チャプター1:目覚めの朝
その日目覚めたときの風はいつもより暖かかく感じた。
「んん……」
ふと目が覚める。時間は……まだ夜明け前だ。
一度目が覚めたせいか、眠れそうにない。
「少し歩くか」
夜はあまり好きではない。もっとも昼も昼で好きではなかったが。遠方の山から光がこぼれ始めている。間もなく夜明けだ。私はこの時間が好きだった。
―――――否。
この時間だけが私の居場所だった。
風が吹いている。どうにも落ち着かない。早くに目が覚めてしまったからだろうか。
気が高ぶっている。体がほてっている。吹き抜ける風の感触がどうにも私をざわつかせる。
―――――ああ。世界はこんなに暖かっただろうか。
そうこうしているうちに高台へとたどり着く。ここからなら夜明けがよく見えるだろう。
まばゆい夜明け。
その刹那。
黒ともいえぬ深い闇を抱えた夜と。
すべてを明るみへと引きずり出す昼を。
燃える一閃が断つ。昼でも夜でもない空の境目。
―――――アカツキ。
この時間こそが私のすべてだった。
西のロマーノを拠点に大陸でも名の知られた対魔専門の騎士団。これまで何度も魔物の侵攻を跳ね除けてきた。大陸でも信頼の厚いまさに英雄だった。
彼/彼女こそがその団長。
伝説の騎士アーサー=ダーンの末裔で。
最悪の魔人カグヤ=レッドムーンの生まれ変わり。
【暁の円卓】第一席。
『斬空』アカツキ=キリト=ダブルクロス。
その目覚めであった。