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番かどうかわからないので恋愛結婚を希望します  作者: 幸智ボウロ(bouro)


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10/28

10 運命の相手?

 編み込んだ髪に花飾りをつけて、プリーツワンピースの上にカーディガン。靴は室内用のバレエシューズ。季節は真冬なのでスカートの下にペチコートを重ねていた。

 ほんと、日本でもこんな『女の子』な格好はしたことがない。

 フォードが嬉しそうに目を細めた。

「可愛いな」

「そう…ですね、とても可愛い洋服で落ち着きません」

「似合ってる。アリーが可愛いから、オレもなんか落ち着かない気分になる」

 な…慣れない。これは何日一緒に過ごしても慣れる気がしない。

「おふくろがサロンに呼んでる。行けそうか?」

 頷いて一緒に部屋を出る。

 この国にも四季があり、歴も似ていた。時間はとても大雑把で鐘が鳴るだけ。秒はもちろん分もない。

 育った田舎町は山村だったので冬になると雪が積もったが、王都では滅多に積もらないらしい。今年が初めてだからよくわからない。

 ギルドの従業員宿舎で過ごす冬はなかなか厳しそうだと覚悟していたが、今のところとても快適だ。フォードの家もこの屋敷もとても暖かい。おそらく魔法的な何かで外気を遮断しているのだろう。

 フォードには有無を言わせず拉致をされているが、環境に恵まれていることには感謝している。

 サロンに向かうとヴィクトリアさんが居た。

「やっぱり女の子は良いわね。可愛いわぁ」

「アリーが可愛いんだよ」

 フォード、もういいデス、やめてクダサイ…。

「ところでアリーちゃんは番で間違いないのよね?」

「あぁ、間違いない」

「本当に?」

 フォードが何故かまたドヤ顔になった。

「オレとアリーは番だけど、恋愛結婚するからな」

 ヴィクトリアさんがパチパチ…と瞬きをした。

「それで、まだ匂いをつけていないの?」

「アリーは野生が残ってなくて自分じゃ番かどうかわからないんだよ。で、恋愛結婚が良いって言うから、今、めっちゃ熱愛中。な?」

 いや、私に同意を求められても。

 ヴィクトリアさんにものすごく驚いた顔をされた。

「フォードが我慢しているの?」

「当然。オレはアリーが嫌がることはしない」

「え、貴方、フォードよね?兄弟の中で一番わがままで短気で飽きっぽくて怒りっぽい、あの、どうしようもないフォードよね?」

 ひどい言われようである。

「…………せぇな」

「リム君から聞いてはいたけど…、冗談じゃなかったのね」

「オレは嫌がる女を犯すようなクズじゃねぇよ」

「そこまでは疑ってないわよ」

 苦笑しながら私を見る。

「番がわからないの?」

 頷く。

「まったくわかりません。嗅覚も弱いし野生の勘もほとんどないので、番でよく言われる『出会った瞬間』も…、何を言われているのか理解できないまま拉致されて」

「拉致じゃねぇよ、保護だ、保護」

「フォードならもっと素敵な女性を選べると思うのですが…」

「それは無理ね」

 ヴィクトリアさんに却下された。

「番以上に素敵な相手はいないのよ。見た目や性格じゃないの。でもね、アリーちゃんの『恋愛結婚』も良いと思うわ。私はすぐに監禁されて恋人っぽい甘い期間が後回しになったから」

