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ハロー/チープワールド  作者: 助吾郎
ハローワールド
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ハロー/チープワールド

 誰がが嘲笑った。


ありもしない日々、世界に恋い焦がれる様を…


 誰かが願った。


ありもしない日々、世界が訪れることを…




 弱者。


 その言葉に当てはまる人々は一様に願う。否。願う事しかできなかった。

 肥大化し続けたその祈りは集まり、やがて一つの世界を生み出すに至った。


 しかし抽象的な思念が生み出したそれは完全に至ることはなかった。




 尊大かつ廉価。野卑かつ劣悪。それが代償だった。


 願う事しかしなかった彼ら…しかし願う事しか出来なかった彼らにとっては厳しい現実。

 故に。彼らは嘆き、苦しみ…その世界は皮肉を込めて理想郷と呼ぶに至る。




―――歴史は繰り返される。


 誰が言ったか、その言葉は事実であることは確かだった。


 何度も生み出されては棄てられた理想郷は増え続け、そのたびにお互いを補完し合った。

 余分な概念すら纏めて繋がった。


 完全に近づいた理想郷は最終的に一つの歪みを残したまま歩みを止めた。


 原型を留めないほどに概念に押しつぶされそうになりながらも…





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「大丈夫。きっと願いは叶うよ。いつか…ね?ほら―――」


 その言葉を忘れない。


 聞き取れなかった最後の言葉ごと切り捨てるように睨む。

…忘れるものか。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「以上が大まかなこの世界の遍歴です。神担(みかつぎ)さん、何か質問でも?」


 目の前の人影が首をかしげてみせる。ときおり揺れる長髪と声から人影が女性であると思われるがその声音は酷く機械的だ。抑揚がない。


「えーと…」


 座り込む男性…神担閃は何から聞いたものか目を彷徨わせる。

いつからここにいたのか、周りは夕焼けに染まる丘のような場所。風に揺れる野草に違和感を覚えた。


 けど

 それよりも…


「なんで君は体中真っ黒なの?」


 自他ともに認める一意専心型の人間である閃は目の前に不思議なことがあると、それ以外考えられなくなる欠点を抱えている。


 目の前の人影は閃の興味を引きつけるには十分すぎた。


 何しろ目の前の女性は影絵から飛び出してきたような見た目なのだ。どの角度から見ても真っ黒な上に平面のような錯覚すら覚える。

…立体的な影。そうとしか言いようがない。


「そういえば自己紹介もまだでしたね。私の名前はレン。レン=カーマインです」


「レンさんでいいのかな?それとも…ちゃん?」


「お好きにどうぞ。質問への回答ですが、理由は簡単です。単純にあなたに割ける私のリソースがこの程度ということです」

「???」


 閃は唐突な会話の転換然り、まるでレンが分裂しているような発言に困惑する。


「えと…レン…さん?が分裂してるという認識でいいの?」


「詳しい説明すらまだでしたね。先程ここ、つまり理想郷の遍歴についてお話しましたけど理解できている前提でお話しますが…」


 に影は話す。


―――――――――――――――――――――――――――――――




 レンさんによると理想郷における補完とは電子を共有して結合するイオンのようなものとのこと。

 そんな補完を繰り返した結果、理想郷は一見すると球形の世界だが概念的には房に繋がったブドウのような状況なのだとか。


 その概念世界の一つ一つにレンさんの影と僕みたいな人が世界の補正、探索のために派遣(いつの間にか)されている。無論帰りたいと願えば帰してくれるらしい。他の人の負担は増えるけど。


 まとめると、僕の仕事は概念世界の探索、調査。他の世界の人が帰還、死亡することで回ってくる新たな世界の探索ということらしい。


 他に、レンさんの仕事は僕たちのサポート、監視、情報の共有など多岐にわたるらしい。また、脱落した人の分のリソースは俺たちに回ってくる。その分出来ることは増えていくようだ。


 思考の整理。

 夕焼けの丘を静寂が支配する。


 そんな中。一石を湖畔に投じるがごとく…


「理解しましたか?それでは確認いたします。あなたは概念世界の探索を行いますか?」


 突如として影は声を上げた。

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