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番かどうかわからないので恋愛結婚を希望します  作者: 幸智ボウロ(bouro)


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18/28

18 武闘派集団

 田舎の村で三日ほどのんびりと過ごした。手の怪我はフォードが持ってきてくれたポーションのおかげでかなり良くなっている。

 おそらく骨にヒビが入っていたと思うが、低級ポーションの塗り重ねで腫れも引いてくれた。

「高度な技術を持つ治癒士以外は中級以上のポーションや高度な治癒魔法は使わないほうが良いんだ」

 骨折なんかを一気に治すと骨が変なふうに曲がったままで固定される恐れがある。

 そういえば風邪薬や軟膏も一日、何回、この分量でと決まっていた。お医者さんに行ったことはないが、学校の保健室でそんな説明を受けた気がする。

「痛かったよな……、ごめんな、すぐに治してやれなくて」

 手の甲を撫でながら言われる。

「オレの治癒魔法はほとんど効かないし…」

「………かけてみてくれますか?」

「本当に効果、ないぞ」

 苦笑しながらそっと手のひらを重ねて。

 じんわりと暖かくなり、また少しだけ痛みが引いた気がする。そう告げると少しだけ嬉しそうに笑った。

「じゃ、夜にも治癒魔法もかけてみよう」

「そうしてくれると嬉しいです」

 思い出す。

「あの…、私の故郷では手当てという言葉があって。痛いところには手を当てているとすこし痛みが引くと…」

 フォードが両手で私の右手を包み込んだ。

「早く痛みが引くといいな」

「もうだいぶ良くなりました」

 狭い家なのでベッドに並んで腰かけている。距離が近い気もしたが、今回ばかりは逃げる気になれなかった。

 王族と敵対するなんて想定外すぎて一人になりたくない。

 二人で他愛ない話をしているとライマとリムゼンが帰ってきた。

「いや~、この村、可愛い子が多いな!」

「リムゼンの番はいなかったけどね!」

「それ、言うっ?自分だっていないじゃんっ」

「私はまだ17歳でーす」

「男の24歳独身は行き遅れじゃありませーん」

 話していると、ドアをノックする音が聞こえた。

「お客さんだ」

 相手を確かめることもせずにリムゼンがドアを開けた。

「アリーちゃん!」

 冒険者スタイルのヴィクトリアさんが入って来た。狭い家なので玄関からキッチン、寝室とほぼ一間。広さとしては2DKなんだけど。壁できっちり仕切られているわけではない。

 数歩で私にたどり着くと、ぎゅっと抱きしめられた。

「リムゼンから聞いたわ。私達が来たからもう安心よ」

 私達?

 他に誰が…と、思ったら伯爵様、オーリアン様、そして初めて会う男性、女性、少年、少女、女性、男性、少女…狭い家が人でいっぱいになった。

「長男のバートンとその家族、長女のイザベラとその家族、だな。みんなアリーちゃんの家族だ」

「いや、嫁に行ったねーちゃんは来なくても…」

「何、言ってんの。嫁に行ったとはいえ、ファーナム家の長女。まだまだ騎士の百人や二百人、ぶっ飛ばせるわ!」

 え、そーゆー理由で来たの?

「フォード君、心配しなくても我がマクマレー公爵家は全面的にファーナム伯爵家を支援する。ジェンナ王女に関しては他にもいろいろと問題があるからな。握り潰された苦情の数が三桁に達している」

「もちろん私の生家、レリュート公爵家もファーナム家を支援させていただきますわ。マクマレー公爵家の皆様と共闘いたしますので、貴族の半数近くがファーナム家側に、そして大多数が中立派となりますわ。面倒な事を言うようなら王家など滅ぼしてしまいましょうね」

 バートン様の奥様、ララ様はすこしふっくらとした可愛らしい女性だが、思い切り物騒なことをこれまたとても可愛い声で言った。

 ララ様、熊獣人っぽいお耳でほんと、とっても可愛いのに。

 ヒース・マクマレー様は虎耳だが色が白い。ホワイトタイガーかな。次期公爵様で、現宰相補佐官。

「え、そんな偉い人達がこんな田舎に来ちゃって大丈夫なんですか?」

 慌てた私に皆が笑う。

「心配しなくても野営の経験はある」

 いえ、オーリアン様、そんな心配はしていません。

「さすがにこのおうちに全員、泊めてはもらえないものね。いっそ、私達のおうちも建ててしまおうかしら」

「おっ、それもいいな」

 よくありません、伯爵夫妻。

「田舎は子育てに良さそうね」

 いやいや、貴族教育が不十分となりますよ、イザベラ様。

「うふふ、子作りにも良さそうな環境よね」

「そうだな、三人目、頑張ってみるか?」

 って、子供達が『弟~、妹~♪』って変なテンションになっていますよ、バートン様、ララ様。

 フォードを見る。

「あの…、本当にこれ、大丈夫ですか?」

「さぁな。大丈夫でなければ、王城から迎えが来るだろ」

 オーリアン様も頷く。

「問答無用で王女の首を刎ねても良かったのに、こちらの辞職で譲歩してやるのだ。気にする必要はない」

 辞職…。

「オーリアン様、騎士としての誇りは……」

「もちろん、ある。だが、それは仕えるだけの価値があればの話だ。あの王女をこれ以上、野放しにするような王家なら、他国で冒険者にでもなろう。腕には自信がある」

 ヴィクトリアさんが『心配しなくて大丈夫』と優しく微笑む。

「私とイザベラの二人で、騎士隊を全滅させられるし、旦那様とオーリアンがいれば近衛兵だって皆殺しよ。残った衛兵は面倒だけどバートンに頑張ってもらって、地方にいる残存兵は公爵家の皆様に狩ってもらいましょうね」

