力神攻略戦線
閃の発動した『天岩戸』は所謂時限爆弾である。
神すらも引きずり出した逸話のある神。
そのスキルの本質は力の上昇ではない。
神以下の存在、その全てを手中に収める能力こそが本質。
過去の事象を引きずり出す事によってこの技は成り立つ。
閃以外の誰かが動き続ける間、徐々に2つの岩扉は開いていく。
岩扉の奥には太陽が存在する。
岩扉を閃が取り払うことにで。
地上と太陽を局所的にぶつける事で遍く人類全てに日の光を与えるのだ。
存在の焼却。
天照による浄化。
仮想域『冬』を吹き飛ばした閃の持つ最大の一撃である。
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「その節は竜胆さんにも役立って貰いましたよ」
淡々と離す閃の目に赤以外の情報を読み取ることは出来ない。
司郎には最小限の動きで閃の確保が課されたことになる。
「うーん。残酷。ま、潰すけど。『伏魔殿』」
司郎は小さく、呟いた。
「設定。風景の破却、行使。結果上塗、行使失敗。身体強化、行使。視点確保、行使」
「設定カンリョー。さて、神担クン、君は何手で詰むかな?」
そんな課題を投げ飛ばし、自分の在り方を貫く。
それが司郎の新しい生き方。
風景が崩れ、雨がまた降る。
「新さん。手加減、しないよ?」
「出来るもんならやってみ。2対1だけど」
司郎がそうつぶやいた瞬間。
散々待たされた男が現れる。
濡れた道にキャリーバッグを走らせ、縞崎華矛良の登場である。
「…これまた面倒な……シー、破壊はやって。僕は足止め」
「やだよ。僕さん、神担クンボコボコにするって決めてるもん」
「……ぁ?はぁ…じゃ…やって来る。後で加勢するよ…」
緊張感のないコンビ、ここに爆誕である。
「させないよ、縞崎くん」
「……『徒然傀儡』」
閃を完全に無視し、縞崎はスキルを発動する。
その能力は単純明快。視界に収めたもの、全ての操作。
希少極まる、代償のないスキルである。
縞崎のキャリーバッグから大量の砂が溢れ出し、縞崎を乗せて砂は上空へと舞い上がる。
「おっとっと、もう浮気かい?神〜担〜くん」
容易く時を止め、飛び上がろうとする閃の真正面に立つ司郎。
その手には巨大な金槌が握られていた。
「力で僕に勝てると?冗談はよしましょうよ」
いとも容易く閃は振り下ろされる金槌を引き裂くと、司郎目掛けて素環頭大刀を生成し、横に薙いだ。
「おっと危ない、『多重顕現』『虚数存在』『実数解放』」
対し司郎は続けざまに3つのスキルを使用。
同じ時、同じ場所に存在するロングソードを複数創り出し、一度に開放する。
「力には質量ってね。これが『虚数大剣』サ」
数えるのも億劫になるほどのロングソードが虚空から弾ける。
しかし驚くべきことに、閃はこれを完全に相殺してみせた。
「これが新さんのスキル『無窮兵装』ですか…なんて。」
閃と司郎は顔合わせの際、既にスキルの概略を紹介している。
無論、司郎は嘘を伝えた訳だが。
ここまで司郎は敢えて武器のみで攻撃、防御を行ってきた。
ありもしない技名もつけ、戦闘前には「何手」と発言している。
ダメ押しの『伏魔殿』による思考誘導も使い、全力でスキルを誤魔化してきた。
にも関わらず閃は司郎を疑い、正解を導いた。
「ホントのスキルは『伏魔殿』…ですよね?まだスキルの効果は掴みかねますが」
司郎は重大なミスを犯したのだ。
司郎は知らない事だが閃は耳がいい。
閃の耳は司郎の呟きを逃さなかった。
「こりゃ…参ったね〜バレるのは時間の問題かな?」
司郎は縞崎の帰還を願い始めていた。
「ま、バレたならやりようはあるさ」
ありったけの思考力を掻き集め、司郎はあらゆるスキルを引き起こす。
「『限定災害』『限定停止』『認識汚染』『価値創造』『不可知之猫』『軽減処理』『技能複製』。ふぅ〜、疲れるネ…」
「なっ…あなた、まさか 」
これぞまさに外法。
チートの類である。
限定された空間の時は停滞し、閃は動きを止める。
しかし、閃は慌てるのと同時に、ある事象を引き摺りだしていた。
時間停止の終わった未来。
過去の経験から、閃は司郎が時間を操る可能性を考慮していた。
事前準備は出来ていたし、司郎の言葉で確証も得た。
「マジで?」
驚く司郎をよそに、閃は額縁を握りしめ、赤目を光らせ、躊躇うことなく。
司郎の首を直刀で刎ねた。