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アスファルトの上で

作者: 阿久柚稀


 その日もまた雨だった。

 まわりをふわふわと飛ぶ、その浮遊物に目を向ける。透けた翡翠色の羽をもつ、妖精みたいな僕の幻想。ある日突然現れてからというもの、帰りはよく雨が降るようになった。そのせいで、ここ最近は雨の中暗い道を歩いている。

 今日はいつもより早く帰ることになったが、変わらず雨が降っている。

 上司の論に頷き、どうでもいい同僚の話を聞かされ、ただ機械的に、何事もなく毎日は過ぎていく。

 ぱしゃぱしゃと、歩に合わせて足元の水が舞う。

 もう少しで家というところで、雨が止んだ。

「あのさ、君」

 持ちなれた傘を閉じながら、僕は言う。

 『それ』はきょとんとした様子でこちらを見上げるから、よくできた幻想だ。

「なんで僕のところにいるの? 何が目的?」

 『それ』はいつも通りだ。何も喋らない。だが、いつもと違って、幻想は笑って上を指差した。

 指に沿って上を向く。見上げたところで、何があるというわけでもない。空には虹が架かっていた。雨の後、晴れた空に虹がある。ただ、それだけだったのだけれど。

 空が青い。澄み切っているだなんて、とても言えない。ところどころ雲が空を覆い、特に綺麗だとも思わなかった。薄く、鮮やかな橋が、ささやかに架かっている。

 そういえば、空を見上げたのはいつぶりだっただろうか。

 やっと、上を向いたね。

 そう、嬉しそうな声が聞こえた。

 ぽつ、ぽつりと。

 再び雨が降り出して。

 気がついたときには、僕の幻想は消えていた。


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