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ハロー/チープワールド  作者: 助吾郎
10人の探索者
20/23

赦し難いモノ

僕が覚えているのは歪に笑ったレンさんの顔。

 

 次の瞬間には目の前は赤く染まり、いつの間にか僕は木の前に立っていた。

 

 戦闘の余波で止んでいた雪もいつの間にか降り始め、地面を埋めていく。

 

 呼吸音は雪に吸い込まれ、吐いた息は目視することも出来ない。


 僕は今、生きているのだろうか。

 そう、錯覚してしまうほどここには生の気配はない。


「やぁ。元気してる?」

「ぇ…僕?あ、あぁ…うん。まぁ、元気…なのかな、って…誰?」


 後ろから声が聞こえた。

 振り向くことは…出来なかった。

 

 その声が聞いたことのあるものだったからでは無く、意識の深層が、記憶が拒むのだ。


 振り向いてはいけない、と。


「面白そうだから来たんだ〜。でも、もう終わっちゃったみたいだね。ところでこの額縁、いる?」


 ソイツは僕の問い掛けに耳を貸さず、僕の前に額縁を放り投げる。


「…これは?」

「君の心の拠り所になるモノさ。飾るべきものはワカッテルデショ?全て終わったとき、君は嫌な記憶を全て忘れる事ができる。その開始点がコレさ」

 

「人の表情一つで不安定になる君には人一人すら担げない」


「精々人の顔一つが君が背負える最重量」


「ほら、材料は揃ってる。後は思い出を壊すだけ。ネ?簡単デショ?」


「まずはここを壊そう。次は…うーん…雨が良いんじゃないかな?」


 ソイツの声は僕にとって心地よい物だった。


 気付けば僕は座り込んでいた。


 愉しそうなソイツの声が今でも忘れられない。


――――――――――――――――――――――――――――


「信じてたのに!畔さん!君の底抜けの笑顔だけは歪まないと思っていたのに!」


 閃は猛り狂い、周囲に怒気を撒き散らす。


「ねぇ!僕の気持ちは!?どこにぶつけ散らせば良いの?ねぇ!ねぇ!ねぇ!」


 壊れた機械のように疑問符を繰り返す閃を畔は薄れゆく意識の中で捉え続ける。


「…ハァ…ハァ…もう…いいや。壊そう。全部。レンさんも…」


 閃の纏う空気が怒りから諦めに変わる。


 空気が張り詰め、畔は呼吸も出来ないほどだった。


「『天岩戸』」


 閃が呟き、上空に巨大な岩が一対現れたのと同時に。


「ヒーローは遅れてくるもの!新司郎改め新メシア!ここに参上!!畔ちゃん。惚れてもいいんだよ?」

 

 全身紫タイツの助っ人がやって来た。


「ッてあれ?気を失ってらぁ」

「新さん。もう逃げないの?今終わるとこなんですけど」


 司郎は畔をアルルの元へ飛ばし、閃に向き直る。


「さて。閃くん。君にはお話したいことがたぁくさんあるンだ。」

「そうなんですか?僕は興味無いですね」

「そうさぁ。恭チャン悲しむぞ〜」

「あの子はちゃん付けされる方を嫌いますよ。多分」


 上空に浮かぶ岩扉に目もくれず、司郎は道化の如くフラフラ揺れながら会話を続ける。


 既に畔の創り出した風景は一部を除いて崩れ去り、最初の滝へと場面は移る。


「さてと。君には色々言いたいことがあるんだ〜けど、まずは一つだけ。これ終わったら後は戦っちゃお?」


「人に自分の信頼を押し付けるンじゃアねぇよ。重いわ、ボケナス」

「〜ッ!何が…アンタに何がわかるんですか!」


 急に底冷えするような声を発する司郎は、周囲がひび割れていると錯覚するほど、圧倒的な存在感を放っていた。


 対する閃は先程までの諦観から来る冷静さを欠き、千載一遇のチャンスを逃すこととなる。


「知らん!」


 司郎は一喝するとともにスキル『伏魔殿』を使用した。


「僕さんに勝てたら一緒に考えてやろうじゃァないの!なぁ?神サマよ!」


 司郎は正真正銘、ホンモノの笑顔で叫ぶ。


 閃には一生浮かべることが出来ない表情を。


 いとも容易く、無情にも。


――――――――――――――――――――――――――――


 新司郎はキレていた。


 普段は飄々として掴みどころの無い彼だが、信頼に対しては人一倍敏感なのだ。

 彼にはおよそ出来ないことは無かった。

 所謂天才型、それもとびっきりの。


 そうであったのなら、彼は平凡な一人間として生きられた。

 しかし彼の家は平凡であることを赦さなかった。


 彼の後ろには家柄故の羨望、妬みが付き纏う。

 彼の前には政治家である父親が。


 誰も信じれず、誰にも頼れない。

 にも関わらず司郎には期待が寄せられる。


 故に彼は社会に馴染めず、あくまで道化という立場に甘んじてきた。


 家から追い出された頃には、彼の髪は真っ白に燃え尽き、背には母親からの呪詛が貼り付いていた。


「貴方を信頼していたのに」


 誰も信頼してほしいだなんて言っていない。

 認めてほしいだなんて望んでない。


 司郎が理想郷に呼ばれたのはそんな時。


 だからこそ信頼を盾に人を罵る行為が赦せなかった。

 鮮やかに浮かぶ一方的な蔑視。


 まるで自分に加虐性を見出したかのような被虐者だけは。


 決して。


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