13 ピザパーティ
オーリアンは諦めがつかないようだが、私に怖がられている状態で側にいるのは良くないだろうと騎士団の宿舎に戻ることになった。
そしてフォードと私も他の親族とは会わずに家に帰ることにした。
帰る前に厨房へ行きハンバーグのレシピについて相談したのだが、ハンバーグに関して…よりも、フォードが厨房にまでついてきたことに驚かれた。
「食に興味なんかまったくなさそうだったのに」
「何か気に入らないことがあるとお菓子ばかり食べていたあのフォード様が」
料理人二人は伯爵様と同年代。子供の頃から知っているんだね。
「お菓子ばかり食べていたんだ……」
「ガキの頃の話だ」
「いえ、最近までそうでしたよね」
だから調理パンが好きなのか。スナック感覚だものね。
「………アリーが料理してんの、見てたら」
野菜を切る、薬味は細かく刻む。肉を鍋に放り込むだけでは食べられない。アクを取るとか薬味を入れるとか弱火で長時間煮込むとか。私の料理は大雑把なほうだと思うが、それでもフォードから見れば信じられないほど面倒なものだった。
「オレが三口で食べるソーセージパンも、生地をすげぇこねて寝かせてなんかいろいろやってるだろ」
簡単な料理は、恐らくない。サラダだって野菜を洗って千切って盛りつけてドレッシング。もちろんドレッシングは手作りだ。市販品なんてないから。日本のように店の棚に何十種類も並んでいない。
実際に作っている姿を見て、すこしだけ反省をした。
「アリーが作るものは大体、美味いよな。何が違うんだろ」
料理人の一人に聞かれる。
「何か特別な調味料を使っているとか?」
「いえ、特にはないかと思いますが…」
ばぁばに教わり日本での記憶を頼りに作っているごく普通の家庭料理だ。不味くはないと思うが絶賛されるほどではない。
首を傾げているとフォードが『いや、特別な調味料、使ってたな』と思いだしたように言った。
なんですと?私自身、気づいてなかったとか?
勢いよく聞き返したら。
「愛情」
と、言われ、私だけでなく料理人さん達からも乾いた笑いがもれた。
フォードの屋敷に戻った。日本でなら年越し蕎麦にお節料理の季節だが、日本で食べたことはない。クリスマスのチキンも誕生日のケーキもなかった。
こちらでの年末年始は家族や友達と集まってパーティが一般的で、ばぁばと暮らしている時はお菓子を用意してすこしだけ豪華なご飯を食べた。
今回は一人暮らしをしているリムゼンとライマを呼んだ。
夜通し騒ぐパーティならピザかな、なんとなく。オーブンの鉄板サイズに生地をのばして、トマトソース、野菜、ベーコン、チーズを乗せていく。日本のピザ屋のようには作れないが、美味しいチーズがあるからきっと大丈夫。
「うわっ、今日のも美味そう」
リムゼンの嬉しそうな声にかぶせてライマも言う。
「昔、作ってくれたヤツよね?フォードのお財布のおかげで具が豪華だわ!」
言い方…とも思うが、事実だ。食材の全てに感謝しているけど、ものによってはお値段で味が変わる。ベーコンが厚いしチーズも惜しみなく使っている。
マヨネーズの作り方がわかればさらに味の幅が広がるが、記憶にはない、残念。テレビで見たような気もするけど卵の黄身を使うってことしか思い出せない。
でも大丈夫、素晴らしいチーズと食材のおかげで豪華なピザが何種類も作れた。
フォードの屋敷の中、サロンにあたる部屋に料理をすべて運びこむ。料理が冷めたらリムゼンが魔法で温めてくれるというし、冷やした飲み物はマジックバッグの中、暖かな飲み物は野営用の小さなコンロで沸かす。
フォード達はたくさん食べるのでピザの他にもサラダやポテトフライ、唐揚げを用意している。唐揚げは日本で食べたものとは少し違う気もするけど、想像で頑張った。
「で、実家に戻ったのに何でこっちに戻ってきたんだ?誰かに結婚を反対された?あれだろ、オーリアンが難癖つけてきたんだろ。あいつ、昔からクソ真面目で貴族の誇りだの騎士の規律だのにうるさいもんな」
リムゼン…、当たってないけど……、否定できない。オーリアンってやっぱりそんな感じの人なんだ。
「まさかと思うけど、番相手に『平民は駄目』とか?」
「もっと事態は深刻でした……」
フォードと相談をして、リムゼンとライマには『迷い人』の話をすると決めていた。どこで誰が誤認識して襲ってくるかわからない状態だ。常にフォードが側にいるとも限らない。
異世界転移の話をすると驚かれた。
「マジか…、迷い人ってことは、あの変態セブンと同じってこと?」
変態セブン?
