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04 お買い物

 翌朝はいつもと同じ時間に目覚めた。

 今日からしばらくお休みだ。

 寝間着は昨夜のまま乱れてはいなかったが、しっかりとフォードに抱きこまれていた。

 改めてフォードを観察する。

 今は閉じられているが黄金色の瞳と髪色で、虎に似た耳。少し長いめの髪はゆるくウェーブしている。

 ここまで美形だと長髪も似合いそうだ。

 今は布団の中にある虎尻尾は昨日、確認した。太くてふかふかしている。

 フォード自身はどうでもいいが、尻尾は触ってみたい。

 フォードは間違いなく美形だ。海外の映画俳優のようだと思う。ほんとテレビで見るだけなら好きになっていたかもしれない。

 じっと顔を見つめているとゆっくりと目を開けた。

「で、好きになったか?」

「顔もほとんど見ていなかったな…と思って見ていただけです」

「好みの顔か?」

「………私の顔立ちはかなり平凡だと思いますが、番効果で良く見えたりするのですか?」

 真っすぐ見つめられた。

「さらさらの黒髪は好きだ。できれば伸ばしてほしい。顔立ちは子供っぽいが可愛いと思う。小さな体は壊しそうで怖いが悪くはない。オレが運ぶのにちょうどいい。で、オレの顔と体は好きか?」

