと思う。だけど、あれ以上あそこになんていたくなかった。
あの相葉とかいう男がいる所なんて……
時刻は午後7時を回っている。
バスで帰ろうと思っていたのに、瑞希はカフェにバッグを忘れてきたことに気づいた。
最低だ。なんてついてない…
瑞希は自分自身の不運にため息をついた。
ふと、相葉のことを思い出した。
端整な顔立ち。一目見ただけで、おそらく多くの女性を見とれさせることができるだろう。それくらいかっこよかった。
だけど、口を開けばその正体がわかる。
瑞希もあんなにはっきりと言われたことがなかった。それくらい、瑞希の精神はズタズタに切り裂かれた。
私が何をしたのよ―――
思い返しただけで目頭が熱くなる。悔しくて、惨めで、嫌になる。
「もうやだ……」
なんでこんなに地味なんだろう。なんでもっとかわいくなかったんだろう。
小春のようにかわいくて、みんなから好かれる人になりたかった。
考えながら歩いていたせいか、瑞希は眼下の段差に気づかなかった。
「わっ……」
段差に躓いて転んでしまう。
「いった――」
すぐに起き上がることができなかった。膝がじんじんと痛み、転んだ拍子についた手のひらがすれて赤くなっている。
通行人が何人か見ているのがわかった。瑞希はその視線を感じて慌てて立ち上がったが、いきなり立ち上がったためにすぐ傍を歩いていた人にぶつかりそうになってしまった。
男女のカップルのうち、ガラの悪そうな男が露骨に迷惑そうにこっちを見ている。
瑞希は慌てて頭を下げる。
「すいません」
「ちっ…邪魔なんだよ、ブス」
その言葉は今の瑞希にはこたえた。
「ちょっとー聞こえちゃうよー」
「大丈夫だって」
カップルはそのまま歩き去ってしまう。笑い声だけを後に残して。
瑞希はその場で1人深く俯いた。
膝が痛い。風が吹くたびにしみて痛い。
本当に今日はなんて日だったんだろう。こういう日は早く帰って、お風呂に入っちゃおう。あ、でもお風呂入ったらしみて痛いかな。だけど、家に帰れば誰も自分のことを罵倒する言葉なんて言わない。家が1番安心する――…
そんなことを考えても、涙はとまらなかった。口元を引き締めて堪えるが、どうしても涙がとまらない。どうやってとめるのかわからなかった。
「――――」
何かを言われた気がした。だけど、瑞希は顔を上げない。そのせいか、近くにいた誰かにぶつかってしまった。
――また何か言われる…!
瞬時にそう思った瑞希は慌てて頭を下げて謝る。
だけど、目の前にいたその誰かは何も喋ろうとしない。それどころかその場を退こうともしなかった。
ようやく瑞希は顔を上げた。そして、相手を見て驚くことになる。
相葉……?
それは、さっきの合コンで散々自分をバカにした張本人だった。相葉は決まりの悪そうな表情でそこに立っていた。