閑話 vs竜胆
具体的な戦闘シーン及び閃が竜胆のスキルにたどり着くまでのお話。
油断している今がチャンスだ。考えろ、見落とすな、思い出せ、使えるカードを全て揃えろ。
「夢を見ていいのは大人だけ…ね」
思わず苦笑が溢れる。
「大人が見れる夢なんて悔いだけでいいでしょ。特にあなた」
「そないなこと言うたら…苛めてあげたくなるやないの」
「徹頭徹尾悪趣味だな」
「芽は摘む性分なんですわ。閃クンと同じように…ね?仕方ないのよ、性分なら。貴方のその性分も私なら愛してあげられるんやけど…?」
遠巻きに会話を交わすことが我慢ならない。
気色悪い科白に頭を振り、拒絶する。
「断ります。自分の顔見たことあります?室町から江戸までならともかく、今じゃ化け物とそう違いない」
「…それに。僕は笑顔が嫌いなんです。愛想呆れ嘲り妬み恨み痛み卑しさ……全てを隠し表層に映し出す気持ち悪いモノ。あなたのは特に気持ち悪い。叩き潰したくなります」
「……中々良い口叩くじゃないの」
竜胆が歩き始めた瞬間を見定めて直刀を思い切り投擲する。
それだけでゴゥ、と空気を引裂き熱を帯びながら刀は飛翔する。
しかし竜胆は歩みを止めず刀を構え、飛来する直刀を叩き落とした。
「チッ」
ここまでは想定内。仮に命中していた場合、彼女の能力は人の使う武器への完全対処と推測される。
しかし。
彼女は僕が最初に飛んだとき僕の姿を視認できていなかった。
あの刀はその時の速度よりも早い勢いで飛んでいたのに…彼女はそれを撃ち落としてみせた。
ここまでで彼女の能力は自身に向かう害への完全対処が可能性として浮上する。
思考に意識を沈めながら東にある林に向かって跳躍する。
地面が踏み砕かれ、雪面に大きなクレーターを残す。
「だけど…」
最初にレンさんを切ったときの移動速度は僕が視認はおろか、側にいることを知覚できないほど。
「観察を続けるか」
恐らくそれも含めたスキル。
【人が扱えるスキルは一つだけです。どんな現象を起こそうと、それはすべて大本のスキルからの副産物に過ぎません】
レンさんの声を思い出す。
「まさか…」
【私のスキルは『花魁道中』。私の前は道となり望む結果を手に入れる】
「運命に直接介入するスキル…だとでも?」
そんな大層な力、何らかの代償があるはず。
若しくは目に見える形での決定的な弱点となりうるスキルのトリガー。
(ですよね?レンさん)
見れば竜胆はクレーターに足を取られ、転げ落ちていく。
「…アホなのか?」
……おかしい。そこまで深いクレーターではないはずだ。なぜ上がってこない?
「ひどいわぁ…」
突如後ろから声が湧き、熱が背を袈裟がけに走る。
「グッ…」
遅れて響く痛みに悲鳴が漏れる。
雪面に垂れた血潮は曼珠沙華のよう。
「ほんま、いちいちかわいいねぇ…」
恍惚。
ねじ曲った癖をさらけ出す竜胆。
だけど。
「刀が投げられたままだと思った?」
あの直刀はそもそも僕のスキルによって作られたもの。
何時でも手元に呼び出せる。
加えて距離も今なら近い。
倒れ伏す前に地面を踏み砕く。
そのまま直刀…所謂、素環頭大刀を創り出し握りしめる。
「あっ」
竜胆がバランスを崩し、仰け反るのが横目に入る。
…このままでは当たらない。
「シッ」
歯の隙間から押し出した吐息とともに環に指をかけ竜胆めがけて振り抜いた。
同時に竜胆も仰け反りながらも刀を振り下ろす。
ガキン。
金属がぶつかり合う音が響き…
竜胆の刀は弾き飛ばされ、彼女の顔に一筋の傷が浮かび上がった。
竜胆の刀は近くの木の幹に突き刺さる。
「あっ…あぁ…」
悲鳴か吐息かわからない声を漏らす竜胆。
雪を巻き上げながら倒れる様は僕には愉悦の対象でしか無かった。
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…笑顔を嫌う閃自身が他人を嘲笑うという矛盾に閃は気づくことはない。
閃は思考に体を預ける。
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今は攻撃が当たった。
必ずしもスキルが万能というわけではないのか?
いや、しかし実践に投入する際その弱点は致命的だ。
予め直しておくか、そもそも乱用しないのが常道のはず。
にも関わらずこの場で使用し続け、傷を負ったのは不可解だ。
わずかに僕の刀が長ければ首を切れていたというのに。
…やはり何らかのトリガーは存在するんだ。
そこを見つければ…今のところの予想は
1.攻撃を見ていること。
2.何らかの動作を行っている間。
2の場合は例えば直立しているとき。歩いているとき。腕を動かしたとき。
それを虱潰しに探さなければ。
「くっ…」
しかし。
ここに来て僕の体力は限界に近づいている。
度重なる神に等しいほどの怪力の使用。
直刀の2本目の作成。
加えてスキルを扱いなれていない点。
原因はこれだ。
少なくとも試せるのは一つだけ。
一つでも外した時点で僕の敗北が確定する。
「…ん?」
…いつの間にか鳥の声が聞こえ始めた。
次はレンとの会話集です。