「恋愛結婚で一番大切なことは性格です」

 笑った。

「おまえなぁ…。だから手を出してねぇだろ。普通、成人した番が出会えばそのまま一週間以上ヤりまくりだぞ」

 それでは実母のようではないか。顔が強張る。

「そんな顔、すんな。番が嫌がることはしねぇよ。せっかく見つけた番だ。大事にしねぇとな」

 そう言って私の眉間の皺を指で撫でた。


 フォードの屋敷には立派なキッチンがあった。鍋や食器なども揃っているのに食材がなかった。

「すべて外食ですか?」

「まぁな。朝食くらいは買う時もあるが…、依頼で三ヶ月以上、家を空けていたんだよ」

 だから会わなかったのか。そして三ヶ月もかかる依頼って…、聞くとあっさり教えてくれた。

「この国の王女が隣国に視察に行くっていうから護衛だよ。昨日、一緒にいた狼獣人…リムゼンと一緒に行ってきた。護衛なんてつまんねぇ仕事は断りたかったが…」

 王族の側にいても許される高位貴族で実力も伴った冒険者。それはとても少なそうだ。

「王族にはそれぞれ護衛の騎士団がいるが、旅に慣れているわけじゃねぇからな」

 いきなり現れる魔物だけでなく、暗殺者なんかもいるかもしれない。

 臨機応変に対応できるのは冒険者のほうだ。

「報酬は良かったけど二度と引き受けたくねぇな。魔物をぶっ飛ばしているほうが楽だ」

「私は魔物よりもこの家のキッチンが気になります」

 素晴らしい。オーブンや冷蔵庫がある。魔力で動かすから、フォードに頼まないと。

「あの、使えるようにしてください。料理、したいです」

「できんのか?不味いもん、食いたくねぇんだけど」

 ムカッとしたが、貴族の生まれでAランク冒険者ならば不味いものなんて口にしないか。

「では食事は別でお願いします」

「おまえが作るなら食べる」

「無理に食べなくてもいいです」

「絶対に食う」

 出掛ける支度をして一緒に街に出た。

 服は昨日、買ったものを着ている。ひらひらしたものはあまり好きではないためキュロットとスパッツ、ショートブーツ。上は厚手のシャツに丈の短いコート。

 これで腰に短剣でもあれば薬草採取の冒険者スタイルだ。

 肩甲骨の辺りまである髪は後ろでひとつに結んでいた。オレンジ色の花がついた髪飾りをつけている。服装も茶系、オレンジ系でまとめられている。

 フォードの髪や瞳の色を意識してのことだろう。日本だと全員、黒髪、黒眼だからこういった発想はなかったと思う。それとも…大人になればあったのかな。

「で、何を買えばいいんだ?」

「冷蔵庫はどれくらいの温度まで下がりますか?」

「魔力で調整できる。あと、保存ならマジックボックスのほうが…」

「マジックボックス?」

「実際の大きさよりもたくさん収納できる箱やバッグだよ。時間の経過も遅らせることもできる」

 そんな便利な物まであるのか。魔法、すごい。

「オレが昨日、持っていたカバンもマジックバッグだったろ」

「………」

 思い返してみる。自分で荷物を持たなかったのでよくわかっていなかったが、見た目以上にたくさんの物が収納されていたかも。

「重さも軽減できるから、おまえにも作ってやる」

 この人に…、できない事はないのだろうか。そんな物まで作れるとか、どれほど優秀なのか。

「フォードはすごいですね」

「惚れたか?」

「いや、むしろ引いています」

「なんでだよ」

「そんな凄い人と恋愛とか、ますます無理……」

「アリーも練習すればマジックバッグくらい作れるようになるぞ」

 なんですと?

 見上げる。

「アリーの魔力量は平均より多い」

「わかりません」

「みたいだな。たまに天才的に向いてないヤツもいるが、そんなヤツでも半年も頑張ればひとつくらいは魔法を使えるようになる。訓練してみるか?」

「お願いします」

「オレは厳しいぞ。魔法は扱いが難しいし危険も伴う。指導するのに手加減はしない。怒鳴るし殴ることもある」

 真面目な顔で言われた。遊びではないということか。

 怒鳴られるのはまだしも殴られたら吹っ飛びそうだが…、いや、それよりも魔法を覚えたい。

「が、頑張ります!」

 笑ってひょいと抱き上げられた。

「オレがアリーに厳しくするわけないだろ。うんと優しく教えてやる」

 ここはトキメクところかもしれないが、やはりちょっと引いてしまった。


 時間経過を遅らせるマジックボックスがあると聞いたので、思いきっていろいろと買ってもらった。調味料は一通り、小麦粉やお米に似た穀物、野菜に肉。生魚は流通していないため干し魚になるが、煮干しに似たものを多めに買う。

 日本での記憶は薄れてきているが、常に空腹だったせいかよく料理番組を見ていた。なんとなく煮干しで出汁をとる…とか、中途半端な知識が残っている。

 ばぁばの料理はレパートリーが少なかったが美味しかった。田舎は食材が限られているためあれこれ作るのは難しいが、その分、ひとつの料理を極めている人が多い。

「腹減って倒れそうなんだけど」

「食べて帰りますか?」

「作ってくれるんだろ?」

 すぐに食べられるようにフランスパンのような外側が硬いパンを買う。

 買物を終えて歩いていると昨日見た狼獣人さんに声をかけられた。

「フォード、なんで外に出てんの?」

 フォードは何故か得意気に答えた。

「オレ達は恋愛結婚するからな」

「………は?いや、意味、わかんねぇな。その子、番だろ?」

「番だけど、恋愛もするんだよ」

 フォードと私を交互に見て言う。

「匂い、つけてなくて大丈夫か?」

「しばらくは一緒に過ごすし、対策はとる」

「一緒にいるなら大丈夫か。フォードの番に手を出すなんて自殺行為だもんな」

「しばらく依頼を断るからな」

「わかってるって。三ヶ月も無駄に拘束されたからな。オレもダラダラ過ごしてぇ……」

 首を傾げた。

「食いもんの匂いがする」

「アリーが手料理を食べさせてくれるんだ」

 だから、何故得意気なのか。

「おまえ食わず嫌い多いし、めっちゃわがままなんだから、作ってもらったもんに文句言うなよ」

「言わねぇよ」

 いや、食べる前にすでに言ったよね。不味いものは食べたくないと。

 なんとなく…、二人で食べて不味いと言われたらショックを受けそうで、狼獣人さんを誘ってみた。

「フォードのお友達ですよね?ご一緒にいかがですか?」

「は?」

 フォードが思い切り不機嫌そうな声を出したが、狼獣人さんはにこーっと笑った。

「いいの?行く、行く」

「来るな」

「フォードに誘われたわけじゃねぇもん。ね?」

 同意を求められて頷く。

 フォードは唸り声をあげていたが、私が『フォードの友達とも仲良くしたい』と告げると渋々同意した。

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