 ちょっと遠い目をしたヴィクトリアさんにフォードが頷く。

「そうなんだよ、最近はこのクソめんどくせぇまどろっこしい期間も悪くないなって。アリーがちょっとずつ懐いてくんの、可愛いし」

 懐いたつもりはない。

「夜になったら旦那様が帰ってくるから改めて挨拶してね。今は私達夫婦だけしか暮らしていないけど、新年は長男家族と次男も来てとっても賑やかよ」

 知らない人達と会うのは緊張するが、貴族とパーティなんて最初で最後かもしれない。

 チラッとフォードを見ると。

「可愛くしてもらおうな」

 可愛くなんかないし、見られるのは苦手だけど。

 フォードが嬉しそうなので、頷くと。

「ほら、ちょっと懐いてきてんの、めっちゃ可愛いだろ。最初っからエロいのもいいけど、これはこれで趣がある」

 ヴィクトリアさんは私と視線を合わせてから、残念なものでも見るような目でフォードを見た。


 お茶の後、コートを着て外に出た。敷地が広く大きな公園のようだ。歩き回るからとまた抱きあげられた。

「どこを見たい?花は少ないが庭園でいいか?」

 返事は待たずに歩きだす。

「寒くないか?」

「大丈夫です。せっかくの遊歩道なので自分で歩きたいです」

 降ろしてくれた。

 ゆっくりと見渡す。行ったことはないけどテレビで見た植物園のように広かった。区画分けされていて、遊歩道は石畳とレンガ。今は枠しかないけどアーチもある。

「やっぱり花がないと寂しいな」

「そんなこと、ないです。植物園とか公園とか…、行ったことがないので楽しいです。」

「次は春に来よう」

「………その時はお弁当を作りますね」

「オベントウ?」

「サンドイッチとか入れたバスケットですが…、私はおにぎりやおかずを詰めて作ります。ライマとリムゼンさんも一緒だと嬉しいです」

 きれいな景色を見ながらお弁当を食べる。

 一度も行けなかった遠足のように、友達と一緒にお弁当を食べたい。

「私…、お金を貯めて山奥の村に帰ったら、野菜だけじゃなくて花も育てようと思っていて」

 育てた花や果実を眺めながらのんびりお茶を飲んで暮らしたい。いつか緑茶も作りたい。叶わない夢はみないけど、それくらいならなんとかなりそうかなって…。

「フォードも時々、遊びに来てくれたら…、嬉しいです」

 私には友達が少ないから。と告げると、フォードが苦笑しながら言う。

「アリーが暮らしている場所がオレの帰る場所だろ。田舎だと冒険者への依頼はほとんどが害獣駆除だな。肉を狩るのは任せろ」

「………お肉より野菜のほうが好きです」

「じゃ、肉はご近所さんに配る。オレが留守の間、アリーを守ってほしいから」

 その頃には子供もいるかも、なんて。

 ま、まるきり新婚夫婦の画が浮かんでしまい、両手で熱くなった頬を包む。

 フォードはそんな私の様子をにまにま笑いながら見ていたが、ふと顔をあげた。

「予定より早かったみたいだな。次男のオーリアンが帰って来…」

 フォードの視線を追うと。

 黒い騎士服の男性が一瞬で目の前に来た。

 早い。とか、近い…と思う間もなくフォードが何かに吹っ飛ばされた。すごい勢いで怪我をしなかったかと心配になる。

 慌てて駆け寄ろうとしたが…。

 オーリアンの肩に担ぎあげられた。

「お、降ろして……」

 言葉がないまま歩きだす。

「降ろして、ください。フォードのお兄さんじゃないんですか?」

「オーリアンだ」

「オーリアン様、降ろして……」

「何故、フォードの魔力を纏っている?」

 魔力にも個々、違いがあるらしい。色とか匂いとは異なるようだが、あえて言うならオーラ?光?のようなもの。

 私の場合、フォードに魔法を教えてもらっている。そう告げると舌打ちされた。

「おまえは私の番ではないのか?」

 驚いて言葉に詰まった。つ、番ってそんなに何人もいるものなの?唯一じゃなかったの?

 あわあわしている間に屋敷の中へと入り、執事やメイドの声も無視して階段を駆け上る。

 連れて行かれたのはオーリアンの部屋で、大きなベッドの上に放り投げられた。

「ま、待って、ください。私、番がわからないんです」

 番だと言われても確かめようがない。

「わ、私は人族の血が濃いようで、鋭い嗅覚も野生の直感もほとんどないのです」

 フォードに告げた時のように。

「私にはあなたが番かどうかわかりません」

 オーリアンは『そうか』と低く唸るように言い、上着を脱いだ。

「なら、教えてやる。番のセックスはたまらなく気持ちいいそうだ。やれば、わからないなんて言えなくなる」

 真っ青になった。

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