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番かどうかわからないので恋愛結婚を希望します  作者: 幸智ボウロ(bouro)


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14 新しい魔法

「これが…、コンビニ……?」

「なに、この種類のパンはっ。こんなにたくさん並んでいるの?」

「ってか、おにぎりもすげぇ種類、あんのかよっ。オレ、もっといろんな種類のおにぎり食ってみたいっ」

 魔法は成功した。次は…、紙にしよう。家の壁が大変なことになってしまう。

「やっぱり…、迷い人は普通じゃねぇな。アリーちゃんはごく普通の可愛らしい女の子だと思っていたのに」

 いえ、普通です。極めて普通の人間です。

「迷い人の知識はこの国の常識を覆すとは言われていたが…、アリーが深く考えずにやった結果がこれじゃ、ますます一人にできないな」

 魔法を覚える前なら問題なく過ごせたが、魔法を覚えた今はどこに地雷が潜んでいるかわからない。

「アリーはオレの許可なしで新しい魔法を試すの、禁止な」

「………はい」

「ただ…、この魔法はとても有用だ。一般化されれば指名手配の罪人や魔物の情報がより正しく伝わるようになる」

 写真に近いものね。どれほど絵が上手な人でも正確さでは写真に敵わない。そのレベルで描ける人はとても少ない。っていうか、私、こんなに鮮明に思い出せるほどコンビニが好きだったのね。

「まずは魔法の解析だな」

 フォードがにやっと笑う。

「魔法院に持ち込んで『魔法』を売り込もう。きっと高く売れる」

「ほ、ほんとですか?」

「どれほどの値がつくかはわからないが、この魔法ならきっと安くはない」

「では、フォードのお財布に頼らなくても…」

「オレとしては頼ってほしいが、アリーは自分で稼ぎたいんだろ?」

 頷く。

 自分が食べるお菓子くらいは自分で気軽に買いたい。あと、下着類とか小物も。

 喜ぶ私をライマが不思議そうな目で見る。

「旦那様に養ってもらうほうが楽じゃない?」

「そう…だけど、私が居た世界では女性も働くのが一般的で…」

 あの母ですら仕事をしていた。パート勤務で休みがちだったが。

「男性を頼らずに一人で暮らしている女性も多かったの」

「寂しくないの?」

「娯楽にあふれた世界だったから、みんな、楽しそうにしていたよ」

 テレビ、パソコン、ゲーム…。本だって簡単に手に入る。コンビニは24時間営業の店が多く通販もある。

「それに…、フォードはまだ恋人ではないし……。番だとわからない以上、私の中では押しの強い同居人って感じだからあまり金銭的な負担をかけたくない」

 嫌いではないし、好きだとは思う。

「こうして皆で集まってご飯、食べるのは好き、楽しい。私…、村でも浮いていたし、元の世界では友達がいなかったから。あのね、こんなふうに皆で集まってわいわいやる時も、自分のお金でちょっとしたものを用意できたらなって思うの。プレゼント交換とか…」

「新しい言葉が出てきたわね。プレゼント交換って何?夫婦や家族で贈るものではないの?」

 説明が難しいが、特別な日でなくても皆で集まる時に小さな物を用意して交換する。バレンタインのチョコとか、旅行に行ったお土産とか。

 私達の話を黙って聞いていたリムゼンがフォードに言う。

「オレ…、アクセサリーをねだる女にしか会ったこと、ないんだけど」

「オレは…、花や食事が多かったな……」

「花や食事なんて当然って感じで毎回、払わされていたよっ」

「貴族の令嬢が自分で支払いなんかするわけないだろ」

「町娘もいたんですぅ~、何、オレ、完全に財布扱いじゃん」

 ライマが苦笑しながら言う。

「こっちではそれが一般的よね。私だって誘われたら財布を持たずに行くもの」

 でも、自立するのも悪くないわね…と。

「主導権を握られるのは相手によるわよね。興味もない男に『金を払ってやったのに』って威張られるのは確かに不愉快だわ」

「貢ぐばかりが愛じゃないよな…」

「暗くならないでよ、ほら、今日は飲むわよー!」

 ライマと私は未成年なのでジュースとなるが、その後は再び楽しく食べて飲んで、賑やかな年越しとなった。


 新年、私は魔法の練習に一日の大半を費やしていた。

 まずは防御魔法。防御魔法もいろいろあるようで、イメージしやすい形で良いと言われた。自分を中心にドーム型に囲うか、目の前に防弾ガラスを一枚作るか。防弾ガラスはすぐに作れた。この世界にもガラス板がある。

