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1-1プロローグ1

始業式前日。

俺の平穏な日常は一人の少女によって終わりを迎えた。


花折明はなおれあきらは机に向かっていた。春休みの宿題とかではなく小説である。そして読む方ではなく書く方である。

特別賞を目指して頑張っているとかではないが中学の頃と比べれば力を入れている。

中学の頃と比べて時間があるから結果としてそこを拠り所にするしかなかったという方が正しかったか。


島の中学を卒業し、寮生活を始め、こっちの陸の高校に通うようになって今年で三年目。

島にいたころは子供の数も少なくみんなが友達という感じだったからよかったが、その分友達作りというのをしてこなかった。

それにあの頃はリーダー格のやつについていくだけのモブみたいなもんだったから誰かを動かす能力なんてものもなかった。

つまりはこっちの高校で友達ができなかったのだ。

そう、俺はぼっち。

勿論部活にも入っていない。まずは寮暮らしに慣れないとと思って出遅れてしまったのだ。

というものの特に入りたい部活があったわけではなかったのだが。

文学部は一応あったけど読むのはそこまで好きではないし、書く専でよかったとしても読み手の顔が見えるというのは怖いから嫌であった。

半年くらいはぼっちでいることに劣等感があったが今となっては慣れてしまったもので調子がいいときは一言も声を発することなく学校を終えることができる。

どうだ、すごいだろ。


ところでなんでこうも自分語りをしているかと言うと、小説で行き詰ってしまったのである。話が動かない、登場人物が頭の中で動き出さない。

これも自分の物語がつまらないからだろうか。自分が今書いている物語自体がというのもそうだが、自分の人生って意味での物語がつまらないから自分自身を物語へ昇華できない。そんな気がする。

つまらない物語が詰まってしまうってのもなんか皮肉だな。


集中力を失いだらって椅子にもたれかかると外からぶろろろと音がしてきた。

おもむろに椅子に腰かけたまま外を眺めると引越し業者のトラックが寮の前に来ていた。

そう言えばまた寮に人が入るのか。優子さん曰く三年生の女子で転校生だとか。

自分と同学年というのに少し引っかかるが女子だし自分みたいな地味な男子には干渉してこないだろう。

玄関の引戸のガラガラ音が聞こえるとどどすこと業者さんが荷物運びで階段を駆け上っていく音がする。

雰囲気的に問題の転校生の方はまだ来てないようだ。

しばらくするとドアの外から大きな音も聞こえなくなり、また窓から外を見てみるとトラックが消えていた。

明日が始業式なのにいつになったらくるのだろう。そんな疑問をよそにまたドアの外からどどどと音が聞こえる。軽快で軽い、女の子の音だ。


ガチャガチャ……、バタッ!


「お兄ちゃーん!優子さんがねー!」


「おい待て、亜夜あや!何当然のように鍵開けて入ってんだよ!」


音の正体は妹の亜夜であった。いや、妹の紹介よりなんで寮に入って四日目で人の部屋の鍵開けれてるのかって話で、


「お兄ちゃん、知らなかったの?世の中の妹はお兄ちゃんの部屋の鍵を開けられる妹と開けれない妹の2種類しかいないんだよ。」


首を傾げきょとんとした顔で器用にねじ曲がった針金を見せてくる妹は狂気に…、いや、愛らしさに満ちていた…。


「お前なぁ…。くれぐれも鍵穴は壊すなよ。弁償になったら払うのは母さんたちなんだから。」


呆れながらも遠回しにやめろと言うと亜夜は「はーい!」と言ってニコニコしながらこっちを見てくる。

遠回しにもなってない気がするがあまり直接的なことを言うと針金を持つ手とは逆の左手のポケットから鞭が飛んでくることを俺は知っている。そう、言葉の通り『愛の鞭』である。

