答え合わせ
「まず疑問だったのは」
閃は淡々と語りだす。
そばにいる壺のような体型をしたお歯黒の醜女の足は不自然なほど歪んでいる。
言わずもがな、竜胆だ。
「最初に僕が飛んだときのあなたの言葉。【あなたも?】半ば反射にちかいものだったんでしょう」
「次に引っ掛かったのは能力の制限です。運命にすら介入し死体すら意のままに動かせる力が制限なし、とは考えられません」
「そこで貴女の一挙手一投足に注目してみました。スキルの名前は確か…『花魁道中』ですね」
「貴女のスキルの発動条件は歩いていることですね?それにしても反則級ですが」
竜胆は答えない。
あらゆる体液を顔から垂れ流し震える様は双方にとって悪夢そのものであるに違いない。
「…僕は……やっと出会えた人を失ってるんですよ?足の2本何て軽いじゃないですか。言いましたよね?四肢をもがれようがもごうが疑問を解決するって」
「あ、あぁあ…」
「…喋れるようになった?じゃあ聞きます。なんでレンさんを斬ったんですか?勧誘したいなら最初からそう言えば良かったじゃないですか」
見下ろす視線はあくまで冷たい。遠巻きにレンが見つめている。
「もしくは…依頼主でもいたんですか?」
「ぁ…そ、それは…」
「だからといって許すわけでもないけど」
「ち、違う…じ、自分の意志で、その…ガハっ」
間髪入れずに鳩尾を蹴りぬく。既にスキルは解除されているためさほど威力は無い。
「で?理由は?重要だよね」
「ごぼ…ごほっ……」
「神担さん。そのあたりで…」
咳き込む竜胆に対しさらに手を加えようとする閃。
それを止めたのはいつの間にか側にいたレンだった。
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「神担さん。あなたはそんな人じゃないでしょう?私のことは…いいんです。元々数あるうちの分体の一つなんですから」
手が震え始めた。
「レンさん…?記憶…あれ、でも…レンさんはさっきまで…」
「竜胆さんについては私から説明を。質問なら後で受け付けます。竜胆さんをこれ以上痛めつけないでください」
必死に震えを抑える。
( )
心の声が響く。
( や… )
震えは全身に伝播する。もう止めることは出来ない。
(やめて…くれ…)
レンさんの顔を見ることができない。
(そんな…顔を…しないでくれ…)
「どうしました?」
声音の優しさに心が挫けた。
「や…やめて…ください…そのか、お……僕には…とても…」
微笑を浮かべるレンさんの顔に恐怖した。
…見たくない。
直視出来ない。
認めたくない。
口の端にうっすらと浮かぶ愛想笑い。
それが自分のものだと思えればよかったのに。
僕の求めた太陽はもうそこにはいなかった。
「顔?私の顔が何か?あぁ、表情ですね。今この場において元の神担さんの私と竜胆さんの私が一つになり、表情とスキルが追加されたんです」
結局此処も僕の求めたものでは無かったんだ…
人の変化に脆い僕の在り方。
怖い。
求めた人と出会った。そして別れ、また会えた。
そして僕はまた失おうとしている。
怖い。
歯の根が噛み合わない。きっとこれは寒さによるものではない。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
また失うのが怖い。けど。目の前のレンさんの顔もまた……
そこから先は覚えていない。
赤く染まる心と思考と瞳と体。
何一つ覚えたくない。
いつの間にか僕の手には額縁が握られていた。
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皇国内、商店街
「……………ん?」
縞崎 華矛良は言葉が少ない。
ひとえに彼の怠慢によるところが大きいため、聞き取る相手がその都度内容を膨らませる必要がある。
ちなみに今のは「どうした?」という意味合いである。
「…先程まで竜胆穂と神担閃が交戦していました。結果は閃の勝利ですが…その後反応がありません」
「あ?…つまり?」
「考えられるのは第3勢力の乱入による全員の死亡。あるいは閃による大量虐殺。最後にその概念世界の消滅です」
「…そ」
変わらず商店街は人々の声で賑わい続ける。
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第一章 完
このあと省略した対竜胆戦の補足と顔合わせ前の会話の補足を挟み次章に行きます。
特に本編に関わることは書かないor書いても別の場所で書くのでスルーして大丈夫です。