フォードを見ると苦笑しながら教えてくれる。
「あいつ…、リムゼンの尻尾が異常に好きでさ。隙あらばで頬ずりしてくるんだよ」
リムゼンの尻尾…、ふっさふさの狼尻尾。
「………わかる」
「ひどい話だろ…って、わかるのっ?」
よくわからないが、ふさふさの尻尾はなんとなく気持ちよさそうで抱きつきたくなる。これはもう、異世界人あるあるではないだろうか。
「ちょ、リムゼンのは駄目だからっ。オレのにしとけ」
虎尻尾が私の膝の上に乗った。
こ、これは…。
撫で撫ですると気持ちの良い手触り。
至福。
「そういえば…、うちの村はうさぎ獣人が多いから大きなふさふさした尻尾は少なかったわね……」
「何、オレの尻尾って迷い人限定でそんなに需要あんの?」
「あります…、何だか撫でていると癒されます……」
フォードの尻尾は片手で掴めないほど太い。リムゼンのほうがより魅力的ではあるが、フォードの尻尾も悪くない。抱き枕にしたい。
「オレ…、初めてアリーに求められたかも」
「尻尾限定だけどな」
「尻尾しか魅力がないって、厳しい現実よね」
フォードが『とにかくっ』と。
「アリーが今まで無事だったのは奇跡に近い」
「フォードが我慢してるってのはそれ以上の奇跡だよな」
「番の吸引力に耐えられなかったら…、お互い悲惨だったわよねぇ」
「オーリアンを見て…、耐えた自分を褒めたよ………」
人としてオーリアンを嫌うことはない。そこまで性格が悪いとは思っていないし、見た目も…フォードに似てイケメンだった。それはもう騎士服がとてもお似合いでございました。
が、ないはずの本能が拒否している。遠くで見ているだけなら問題ないが、側には行きたくない。二人きりで過ごすなんて何年かかるかわからない。
「オレが側にいられない時に襲われたら…、かなりやばい。オーリアンだって今回は引いてくれたが次はわからない」
「そこで私の出番ね!今はEランクだけど、一ヶ月以内にもうひとつランクをあげるわ」
きっちりと決められているわけではないが、Gは街中の雑用、Fは近隣での薬草採取、Eは同じく近隣での果実採取…など。薬草や果実は難易度により多少ランクや依頼料が変わる。果実のほうが上なのは高所での作業となるためだ。
D以上は魔物退治や護衛の仕事。
「Dランクに上がったら上位ランカーであるオレが同行すればハイランクの依頼も受けられる」
Cランクにあがったら、対人戦闘を学ぶ。
「魔物は全部ぶっ飛ばせばいいけど、人間相手にそれをやったら犯罪だからな。フォードの電撃系なら複数相手でも一度に戦闘不能にできるけど、オレがやったら焼死体になっちまう」
「アリーには属性制限がない。防御魔法と重量軽減を教えようと思う」
重量軽減?重さを減らすってことか。
「そうね。私が抱えて長時間走るなら…、今の半分くらいにしてもらえると速度も落とさず走れるわ」
「魔法はイメージだ。空を飛ぶのか軽くするのか…、自身を小さくするって方法もなくはない」
一番イメージしやすい方法で考えれば良い。
体重を軽くする…より、空を飛ぶほうがイメージしやすいかも。私が飛ぶなら、あれ…よね。凄い速さで飛ぶのではなく、頭に小さなプロペラをつけた……。
国民的青い猫の未来道具。
ふわっと体が浮いた。
「わっ……」
フォードの尻尾が私の胴に巻き付いた。すとん…と降ろされる。たぶん10センチも浮いてないと思うけど。
「アリーちゃん、魔法適性ありすぎだろ…」
「何を考えた?」
「何って………、えっと………」
元の世界にはテレビがあった。テレビでは様々なものが見ることができて、そしてテレビはどこにでもあった。
「元の世界には魔法はなかったけど、そういったことを空想して…、絵や小説にする人達がたくさんいました。それを映像にする技術もあって」
説明しながらふと思う。イメージできれば魔法が使えるってことは…写せるんじゃないかな。
白い壁をじっと見つめた。
おにぎり…、調理パン…を売っていた棚をイメージして。
念写!
なんちゃって。
すぅ…と力が抜けた気がして、倒れそうになったけど尻尾に支えられた。尻尾、万能。すごい、フォードの尻尾、高性能。
ふと顔をあげると三人ともぽかん…としていた。
信じられないようなものを見る目で。
私と白い壁だったはずの場所を交互に見ていた。




