戒談
「ねぇねぇ縞崎くん。そのキャリーバッグ何?」
「……………」
「ねぇねぇ、その髪鬱陶しくないの?」
「…………」
「頭も重くなって辛いだろうし…ほら、首だって曲がってるじゃん。そしてそのキャリーバッグ何?」
「………」
「確かにそうですね。うーん…ボクが切りましょうか?得意なんです!」
「……」
「いいじゃん、やってもらおうよ。ところでその…」
「 」
何を思ったのか、閃は縞崎に絡み続け、どうやら閃に懐いたらしい潤沢も会話混じり始めた。
縞崎は会話そのものが面倒臭いらしく、沈黙を貫いている。
…最も、段々会話の周りが早くなっているため縞崎の忍耐力も切れかけているのだが。
ちなみに縞崎はキャリーバッグに座っている。あとの二人は勿論直立。
「楽だから持ち歩いてるだけ」
おもむろに立ち上がるとキャリーバッグから縞崎はハサミと袋を取り出し髪をバッサリ切り落とす。
結果として縞崎の髪は瞼にかかるほどまで短くなり、切られた髪はゴミ入れとして使われているらしい袋にブチ込まれた。
そしてそれ以降縞崎はキャリーバッグに座るなり動くことを止めた。
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「しかたない…煩かったならごめんね。僕の性分なんだ」
ニコニコと笑みを絶やさない閃を2つの光がサーチライトの如く追いかける。
(…はぁ…エエわァ…なんや、仕草がいちいちカワイイねぇ…うちのもんにしたいもんやねえ)
「はぁ…」
完全に捕食者の目をした女性…竜胆穂は溜め息を溢す。豪奢な着物に髪飾り。
顔に嫗の能面をつけていることを除けば花魁の模範解答そのもの。
しかし竜胆は最後までもう一つの視線が閃を…厳密には潤沢と閃を見つめていることに気付かなかった。
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武石耕は名刺を配っている。それに応じるザッハ・カルドと黒太郎。
笹木畔はアルル・グリモア・エントと談笑中。
新司郎は閃と合流。3人でなにやら話していた。
皆がそれぞれと会話し、縞崎が徐々に自ら孤立していく。
そんな時、集会所の中心から突如として立ち上った光の柱から一人の西洋風の甲冑に身を包んだ男が現れた。
「…新たな探索者たちよ。談笑中失礼する。私の名前はオルトラーン=サルマン=オズワルド。仮想域統治権保持皇国『オズワルド』が第二王子である」
風もないのに肩まである金髪とローブをなびかせたその人物に視線が集まる。
「今日来たのは諸君らとの顔合わせ及び、詳しい説明のためだ。まず探索の目的。これは諸君らが先程使ったであろう裂け目の発見、除去だ。この裂け目は基本的に概念世界と概念世界を結ぶ役割を持つ。この裂け目を除去することで余分な概念世界を切り離すことが出きる。除去にはこちらの鍵が必要となる。この鍵は裂け目の近くに居ると反応し、剣の形を取る。その剣で裂け目を断つことで除去完了となる。また、その鍵が探索者の証明となる。王城への入場許可、一部地域での越権行為が認められる。しかし現地民に危害を一定数加えた場合、鍵は自然消滅する。注意しておけ」
永い。長いの域を超えて永い。
アルルに至っては船を漕ぐ数秒前といった様子である。
「ここまでで質問は?」
「ながーい。ナンテネ」
「ふむ。この情報は全て諸君らの案内役が把握している。後に聞くがいい」
「はいはーい!」
この中で唯一、陽の気を纏っている笹木。
閃としては格好からして偉そうな人は不得意だと思っていたのだが、特にそういう事もなく早くも打ち解けようと動き出している。
陽キャ恐るべし。口調こそ硬いが第二王子の顔には少し笑みが見える。
「次だ。諸君らが獲得したスキルだが、この世界ではスキルというものは至極普通のものとなった。スキルを基準とした独自の文化体系を築き上げてきたのだ。選民意識など持たぬように。気分を悪くしたのならすまなかった。以前調子に乗った探索者が皇国民を支配しようとしたことがあってな。以来注意喚起をしているのだ」
「その人はどうなったんですか?」
閃がすかさず問いかける。
「…そいつは住民に返り討ちにあった。他に質問は?」
負けじと笹木が口を開く。
「オージサマのスキルってどんなの?」
「その呼び方は辞めろ。私のことはサルマンとでも呼んでおけ。…私のスキルは『ノブレス・ブレス』具体的には肺活量が常人の50倍になる」
「強く…生きてください…です?」
沈黙に耐えきれなくなった潤沢が声をかけた。
次回序盤過ぎから視点が閃に変わります。