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奈々が世界を救うまで  作者: 小柳團十郎
一度っきりの高校生活
7/24

一生の日常

優が、弟が死んだ。

乗っていた電車が脱線事故を起こしたのだ。それで。

ニュースが流れて、少し心配して、ラインをした。電車が遅延していないかと。

返事は無かった。きっと友達とはしゃいでいるか、電車の遅延で予定変更にあたふたしているのだろう。帰ったらお仕置きしてやらないと、そう思っていた。

お母さんからラインが来た。優がお母さんからの連絡にも応えないらしい。

電話をかけた。出ない。

ニュースはなんの役にも立たない。何時何分に事故が起きたかなんてどうでもいい情報を何回も繰り返すのに、優の安否をちっとも報じない。

死者の数が出た。すごい数だ。まだ増えるらしい。

鉄道会社の見解なんてどうでもいい。遅延状況なんて関係ない。目撃者の証言が何になるんだ。優は、優のことを教えてほしいのに。

結局、テレビから優の情報が入ることはなかった。

お母さんが帰ってきて、お父さんも仕事を切り上げて帰ってきた。

お母さんに、電話がかかってきた。優と一緒な遊びに行った友達の家だ。

相手の声は聞こえない。お母さんの反応だけを私とお父さんは注視する。

息子と連絡がとれた。奇跡的に軽症らしい。お母さんに笑顔が浮かぶ。

そうだ、一緒にいた友達が軽症なんだ、優だってー

お母さんの顔が凍りついた。なんで?どうしてそんな顔をするのだろう?

それじゃあまるでーまるで優がーー

お母さんが電話を切って、それからゆっくり

「優は…亡くなったって…。」


優の葬式が開かれた。

友達がいっぱい来てくれていた。でもちょっと退屈そうだ。彼らにとっては今週三回目の葬式なのだから仕方ないと思う。

真希ちゃんも来てくれた。真希ちゃんは泣いてくれた。私も泣いたと思うけど、どうだろう、よく覚えていない。

鉄道会社の人が来た。お悔やみ申し上げるそうだ。よく、意味がわからなかったが、あんな着飾った言葉を使うぐらいだからきっとさぞ悲しんでくれているんだろう。

おかあさんはずっと泣いていた。おとうさんは泣かなかった。

その日の晩、リビングから聞こえてきた泣き声は、きっと忘れたほうがいいのだろう。


夏休みが終わった。

遊ぶ気分ではなかったからありがたい。

「柏木さん。」

廊下で声をかけられた。振り返ると生徒会長の人がいた。たしか、村瀬…さん?

なんか、凄いらしい。入学前から噂になるほどの人物で、一年から生徒会長をやってる人物らしい。

なんのようだろう。

「明日、中等部で、弟さん達に黙祷を捧げる予定です。柏木さんも参加なさってください。」

「でも…明日は休み明けのテストが…。」

「テストの日程はずらしました。明日はレクリエーションしかありませんから、こちら休んで大丈夫ですよ。」

…何を言ってるんだこの人は。本気で一生徒がテストの日程を変えたと言っているのか。

「はぁ…。ありがとうございます。」

「柏木さん、これは先達としての助言ですが、どうせそのうち大丈夫になります。無理して今大丈夫にならなくていいですよ。」

…生徒会長も家族を失ったことがあるんだろうか。

かも、しれない。だとしたらきっと仲が悪かったのだろう。

私と優は仲が悪かった、なのにこんなに胸が苦しい。なのにこの人はそのうち大丈夫になると言い出すのだから。

「私はー

「どうせ一生悲しいんです。」

ああ、私が間違ってた。この人は、一生泣く覚悟をもうしてるんだ。

つよいなぁ…。

「アドバイス、ありがとうございました。」


「未来ある皆さんのー

校長先生が前で亡くなった生徒たちのことを嘆いている。

未来が無ければよかったんだろうか。

私は未来なんてどうでも良かったけど。

今日、優と話さなかった。それが悲しいのだ。


テストの点数が悪かった。まぁいつもの事だ。

先生に呼び出された。

「柏木。この点数はなんだ。弟さんが亡くなって、落ち込んでるのはわかるが…。」

「弟は関係ありません。私が馬鹿なのは入学したときからです。」

「…。もういい。追試はちゃんと合格しろよ。」


日々は過ぎていく。彩りを変え、毎日同じ速さで進んでいく。

優の死なんて無かったように、日常は犯してくる。

だが、忘れることは決してないのだ。何回優のいない三人の朝食を繰り返し、それが日常になっても、優と話せない事実を忘れることはない。

優のいない日常が一生続く。

そう気付いて、気が楽になった。一生悲しいままなら、行っ引きずっていいなら、人生もそう悪くないかもしれない。

生徒会長が教えてくれなかったら、きっともっと時間がかかっただろう。あの人には感謝しないと。

そして、私は日常に還った。


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