第2話
「本当にありがとうございました...!」
王都の入口
身分証は持ってないものの、助けた商人がかなりの有名人だったらしく難なく検問を通り抜けることが出来た
ちなみに御者とは門の前で別れた
王都には彼ら交通機関専用の入口があるためだ
「いえいえ
僕の方こそ身分証持ってなかったから助かりました」
「それは良かった
もし時間があれば是非、私の商会へ足を運んでください
これを持ってくれば割引致しますので」
そう言って商人は茶色のカードをノアに渡した
「ありがとうございます
ではまた」
ノアはぺこりと頭を下げて、商人が再度感謝するのを聞いて冒険者ギルドへと足を向けた
「『カイオス商店』か...」
先程貰ったカードを眺めながら街を歩くノア
すると視界の端に何やらコソコソしているのが見える
それは薄汚れたボロ布を身に纏った孤児であった
この街の孤児院はもう満員で彼らのような受け入れてもらえなかった子供は、スリを生業に生きるしか方法は無い
―おそらく彼は獲物を見定めているのだろう
まず当然だが、お金の持っていない浮浪者や同士は駄目
次にお金は持っているが、冒険者のような五感に優れた強者も駄目
そして最も最悪なのが貴族だ
貴族の子供なんかはまさにカモだろうが、その後報告を受けた親によるスラム街の大粛清が起こりかねない
―せめてあの孤児がそこら辺を弁えて行動することを願うばかりだ
方向音痴のノアは右往左往して街の人に場所を聞きながらようやく冒険者ギルドに辿り着いた
彼は何となく躊躇したが、意を決してギルドの扉を開けた
その瞬間、一斉に様々な感情を含めた視線がノアに突き刺さる
しかし彼はそんな視線など意に介さず、悠々と受付へ足を運んだ
彼は複数ある受付の一番人の少ない所に並んだのだが、それでも時間がかかった
その間も絶えず視線の嵐に見舞われた彼だったが、ぼーっとしたり、ギルドの中を観察したりして暇を潰した
―金は多少あるし、古書店に行ってからでもよかった...
と若干の後悔をしているとようやく自分の番になる
もう夕飯時なのか冒険者の数もまばらになっている
「こんばんは!
今日は何の御用でしょうか?
...って、あら?」
最初は満面な笑みで対応に臨んだ受付嬢の顔が訝しげなものへと変わる
言うまでもなく、この場にそぐわない少年ノアを見てのことだ
「すみません
冒険者ギルドに代行者として就職したいのですが」
「え、えっと 君は何歳なのかな...?」
戸惑った受付嬢はノアへそう問う
それを聞いたノアは眉をひそめた
「確か、冒険者ギルドへの就職に年齢制限はなかったはずですが...」
「あ ち、違うの
でもいくら年齢制限が無いからって...」
―君のような子供は...
最後は濁したが、おそらくそのようなことが言いたいのだろう
しかしノアはそんな彼女に懇切丁寧に接した
途中からどちらが子供だろうと感じた受付嬢は先程の自身を恥じながら代行者についての説明を始める
と言っても戦闘能力を測る就職試験がある
という情報を除けばほぼ事前に知っていた知識であった
試験は明日の昼にあるらしく、事前に試験料を払ったノアはギルドを後にした
―お金もあまり無いし今夜は野宿かな
野宿のため王都を出たノアは森の中に入る
もうすっかり暗くなってしまっている
こうなると昼間に比べて魔物による被害が格段に増えてしまう
普通は野宿しようなど考えもしない
しかしノアにはあまり関係のないことだった
「『傲慢』の名において命じる
『近寄れ』」
その瞬間、森中の魔物がそこかしこから姿を表す
ノアの魔法と魔物の本能とがノアに近付くことを強要する
大量の魔物が肉薄してきた瞬間、彼は次の命令を下した
「『死ね』」
直後、大量の凶悪な魔物が静かな骸へと変わった
これがノアの持つ能力の1つ
『傲慢』
格下であればどんな命令であろうと遂行させる強力な『能力』だ
ノアにとってはたとえドラゴンであっても格下なので、この魔法だけで十分に事足りている
ここでの格下とは自身のステータスの100分の1の存在のことを言う
ノアはまた別の能力によってそのステータスは少々おかしなことになっているので既に世界最強である
勿論、ノアにその自覚は無いし
誰もこの少年が世界最強だとは信じないだろう
ただの彼には英雄願望が存在しないので、ある意味好都合とも言える
その後、土魔法と木魔法を使って簡易的な住居を作成したノアは先程殲滅した魔物の肉を焼き始めた
「『暴食』」
彼がそう呟くと黒く丸い物体が空中に現れる
そこからノアは胡椒と塩の入った瓶を取り出した
この『能力』は言わばインベントリの役割を持っている
他にも一度行った場所への転移などのかなり便利な力もある
ちなみに大量の魔物の死骸もこの能力によって収納されているので、ノアは換金するつもりだ
基本代行者に就いた者は魔物の素材を換金しないのだが、討伐依頼以外で狩った魔物に関しては別に禁止されていないのでまだ給与が低い新人とかはバイト感覚で行ったりもしている
「うん やっぱり兎系の魔物が一番美味しい」
ノアは焼いた肉を食べながら今日初めて子供らしい笑顔を見せた
実はノア
結構美食家で食べるのが好きだったりする
今回使ったのは塩と胡椒だけだったが、他にも何十種類もの調味料と香辛料が『暴食』の中に収納されている
さらに料理のスキルも取得しているため、肉ごとのベストな焼き加減が感覚で分かるのだ
使用していた調理器具を丁寧に洗い、『暴食』に収納すると草を重ねて布をかけただけの簡単なベッドに寝転がった
魔物と細かい虫なども一斉に死滅させたため、魔物の蔓延る森の中とは思えぬほど穏やかな一晩を満天の星空と共に過ごしたノアであった