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リセット

作者: 琉慧

 朝、目が覚めて、真っ先に思い浮かぶ、君の事。

 なんて甘くとろけるような歌を十年以上前に好んで聴いていた覚えがある。

 でも今、私の目が覚めて、真っ先に思い浮かぶのは誰の事でも彼の事でもなく、私自身のこと。

 私自身の事を思い浮かべるからと言っても、別に私が自己愛に満ち溢れているって事じゃあ無い。


『いつになったら結婚するの?』


 開目一番、私は私自身に必ずその言葉を投げ掛けられる。

 寝覚めは最悪、けれど、目は良く覚める。

 そんな最高に最悪の目覚ましの音を、私は三十路を超えた辺りから数年間ずっと自身の内に鳴り響かせている。

 停止ボタンなど無い。 鳴ったら鳴りっぱなし。


 溶けてしまいそう。


 その音の大きさはその日の就寝前にピークを迎え、更に一つ音が加えられる。

 

『いつまでこんな生活を続けていくつもり?』


 二つの音にさんざめかれた私の就寝間際の精神は、ぼろぼろだ。

 唯一の救いは、一度寝てしまうとこの精神状態がある程度リセットされる事。

 でも次の日には結局、開目一番の私からのあの言葉で全てを思い出さされる。


 息が詰まりそう。


 結婚したくない訳じゃない。

 結婚したいのに出来ないのは、努力が足りないからだと誰かが言う。

 私だってそれなりの努力はしているつもりだ。

 でも私の場合、努力だ何だで補えるような問題でない気がする。

 その問題が自分でさえも解けないのだから問題だ。

 自分でさえ解決出来ない問題を、他人が解決出来る筈も無く。

 私は私の生活を変える力も無く。

 十数年以上前の在りし頃の時代に心を置いたまま老いていく。


 『好きだ』なんて絶対に言えない。


『あの人結婚したよ。 ほら昔、あなたの好きだった』

『来月には子供が生まれるらしいよ』


 耳に入ってくる情報は焦燥へと変換され。

 頭が、心が、ぐちゃぐちゃに掻き乱され。

 今すぐにでも全てをリセットしてしまいたくなって。


 けれど、目が覚めてもぜんぜんリセットされない日が訪れたら。

 私はもうこの世界で生きてゆく事に耐えられなくなるだろう。

 その時は、思い切って首でも斬って、この世からバイバイしてやろうかしら。


 ――なんてね。


 そんな度胸もないままに。

 今日も私は心の中に、最高に最悪の音を鳴り響かせる。

 停止ボタンなど無い。 鳴ったら鳴りっぱなし。


 溶けてしまいたい。

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