ドアの前に立っていた亜夜はひょこひょことこっちに近づいてくると俺の肩越しにひょろっとパソコンを覗こうとした。

俺は勿論バッとパソコンを閉じると


「お兄ちゃん小説行き詰ってるの?」


「亜夜には関係ないだろ。」


俺は亜夜から目をそらしてそう答えた。


勿論知っている人間に自分の小説を見られたくないからである。まるで自分の中身を見せているようで怖いのだ。

中学時代は今ほど拒否反応を示してなかったが、いつからだろうか、自分を見せるという行為に恐怖を感じるようになっていた。

だからネット小説という匿名性は心地いいし、ここがどうとか指摘があっても素直に受け入れられる。

その指摘は小説にであって、自分にではないように感じることができるからだ。


「ところで、優子さんがどうしたって?」


俺は自分の身の為にも本題に戻した。


「あっ、そうそう。優子さんがね、302号室の新しい人がまだ来るのに時間がかかるみたいだから本棚とかベッドとか作ってあげてだってー!」


「はぁ?それぐらい自分でやらせろよ。」


「作らなかったら今日夕飯無しだって!」


「ちぇっ、あのクソババア。」


「しかも今日は3人の入寮記念で家焼肉ならぬ寮焼肉だってさ。」


「おっけー、やるわ。」


俺は即答した。寮焼肉は入寮記念でしかやらないという謎のルールがあるからこれを逃すわけにはいかない。ちなみに去年は入寮者0人だったので2年ぶりの寮焼肉である。


「じゃあがんばってねー!」


「がんばってねー!っておい!亜夜は手伝わねえのかよ!」


「優子さんから買い出しの手伝いしろって言われてるから一緒に買い物行ってくる-!」


「うわっ、まじかよ。じゃあ、塁は?」


「塁君はたぶん今ランニングに行ってるよ。野球部の練習についていけるようにとがんばってるみたいだねー。」


ちなみに塁君こと矢追やおい塁というのは亜夜と同じく今年から入寮してきた1年生で俺や亜夜と同じ中学に通っていた、つまりは同じ島っ子である。

たまに一緒に遊んでいたから今のぼっちの俺でも流石に邪険にしたりはしない。

さらにちなみになんだがわざわざこっちの高校を選んだのは亜夜のことが好きだからだ。

俺は亜夜のお兄ちゃんだからな、本人から聞いてなくてもすぐわかるんだ。

さらにちなみにのちなみにだがその亜夜がこっちの高校入った目的は勿論俺に会いたかったからだぞ。

いやぁ、愛というのは恐ろしい。

俺が通っている桜庭坂さくらばざか高校、通称’サクコー’は県内有数の私立の進学校で入るのも難しいということも付け加えることでどれだけその愛が恐ろしいものか知ってもらおうではないか。

小学生時代の亜夜は100点を一回も取ったことなかったくらいの学力だったのによく頑張ったと思うよ。塁も特別頭がよかった訳でもなかったのに。


そんな、今寮にいないやつのことはさておき亜夜が「じゃあ行ってくるねー」と部屋を出てから、一瞬サボろうかと考えるがバレた時の代償が大きいためしぶしぶと302号室に向かった。

部屋に入ると当然段ボールの山。はぁとため息をつくと取り敢えずベッドや本棚のパーツが入っている段ボール以外の荷物を扉と反対の端の方に動かしていった。

ベッドは大きいので組み立てるためのスペースを確保したかったのだ。

段ボールには律儀に『教科書』『問題集』『洋服』『制服』『下着』などと中身が書いてあった。



「んんんっ!!!下着ぃぃぃ!」



うっかり書いてある文字に反応してしまい声を上げながら『下着』の段ボールを落としてしまった。

段ボールを足の甲に落としてしまい反射的に「イタっ!」と言ってしまうが流石は下着。そんなに痛くはなかった。


「くそっ…、俺と言ったことが下着ごときに反応してしまうなんて…。」


そんなしょうもない独り言を言いつつ『下着』の段ボールを再びよいしょと持ち上げるとトントンと部屋の戸を叩く音がした。

扉開けっぱなしなのになんだと思いながら扉の方を振り向くと知らない女性が立っていた。


「ねえ、あんた誰?ここ私の部屋なんだけど?」


そう、これが後にわがままプリンセスとなる円谷咲姫つぶらやさきとの出会いであった。




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