邂逅
「ここがこの丘の出口です」
レンがおもむろに口を開く。
意気揚々と歩き出したは良いがその後会話は続かなかった。
レンの性格も相まって、ではあるのだが。
真の友人同士とは言葉のない時間を楽しむと言うらしい。
が、レンと閃の間はそこまでのものでは無い。
正直気まずかった閃は胸をなでおろす。
「この先は皇国内の探索者たちの集会所に繋がっています」
目を向ければそこには空間の裂け目。
そうとしか表現出来ないものがあった。
目を向ければなるほど、廊下のようなものが隙間から垣間見える。裂け目に近づくほど周囲の景色は白く色づく。
「大丈夫なの?これ。四肢切り飛ばされたりしない?」
「はい。…そういえば。一つお伝えしておきます」
「え、怖い」
好奇心があっても恐怖心が無くなるわけではないらしい。
そんな閃に重々しい口調でレンは語りかける。
「他の探索者にスキルについて聞かれても本当のことを教えないほうが良いですよ。なにせ報酬は一つだけ。殺してでも奪い取ろうとする人はいるものです」
「スキルって危険なものなんだね…例えるなら財布?」
「…まぁそれ以上の危機感は持っておいてください。それと私は中には入れません。一人で頑張ってくださいね?」
「え?ちょっと…」
ドン、と閃は背中を押され…裂け目へと転がり込んだ。
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「痛っ!」
レンさんも無理に押し込まなくてもいいのに…
お陰で頭から地面にゴツン。この借りはいつか…ん?
「扉?」
それにしても実に大きい。人一人を想定したサイズとは思えないね。
取り敢えず開けてみるか?いやしかし中には既に他の人たちがいるかもだし…
扉がひとりでに開いていく。
「あれ?」
「あ、」
「「「あ。」」」
そんなわけで、僕こと神担閃は座ったままの状態で探索者たちと初めて会ったのだった。
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二十の瞳が閃を凝視する。
「あは、ははは…始めまして?」
苦笑いを浮かべながら挨拶をする閃。返事を返さなかったのは極わずか。
「あは!やっほー」
と、底抜けの笑顔を顔に浮かべる高校生くらいの制服を着た日焼けした女性。いわゆるギャル風。ゆるいウェーブの金髪。
「あ…どうも…」
ペコペコと頭を下げる角刈りの中年男性。こちらはワイシャツに長ズボン。花柄のネクタイが異彩を放つ。白の混じり始めた黒髪。
「は、はじめましてですっ!ボク、潤沢 恭です!」
少しの躊躇と子供らしい元気が垣間見える短パンの男の子。しかし服装から判断しただけであって顔は女の子のよう。将来有望である。黒髪。
「やぁ。君が十一人目だね。お互い頑張っていこう」
言葉の端々から几帳面さが伺える目元涼やかな男装の女性。軍帽を被っているあたりコスプレなのかも知れない。紫の短髪。
「…ん、おはよう…ございます……?」
立ったまま寝ていたのか、寝ぼけ眼を擦る女性。ゆったりとした服装はパジャマと普段着の区別がつかない。薄い桃色の長髪。
「………………ん」
かなり長い間声をかけるのを躊躇ったすえにロクに話さない男性。目に光がなく、膝まで裾の伸びたパーカーを着用。緑の混じった黒の長髪。
「はじめまーしてっ!新 司郎いーます」
変に間延びした声で語りかける全身紫タイツの男性。彫りの深い顔立ちからは想像もできない明るさ。ボサボサの白髪。
「は」「じ」「め」「ま」「し」「て」
黒子の格好をした人物は手に被せたサメとヘビのぬいぐるみを交互に喋らせる。
残る眼帯の男と着物の女性はそれぞれメンチ、軽いお辞儀に留める。明らかに雰囲気が一般人ではない。
閃は急いで立ち上がり、
「僕の名前は神担 閃。よろしくね」
穏当にすませた。
ついでに恭とハイタッチ。
…どこぞの玉と違い、子供の声はうるさければうるさいほど喜ばしい。
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その後お互いに自己紹介をしたところ、
ギャル風の女性は 笹木 畔。
中年男性は 武石 耕。
男装の女性は オーネスト=ケイ。
眠そうな女性は アルル・グリモア・エント。
長髪の男性は 縞崎 華矛良。
黒子の人物は 黒太郎。
眼帯の男性は ザッハ・カルド。
着物の女性は 竜胆 穂。
そう、名乗った。
この中の誰かが
『ブレイク・ストーリー』の保持者です。