 問題は強度だが、とりあえず第一撃を跳ね返すだけで良いと言われた。

「ライマがアリーを抱えて走りだすのに一秒もあれば十分だ。オレがいればそもそも一撃目は届かない」

 リムゼンでも同じ。二人に一撃を与えられる相手は限られている。

 防御魔法が形になってきたら今度は重量軽減の魔法。これはマジックバッグにも必要なので、是非、覚えたい。

 自分が飛ぶのは少し怖い。体重が半分だと…、風船かな。浮輪でも良いかも。

「いとも簡単に…、浮いているな。覚えが早くて助かる」

 ただこれを安定して使えるようにならなければ意味がない。

 疲れていない日は念写の魔法も試している。こちらは紙を用意してもらい、それにイメージしたものを写すだけ。

「見事に食べ物ばかりだな」

 そう言われても、常に空腹だったせいで印象に残っているものが全て食べ物なのだ。

「あとは攻撃系の魔法だな。何かあるか?」

 雷や火は派手で怖い。自分にも被害が及びそうだ。水はなんだか想像できない。氷を作るのは楽しいけど。攻撃…、攻撃……。

「弾を打ち出すような魔法はありませんか?」

「それなら…、土魔法だな。ストーンクラッシュあたりか」

 庭に出て見せてくれる。

 小石をいくつか作り、それを対象物に飛ばす。なるほど。

 小石…作れるかな。作れなければ地面に落ちている石でもいいか。

 それを、拳銃を打つイメージで。

 対象物に向かって指をさす。今回は庭に置いてある大きめの岩。

 銃を…、撃つ!

 ドガッと大きな音がして岩が割れた。

「アリー………」

 フォードが軽く額を押さえながら。

「これ、絶対に人間に向けてやるなよ。当たり所が悪ければオレでも死ぬ」

「や、やりませんっ、絶対にっ」

 この魔法も加減を覚えるための練習が必要だった。


 魔法を覚えるのは楽しかった。練習をすればするほど精度があがっていくのがわかる。

 フォードは私が念写をする横で、同じように念写の練習を始めた。

 この世界には写真がないため、最初は…、なんというか変なシミのようなものだった。大量の紙を用意して、繰り返し念写を行う。

 念写を行うと魔力がごっそりと減る感じがするのだが、フォードは平気そうだった。私にも魔力を分けてくれる。

 フォードの魔力が流れ込んでくるとポカポカして眠くなる。

 気持ち良くすぅ…と意識が遠のく。

「フォードは魔力の量は私の何倍くらいですか?」

「数値化されているわけではないが、恐らく数十倍はある。オレは魔力量が異常に高いんだ」

 貴族が通う学校に通った後、騎士学校に行き、さらに魔法学園にも入学した。すべて通常の半分の期間で卒業している。

「魔法騎士団と魔法院からスカウトされたけど、研究をしたいわけでもないから冒険者になった」

 規律や規則、貴族としてのふるまいも面倒。仲が良かったリムゼンと一緒にギルドに登録してそのまま一気に駆け上った。

 登録してすぐに難易度の高い魔物を狩り、討伐の証拠を持ちこんだ。三日でCランクにあがり、すぐにBランクへの昇格試験も突破した。

「すごいですね」

「まぁ…、わりと自分でもそう思っていた」

 過去形だ。

「冒険者になっていろんな人に会って経験を積んできたけど、オレの視野はまだ狭かった」

「そう…ですか?」

「それでもオーリアンよりはましかな、上にも下にもいっぱいいるって知っているだけでも」

 貴族としての考え方しかもっていなかったら、平民である番相手に遠慮などしなかった。貴族が平民の娘を番として認めてやったのだと、上から目線でやりたい放題をしていた。

 実際、そういったケースは多い。

 ここはそういった世界で、番だから問題になることはない。番でなかった時はお金で解決か脅されて口封じか。

「オレは…、アリーを苦しめてはいないか?」

 頷いた。

「底辺で暮らす人間はきっかけがなければ上には行けません。ライマは豊かな暮らしを求め、私は老後のために貯金がしたかった」

 フォードの援助はありがたいものだ。

「恋とか愛はわからないけど、フォードといるのは嫌じゃないです」

「そうか…」

 ゆっくりと顔が近づいてきておでこにキスされる。

 真っ赤になった私にフォードは『少しは意識してくれよ』と笑った。

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