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番かどうかわからないので恋愛結婚を希望します  作者: 幸智ボウロ(bouro)


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11 大きな男

「い、嫌です、番じゃありませんっ」

「黙って身を任せろ」

「無理です、会って…、今日、会ったばかりの人となんて無理です」

 震える手足で逃げた。

 怖い。

「すれば、気も変わる」

 変わらない。わかるわけがない。私はこの世界の人間ではない。

 本気で逃げないと。

 ベッドから降りたところでぶわっと全身を何かが包んだ。

 水…?

「拘束の水魔法だ。呼吸もできるし濡れもしない。おとなしくこちらに来い」

 足がもつれた。

 床に座り込んで……。

 窓の光を背にしたオーリアン。

 逆光が…、幼い頃の記憶を呼び起こした。


 あの日は夕日が落ちかけて、辺りがオレンジ色に染まっていた。

 大男が追いかけてきて、私は必死で走っていた。男がどんな顔をしているのか、何歳くらいなのかも覚えていない。

 ただ大きな黒い影として…、恐怖の対象として残っている。

 誰も助けてくれない。

 お母さんは助けてくれない。

 先生も友達も…、私には誰もいない。

 誰にも必要とされていないのなら…、いや、それでも。

 川に落ちて怪我でもすれば母が心配してくれるかもしれない。

 結果は…ただ苦しいだけだった。

 水は冷たい。

 苦しい。呼吸ができない……。


 水面に向かって手を伸ばした。

 キラキラと光る…。

 でもどれほど美しく輝いていても…、私が手に入れることはできない。

 私を愛してくれる優しいパパとママ。

 美味しいご飯が作られるキッチン。家族が一緒にご飯を食べて、ソファに寝転がってテレビを見ていたら…、宿題はもう終わったの?って。

 それは…、そんなに贅沢な夢?

 ただ…、日本では叶わなかったけど。

 好きな人と、私を好きになってくれた人と穏やかな暮らしをしたいだけ。


 バンッと大きな音と共に部屋が揺れた。

 オーリアンの大きな体が壁に打ち付けられる。瞬間、水の拘束が解けた。

 呼吸…、落ち着いて、深呼吸……。

 うまく息ができず、涙目で手を伸ばした。キラキラとした光…、黄金色の……、きっと私を守ってくれる光。

「アリー!」

 抱きしめられた。

「アリー、どうした?何かされたのか?」

 顔を覗き込まれたが、息が……。

 苦しい。まるで溺れているみたいに息ができない。

 過呼吸を起こしている私に気がついたフォードが唇を合わせた。

 ビックリして、息が止まった。

「大丈夫、オレが守る」

 唇を触れ合わせたまま、甘い声で喋られて。

 一気に顔が熱くなった。

 いや、過呼吸とか起こしている場合ではない。ファーストキスがっ。いや、それはいい。いや、良くないか。でもファーストキスが…、それどころではない?

 ど、どっち?