 だから大丈夫…って、全然、大丈夫ではありません。

 私は涙目で平和的解決をお願いした。


 村に滞在中、伯爵家の皆様は楽しそうに過ごしていた。とても楽しそうに…、村の若者達に近接戦闘を教えるヴィクトリア様とイザベラ様。剣の扱い方と志を教えるオーリアン様。そしてバートン様とララ様は若い母親達に浄化魔法を教え、伯爵様とヒース様は町長の家で村の経営についてアドバイスをしていた。

 残った私達はお子様達の遊び相手…なんだけど、実際はリムゼンが一人で頑張ってくれた。

 私を一人にしないように、疲れさせないようにと気を使ってくれている。

「リムゼンは…、良い友達ですね」

「アリーの友達でもある。あいつは温厚な性質だが、今回はかなり怒っている」

「手を踏まれただけなのに、こんな大騒ぎになってしまい申し訳ないです」

「オレの番と知っていてやったんだ。これが…、王女ではなく平民…せめて下位貴族の女の子なら、少しは譲歩できたかもしれない」

 15歳と16歳の女の子同士のケンカならば、そう滅多なことにはならない。今までも突っかかってくる子はいたが、私があまり反応を返さないためすぐに飽きて去っていった。

「今回は一国の王女だ。口先で謝り治療費を受け取った程度では安心できない。15歳の道理がよくわかっていない女の子ではないし、自分を守る騎士も教育係もいる」

 もしも…、踏みつけられたのではなく、騎士が剣を振りおろしていたら。

「王女を諌めることができない騎士は、王女と同罪だ。あの場にいた教育係まで王女をかばった。もう救いようがない。アリーに対してだけではない。あれは他でも似たような事を繰り返している」

 嘘をついてかばうのに何のためらいもなかった。魔法院の魔石もまったく反応してなかったし。

「そういえば…、あの魔石、どうして私にだけ反応したのか知っていますか?」

「あれは真実を映す魔石。アリーが感じた恐怖と混乱に反応した。恐慌状態…というヤツだな」

 魔法院の人達は見たままを話していた。そこに強い緊張も恐れもない。フォードも強い怒りはあったが、報復のために何をすべきかと冷静に考えていた。

 王女側は多少後ろ暗いことがあっても『王家』という絶対権力で守られている。また似たような事を何度も繰り返すうちに罪悪感等も麻痺していると思われる。

「あそこまで強い反応を示すケースはひとつしかないそうだ」

 犯罪被害者のみ。それも一方的に暴力を振るわれた場合。

「王女が実際にやったかどうかは置いといて、そう思えるような恐怖をアリーが感じた。魔法院としてはそれで十分だった。無理難題も吹っ掛けていたようだしな。事件の白黒がはっきりつくまで、魔法院への立ち入りは禁止された」

 フォードに会うためだけではなく、そんな無茶も言ってたんだ。

「ちなみに王女の無理難題って…」

「惚れる魔法や、強制的に番になれる魔法を作れ…とか?」

「それは……」

「どうかと思うだろ?バカが権力を持つとろくなことにならないな」

 笑う。

「15歳の何の力も持ってない女の子なら、むしろ恋する乙女的に可愛らしいと思えたかもしれませんね」

「カンベンしてくれ。ストレートに言うと『オレの心を操る』ってことだぞ?」

「………確かに悪質でした」

 そうまでして欲しかったのだろうか?

 フォードを?

 チラッと見て、まぁ、確かに…とは思う。

 12歳の女の子なら惚れてしまうかも。でもさ、フォードの良さは見た目よりも、もっと別の……。

「魔法院への根回しは終わっている。貴族連中も公爵家が抑え込んでいる。近衛騎士と騎士隊は…、実際、うちのおやじやオーリアンと戦おうとは思わないだろう」

 伯爵様と息子達に何かあればヴィクトリア様も出てくる。

「おふくろは騎士ではないから、戦い方が…えげつないんだ」

 容赦なく急所を攻撃する。にっこり美しい笑顔で『だってワタクシ、か弱い女性ですもの』と。

「オレでも嫌だ。顎を砕かれるのも、腸がねじれるような痛みも嫌だが…、アリーとまだ番ってないのに潰されたら泣く」

 うわぁ…。

「えーっと……、平和的な解決を目指すということですよね?」

「もちろん。国を滅ぼす気はない」

 王女のわがままさえ止めてくれればそれで良い。

 しかし四人兄妹の末っ子長女。生まれた時から『可愛い』と両親、兄達、そして従者達にもあまやかされている。家族に溺愛されるあまり、ああなった。

 家族がいない私にはすこし羨ましいような話だった。

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