何者
「私はのことは良いです!散開してください!」
レンの声が響き、戦闘が開始される。
レンはすぐさま横に飛び、回避する。
「笑ってる場合じゃないし!行くよ!『永遠の思い出』!」
後ろの閃を振り払うように駆け出しながらカメラをポーチから引き抜き抜いた畔が叫ぶ。
瞬間、彼女のカメラから光の奔流が流れ出し、その場全員の網膜を焼いた。
「眩し…畔ちゃん!ちょっとは容赦してよ!」
アルル(B)の叫ぶ声が聞こえる。
新は薄っすらと目を開けるとそこは雨降る大地ではなく。
頭上にあった岩も無く。
ただ目の前には滝の流れる渓谷があった。
「これが私の思い出。私の記憶の牢獄。確保は…完了でしょ?アハッ!」
『永遠の思い出』。
それは記憶を現実に投影する力。
その場全てを飲み込む過去の再演。
畔にとって印象的であればある程その風景は輝き、彼女にとって最も都合がいい場所を創るスキル。
付き人であるレンをして、こと空間制御能力においては最強とまで言わしめた力である。
「すごいね!え!これどうなってるの!?教えてよ。畔さん」
先程から佇む閃は変わらぬ態度を保ち続けていた。
明るく、しかし暗く。
きっと、彼は壊れたのだ。
前に会った彼では無い何か。
記憶を受け継いだ何か。
それが今の神担閃なのだろう。
壊れた笑顔を顔に貼り付け、彼は愛おしそうに額縁を撫ぜる。
「畔!神担さんは何らかの方法で仮想域を壊しています!その手段がわからない以上、貴女はここの維持に尽力してください!」
「アハ。オッケー!」
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畔の発動したスキルの範囲外。
そこに縞崎華矛良は佇む…というより取手を伸ばしたキャリーバッグに寄りかかっていた。
「……暇だ」
縞崎に与えられた仕事は一つ。
万が一畔のスキルが破られた際の神担閃の確保。
「…………」
彼が動かないことが最善の結果である。
ものぐさな縞崎は自分の出番が現れないことを願う。
「どうせ…破られるんだろうな…はぁ……」
一度閃と喋った人は必ず彼に同じ感想を抱く。
閃は諦めが悪いのだ。
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「何してるの?」
「……誰」
縞崎の後ろ、雨に紛れるようにしてソイツは立っていた。
「いや何、面白そうだから。来ちゃった♡」
「誰?」
「名前はないんだ。生憎ね。その代わりスキルなら教えてあげるよ。それが呼称でいいよ」
縞崎にとってしつこい、煩いは粛清対象。
しかし彼には仕事がある。
思い切り攻撃するわけには行かないのだ。
ため息一つ。
「………手早く」
「うん!名前はねー『ブレイク・ストーリー』って言うんだ。かっこいいでしょー」
「…一人称を避けてるのか?」
「…無視しないでよ。それに…」
苛ついているためか縞崎はいつもより人当たりが悪い。
思わず青筋を浮かべるソイツ。
「そんなことはないよ。僕は…あれ、私?オレ、あたい…手前…?拙、なん…だっけ…?なに…なんなの…あれ…ぇ…おかしいよ…ねぇ、ねぇ…ぼ…ッ!ううん…何をしたの…ねぇ…ねぇ、なぁ!なぁ…頼むよ…教えてよ…ねぇ、ぁあ…ああ、うぅ…」
言葉に詰まるソイツはひたすらに困惑する。
そこに先程までの余裕はなく、ガクガクと震えながら蹲る。
縞崎華矛良は興味なさげに、見ることもなく、ただ溜息を漏らした。
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司郎は閃のスキル解析を任せれていた。
そのため木の影に隠れ、閃の姿を目で追い、片っ端からスキルを使っている。
彼は能力の特性上、消去法的に相手のスキルを大まかに解析できるのだ。
先程まで一緒に居たアルルはどこかに走って行った。
「うーん…瞬間移動は…うん。出来る。じゃあさっきの一瞬で移動していたのは移動系のスキルによるものじゃないね。じゃあ次は…時間停止。…うん。出来る…」
いとも容易く時を止め、司郎は閃に向かって歩き出す。
「時間制限有り…ていう線はあるかもしれないけど…まぁ時間停止でもないんじゃないかな」
チートである。
もし彼が一対多の状況に立たされた際、彼は全能の存在に変貌する。
相手を選び、自在にスキルを変え、尽くを蹂躙する。
その悪魔の如き所業と思考はまさに伏魔殿の名に相応しい。
ついでに司郎は予め創っておいた縄を取り出し、閃の体を拘束する。
「うん。これで一先ずは良いかな。あと考えられるのは時間の省略、運命改変、力技の3つ…後で試そ」
悠々ともとの場所に戻り、彼は時間を動かす。
「あれ?いつの間に縄…アルルさんか司郎さんの仕業…だね。すごいね、こんなことが出来たんだ。…時間停止だな?…そこか」
底冷えするような声で閃は呟く。
瞬間、周囲に巨大なクレーターが出来、閃の姿がまた消えた。
暴風が巻き起こり、水は吹き飛び、木々は倒れるその様はまさに台風。
移動一つでこの惨状。
まさに破壊の化身。
「あらら、やっば」
「こんにちわ、司郎さん。残念だけど僕に緊縛癖は無いんだよね。僕とレンさんの時間を邪魔しないでよ。鬱陶しいです」
「新さん!逃げて下さい!畔は再構築を!」
「うん!まっかせといて!もういっちょ!」
畔がカメラを掲げ、スキルが発動する。
またもや全員の網膜を焼くその光から司郎と閃の間に新たな世界が構築される。
「アハ。ここは私が初めて撮った場所。一度来てからは何度もここに来たんだ。ツキイチで」
そこに広がる世界は地球のマウナロア。
司郎やレンも居なくなった都合の良いタイミングで噴火が起こり、溶岩が閃を飲み込んだ。
『永遠の思い出』
①畔が過去に撮った記録を具現化する能力。
記録は劣化することがない。そのため食べ物を撮っていれば何時でも繰り返し食べることが出来る。
風景は重ねる事もでき、無茶苦茶な風景(滝と溶岩の隣接、砂漠と山の頂上の隣接など)を作り出すことも出来る。
②その空間内に置いて畔と彼女が認めた生物には強化状態がかかり、凡そ普段の3倍ほどの力を出せる様になる。
代償 詳細不明