第1話 最低の合コン
合コン。
そう呼ばれるものに参加したのは、高木瑞希にとって初めての経験だった。
18歳。高校3年生の春。
「いいよ…私なんて行っても盛り上がるわけじゃないし」
「だめ!そんなんだから前の彼氏にふられちゃうんだよ?」
友達の小春。とても美人でクラスの人気者だった。
対する瑞希はとても地味だ。背もそれほど高くなく、小春のようにかわいくない。内気で、目立たない。小学校のときから「いるかいないかわからない存在」としてよく言われたものだった。
今日の合コンも、小春に無理やり連れてこられたものだった。「前の恋を忘れるためには、新しい恋が1番!」って言われて。
午後5時半。約束の時間よりもだいぶ遅れて瑞希たちはカフェに到着した。
それからがまた大変だ。彼女たちは髪の毛やメイクをチェックし、ようやく中に入ったときには40分を回っていた。
「遅くなってごめんなさーい」
瑞希以外の3人の女子が高い声を出す。
すでに席を取っていた男性陣4人はそれぞれに笑顔を貼り付けて出迎えてくれた。
その視線が突き刺さる。たぶん小春たち3人の女子を綺麗、瑞希を地味だと分類しているのだろう。
ふと、1つの視線に気づき、瑞希は顔を上げる。
それは1番左にいる少年だった。端整な顔立ちをしている。かわいくて綺麗な表情が瑞希をじっと見ていたが、やがて不機嫌そうに歪められて、ぷいっとあさっての方向を向いてしまった。
どうせ自分を見て地味だとでも思ったんだ――
そんなことはわかりきったことだ。
「それじゃ、まずは自己紹介からしよっか!」
右から2番目に座る男が段取りを仕切る。その声にみんなが盛り上がった。
うぅ…苦手だなぁ。こういうの。
場違いな身を小さくさせて、瑞希は早く時が過ぎるのを待っていた。
約1時間後、恐れていたことの1つ、知らない人間との会話が起こった。
相手は柔道部だと言う体格のいい男子だが、見た目に反して妙に馴れ馴れしかった。
その頃には席替えも行われていて、瑞希の隣には柔道部の田口が座っていて、彼の向かい側には、さっき目が合ってそらされた少年がいた。
名前を相葉というらしい端整なその少年は、女子からとても人気だった。
「高木さん、瑞希っていうんだ。名前で呼んでもいい?」
田口がにっこりと笑って言う。
「は、はい」
緊張しながら答える。
「そんなに緊張しなくてもいいって。なぁ、相葉?こういうのもなんか初々しいな」
相槌を求めて田口が相葉を見る。相葉は少しだけ笑ってこっちを見た。
「初々しいってーか…古臭くね?逆に狙ってんの?」
なに…?なんでこんなこと言うの――?
「べ、別に狙ってなんか――」
思わず抗議するが、相葉の冷ややかな視線が突き刺さった。
「田口もこういう暗そうなのはやめといたほうがいいと思うよ?」
「おっおい…相葉」
慌てて田口がその場を取り繕おうとするが、瑞希は何も聞いていなかった。
なんで初対面の人にこんなこと言われなきゃいけないのよ……
悔しくて涙が出そうになった。
前の彼氏のときもそうだった。
小春に紹介されて、つきあってみたけれど、影で「つまんない」「暗い」って言われていたことぐらい知ってる。
ふられたのもすぐのことだった。
わかってる。言われなくてもわかってるから。
もう恋なんてしたくない。帰りたい――帰ろう。
ちらりと店の時計を見て、立ち上がろうとしたときだ。
「でもさ、俺も合コン初めてじゃないけど、あんたみたいなの初めてだ」
相葉が屈託のない笑みを浮かべて言う。瑞希はびくっとした。
「来るとこ間違えてんじゃないの?」
なんで。なんでこんなこと言われなきゃなんないの………
悔しくて、でも何も言い返せなくて、ただ涙だけが溢れてきて…
こんなのやだ。こんな人の前でなんて泣きたくない――!
だけど、限界だった。
瑞希は耐え切れなくてその場を飛び出していった。