 混乱していると。

「どういう…ことだ?」

 オーリアンは体がうまく動かないようで、私達の側に来られなかった。壁にもたれかかるようにして低く唸る。

「フォード、何をしたのですか?」

「手加減なしで電撃食らわせた」

 それは…、痺れて動けなくなるな。

「何故、オレの番が……」

 フォードはため息をつくと。

「アリーにはわからないんだよ。オレのことも兄貴のことも」

「抱けば…、わかる……っ。番だと理解するはずだっ!」

「無理だ」

 フォードが淡々と答えた。

「抱いてもわからないし、一生、本人が自覚することもない。アリーは…、迷い人だから」

 フォードを見つめた。

 私の視線に気がついて、優しく微笑む。

「心配しなくてもオレが守る。約束しただろう?オレ達は恋愛結婚するって」

 約束した覚えはない。出会った時から人の話を聞かない男だ。こっちの都合も聞かずに勝手ばかりで…、でも。

 待ってくれた。

 オーリアンに襲われそうになった後だからよくわかる。

 フォードはあの衝動を抑えてくれたのだ。

 フォードが私を抱きあげたところで部屋のドアが開いた。

 ヴィクトリアさんと執事さん、メイドさん達…。そういえばみんなオーリアンに『お待ちください』とか『ヴィクトリア様に挨拶を』とか、必死に止めようしてくれていた。

「兄弟喧嘩にしてはやり過ぎじゃないの?」

 壁にまでヒビの入った窓だった場所を見て、呆れたように言う。

「緊急事態だよ。オヤジが帰ってきたら五人で話をしたい」

 ヴィクトリアさんは夕食の後に。と言い、オーリアンも渋々、了承した。


 フォードの部屋に戻り、ふと気づく。また抱えられていた。

「降ろしてください」

 すとん…と降ろされた瞬間、へた…と床に座り込んでしまった。

 フォードが苦笑しながらひょいと姫抱きしてソファに運んでくれた。それからホリーを呼んで暖かい飲み物を頼む。

 ホリーはすぐにホットココアを運んできてくれた。

「ほら、飲め。指先が冷たくなっている」

 冷たいどころか小刻みに震えている。

「両手でカップを持って…、オレも支えてやるから」

 フォードの手が重ねられて、冷たかった指先があっと言う間に熱くなった気がした。

「あ、あの…、怪我はしていませんか?」

「あぁ、してない。オーリアンもすぐに回復するだろ」

 電撃の使い方にもいろいろある。対象物を切り裂くもの、高温で熱するもの、今回のように衝撃で動きを封じるもの。

 オーリアンも手加減をしていた。完全に油断した状態での一撃だ。本気でやられたら、フォードでも数日間は寝込む。

 私なら即死だったな…。

 だって、普通の人間だもん。

 普通の………、完全な、そしてこの世界では不完全な人族。

「………。私が迷い人だっていつ気づきましたか?」

 フォードは苦笑しながら答えた。

「最初から疑ってはいた」

 フォードは依頼の関係で菓子屋『ガレット』の店主と会ったことがあり、その男が迷い人だった。

特に口止めもされていない情報で、王家としてはむしろ宣伝してくれ。という。

「迷い人が持つ異世界の知識は有益なものが多いからな。王家としても『迷い人が王家の保護下にある』というのは良い宣伝になるらしい。オレは巻き込まれるのが面倒で濁しているが」

 宣伝に…、なるのか……。なるのか?

「アリーは番がわからないと言うし、嗅覚も野生もない。匂いも…、見た目よりもだいぶ年上の女性のものだ」

 ただ最初の頃は『獣の血が薄くなりすぎた迷い人っぽい獣人』だと思っていた。

 ただ迷い人だという可能性もゼロではない。とても低いが、万一があると思って必死で我慢をした。

 何故なら、迷い人だという男から。

『どんな美人でも、出会った瞬間に盛ってベッドに飛び込んできたら冷めるよね。しかもこちらにはわからない理由で一生、拘束されるとか地獄だ』

 と、聞いた覚えがあったから。

 聞いた時は番の良さがわからないとは損をしているなと思ったが、私と出会い…、塩対応に背筋が凍った。

「無理にヤッたら絶対に許してくれないのだけはわかった……」

 体は許しても、心は永遠に閉ざされる。閉ざされ、逃げられ、場合によっては嫌悪される。番に汚いものでも見るような目で見られたら、軽く死ねる。

 なら、待とう。

 何ヶ月でも、何年でも。

「実際、何年も待てるかは自信がないけど、とりあえず一年くらいはもつと思う。できればそれまでにオレと恋愛してほしい」

 恋愛は計画通りにできるものではない。

 でも……、長く一緒に過ごしていれば多少の情もわく。出会った当日から一方的に監禁されたら、絶対に許さない。ってなっただろうが、一年もそばにいたら『まぁ、仕方ない』ってのは…、なくもない。

「私に…番が二人、現れた理由は迷い人だからでしょうか?」

「たぶんな。もしかしたら…、今後も現れるかもしれない。その心配はしていたけど、まさかオレと同格が引っ掛かるとは予想してなかった」

 少しでも野生の本能が残っていれば、自分より強い相手には喧嘩を売らない。フォードはAランク冒険者だから、一般市民の中ではほぼ頂点にいる。リムゼンの話ではSランク以上の実力。

 王都にいる同格は多く見積もっても十人前後。その中に私の番候補がいる率は低い。

「けどオーリアンが引っ掛かったってことは家系的なものかもな。親戚の独身男には会わせられない」

「独身…だけですか?」

「既婚者は番相手じゃなくても一緒にいるうちに『伴侶の匂いが一番』になる」

 つまり…、側にいればいるほど、ますます好きになる。

「オーリアンには悪いけど、オレはアリーを諦める気はない」

「………あの、可能性として他にもフォードの番がいるってことも考えられますよね」

 迷い人効果で番だと誤認識したのなら、運命の相手は他にいるということだ。

 フォードが大切にすべき相手は私じゃない。

 それでいいはずなのに、なんとなく…、ちょっともやもやしていると。

「他にいても関係ねぇだろ。恋愛結婚するんだから、もしも番じゃなかったとしても問題ない」

 二人でゆっくりと魔力を、匂いを混ぜ合わせていけばいい。

「でもアリーが心配だから早く防御魔法は覚えような?」

 確かに…、誤認識で襲われるとかカンベンしてほしい。ギルドの依頼を引き受けるためにも防御魔法と攻撃魔法のひとつくらいは覚えようと気合を入れた。

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