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ハロー/チープワールド  作者: 助吾郎
10人の探索者
17/23

再会再来また悪夢

 そこは異常なほど雨の降る場所。

 理想郷における雨の概念を司る、恵みと反乱の象徴。

 問題は一定期間の以上降水を引き起こすこと。


 そのため必要分だけ仮想域『雨』を切除する必要があった。


 しかしその仮装域『冬』に続き『雨』が消滅すると理想郷のバランスが完全に崩壊する。


 しかし無論日照りの以上も多いのが理想郷。

 雪を貯めて溶かすことで予備の水を作る手法もあればそもそも動植物自体が環境に適応できる進化をしている。

 

 しばらくは保つだろうがそのうち限界は来る。

 

 容疑者…神担 閃の確保は急務であると言えた。


――――――――――――――――――――――――――――


「ということで出発です」

「ん…どうやって行くの…?」

「アハ。裂け目通るんでしょ?…あれ?どこの?」

「ハッハッハァー!娘様方はご存知ない!?かぁーっ!こりゃ驚い…がばらっ!」

「……何でこれ居るの」


 緊張感がない。

 全くまとまりもない。

 

 騒がしい新を黙らせるのはアルルの役目になったようだ。

 今日も無言でアッパーをわざわざ顎を狙ってぶちかましている。


「最初に皆さんがお会いした場所…集会所が全ての仮想域への移動を司っているんです。なので集会所に行くための裂け目を今から作ります。準備を今のうちに済ませておいて下さい」

「ん…作るの?」

「はい。またすぐに切除しますが。現実世界で裂け目を作った際はワープゲートみたいな感じになりますので、すぐ消すのであれば便利なんです。最も、私のみの権限ですが」


 アルルは特に持つものはないらしく、レンと話していた。

 司郎も残り、ニコニコと笑っている。

 苦労が無さそう…というか、毎日が楽しそうな印象を受ける。


「新さん。貴方に関しては疑わしい箇所が何点かあります。先ずスキルの詳細と代償を話してください」

「ん?情報共有してるんじゃーないの?」

「スキルの情報は共有されませんよ?」

「へー」


 そのうち畔がポーチを、縞崎がキャリーバッグを引いて戻ってきた。


「アハ、お待たせ〜」

「ちょうど良いところに。畔、縞崎さん。新さんがスキルを教えてくれるそうですよ」

「あれ?拒否権は?…う、うんうん。大丈夫。喜んで話させていただきます」


 無言でジリジリと近寄るアルルの気迫に押され、条件を了承する司郎。


 何故だかわからないが畔はそれでも口の端に余裕を浮かべる司郎に違和感を覚えていた。


「コホン。それでは発表しましょう!」

「あ、折角ですので歩きながら聞きましょう。時間はありませんからね」

「アハ、さんせー」

「んむぅ…」


 女子は集まると怖い。

 男子勢はこっそりと恐怖した。

 

 一行は歩き出す。

 目的地は王城の真横に隣接する集会所。


「もういい?うん。僕のスキルはね、『伏魔殿』って言うんだ。能力は視認した生物に出来ない事を僕が出来るってカンジ?」

「アハ、性格悪そーなスキルじゃん」

「…ん?」


 アルルは判っていない様子。

 レンと縞崎は何やら考え事をしているようで、レンは宿屋の出口の段差に人知れず躓いていた。


「端的に言うとー…そうだね。例えば僕がレンちゃんを見ていた場合僕はレンちゃんの出来ない光合成が出来るようになるんだー。一時的に、だけどね」

「アハ、ね?アルル。性格悪そーでしょ?好き勝手に煽り散らされるんだし」

「確かに…!」


――――――――――――――――――――――――――――


 「着きました。それでは集会所の中へ。この中では一切のリスクなく裂け目を利用できます。誰かが鍵を使って空間を切る必要がありますけど」

「鍵?あ!あれかー!」


 いつの間にかBに変わっていたアルル。

 口を開けて驚いていた新はそんなアルルBに暫く弄られ続け、燃え尽きたように元気がない。


「はい。第2王子に渡された裂け目を切除する用の鍵です」

「アハ。私やるー」


 集会所の中は相変わらず無駄に広々としていて、寂しげな広間の様子に薄ら寒いものを感じる。


 畔はポーチにストラップのようにつけていた鍵を外し、虚空に向かって振りかざす。

 瞬間、鍵は青龍刀に変化し、青白く発光する。


「えい!」


 斬撃の軌跡を白い光が追い、ゆっくりと空間が余分に拡張されていく。

 何故かその様はとても幻想的で、神秘的に見えた。


 一行は光を全身に受けながら立ち尽くすのみ。

 

 開き終わった裂け目からは室内にも関わらず雨音が流れ込む。


「成功です。畔、ありがとうございます」

「アハ。イイってことヨ」

「すっっっごかったねー!」

「………うっ…」

「…行くよ?」


 アルル(B)は興奮し、新は呻く。

 そんな彼ら彼女らを急かす縞崎の目はしっかりと裂け目の向こうの人影を捉えていた。


「…運が良いのか……そこにいるよ」


 裂け目から30メートル程先には、初めて一同と合ったときと寸分違わぬ格好をした神担閃の姿。


 髪はボサボサに歪み、手には額縁を握っている。

 明らかに彼には覇気が無く、当初に見せていた子犬のような元気は既に霧散していた。


「…皆さん。注意して下さい。現状彼の状態は不明です。仮想域『雨』に突入後、畔は裂け目を切除して下さい。帰り道は私が作ります。その他は警戒しながら距離を詰めてください。縞崎さんはスキルの有効範囲が広いので少し離れてください」


 レンは一息にそう言った、次の瞬間。


 閃がこちらに顔を向けた。


 過度に歪められた顔の皮と煌煌と光る赤目が、一行を捉えて離さない。


 レンの顔が()()()()引きつる。


「皆さん!早く中へ!」

「「「うん!」」」


 全員が『雨』に突入した。


「あれ?皆どうしたの…?ってレンさん!?ここにもいたの?」


 一層顔を歪ませて閃は話し掛ける。

 彼の手には直刀が握られ、麻の服を着ていた。


 次の瞬間、閃の体が消えた。


「とりあえず…潰されてよ」


 レンの上空に巨大な岩塊が出来、いつの間にか畔の後ろに立つ閃が呟いた。

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