プロローグミッション1
――――――――その日、目覚めたときの風はいつもより暖かく感じた。
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「いやーすごい賑わいっすね」
そう言って隣にいる男が声をかけてくる。彼はセイテン。我が栄光のギルド【暁の円卓】の副団長であり、この俺の右腕でもある。我らギルドは西のロマーノを拠点に大陸でも名の知られた対魔専門の騎士団である。これまで何度も魔物の侵攻を跳ね除けてきた。大陸でも信頼の厚いまさに英雄だった。団長である俺を含めて正団員12名。副団員として実に五十名もの人が所属している。そのすべてが団長たる俺により統率されているのだ。
―――――――――まあ全部ゲームの話なんだが。
そう今のはすべてゲームの話。これはオンラインゲーム「鎧殻の戦機神」の中での話だ。
そして今日は七年間続いたこのゲームの……最終日だった。
二年目である鉄血編からのプレイヤーである俺だったが思えばずいぶんと長い付き合いになった。当時高校生だった俺も今では社会人だ。……いやうん、就活は失敗したんだけどね。まあ大丈夫でしょ。俺彼女いるし。このゲームでの話だけど。
まあそれは置いておいて、今日は最終日だけあって久しぶりの大賑わいだった。すでに後続のゲームが始まっており、ここ一年はほとんど過疎っていたが(かくいう自分もインは久しぶり)今日だけはこの賑わいだった。まあ今日でこのゲームともお別れなわけで、手塩にかけたキャラクターたちともお別れしなければならないわけで。
「寂しいなあ」
つい口から零れてしまった。寂しい。素直にそう思う。
それを横にいたセイテンが聴いていた。
「たしかになんか感慨深いっすね」
普段は軽いノリのセイテンだが今日ばかりは少しおとなし目だ。
思えばこの男との付き合いも長い。性格などを見るにリアルでだったら絶対に絡むことのないタイプだ。しかしオンラインゲームならまさに戦友といえる仲だった。お互いにリアルであったことはないが。これは別に仲が悪いとかでなく、うちのギルドはもともとそういうのはなしと決めていた。なので自分にもリアフレはいるがそいつらとはギルドも違う。当然交流はあるが。
「中二の団長が今じゃ社会人っすもんねえ」
「やめろ」
感慨にふけってたらぶっこまれた。やめろ。いやほんと辞めて。
そうこのゲームにはたくさんの輝かしい思い出とともに、数多の黒歴史が埋まっていた。仕方ないね。だってゲーム名が「鎧殻の戦機神」だぜ?無理でしょ。
「いや別に皆中二でしょ?ここにいる奴らって」
「いや~~~団長にはかなわないっすよ。なんせ名前が」
「ストップ」
「あれ、どうしたんすかWWWWWWW『✝斬斗✝』さ~~んWWWWWWWWWW」
「やめてください」
はいそうです。僕は✝斬斗✝です。ちなみにキリトって読むんだ。
「いやーかたくなに名前呼ばせようとしないっすもんねえ」
「しょうがないだろプレイヤーネームは変えられないんだから……」
そうしょうがない。俺はこの名前を背負ってかなければならないんだ。かつての黒いヒストリーが作りし大罪の十字架として。
「団長たちあんまイチャついてないでそろそろギルドハウス来てくださいよ」
仲間からの催促が来た。まあギルドチャットでしゃべってたからね。
「団長町なんですけど」
「団長が町になった」
「いいから早く来て」
「ちょWWWWWエレンさんその恰好WWWWWW」
「今年の夏のトレンドです」
「WWWWWWWWWWWWW」
「ただの変態でしょ」
「なにこれ」
うーんチャットがくだらない話で盛り上がってる。これもなんだか懐かしい。
ギルドはいろいろなトラブルを避けるため郊外を開拓して作った。今いる都からはかなり離れている。しかし特殊なアイテムを使えばすぐにハウスへ行ける。
静かな森の奥。風光明媚なこの場所が我がギルドの本拠地だ。
「もうみんな来てるか?」
「団長たちが最後ですよ」
「自分で設定した集会時間に遅れるとか」
遅れてやってくるとすでにみんな揃っているようだった。
「エレン思えなんだその恰好……」
リーゼントにブーメランパンツ。歌舞伎みたいなメイクをしてグラサンの男に声ををかける。かけなきゃよかった。
「いやー久々だしね?ちょっとかましたいなって」
「集会の時はギルドの制服に戻してね?」
「えー」
「えーじゃねえ」
「これでも抑えたのに」
馬鹿は無視して席に座る。
この席が埋まるのも久しぶりだ。
「しかしみんな揃うのも久々っすねえ」
「自分はもうほんとに久しぶりです」
「タクマさん忙しいのに」
「今アメリカです」
「WWWWWWWWWW」
「久しぶりにあれやります?」
「出たWWWWWWWW中二号令WWWWW」
「いいですね」
「まあこれで本当に最後だし」
号令か。懐かしいな。バリバリプレイしてた時でもそんなにやったわけではない。けっこう恥ずかしいし。
でも。
「そうだよなあ、最後なんだよなあ」
そう、最後。
みんなもどこかしんみりしている。いろいろな思い出が詰まっているんだ。
「よし。いっちょやりますか」
我らが栄光のギルドの、最後の宣誓だ。
「これより暁の名のもとに」
「我らが最後の宣誓を行う!」
「「「「「おうっ」」」」」
「明けに輝く星たちよ!群青を赤く染め上げる力に集いし者よ!」
「我ら円卓に集いし者よ!その名に誇りあらばここに告げよ!」
「第十二席『無空』ここ推参いたす」
「第十一席『エレン』美しき剣戟を奏でよう」
「第十席『ロベルタ』だよ。さあ共に行こうか」
「第九席『blood』鮮血を咲かせよう」
「第八席『桜音深月』……今宵は月がきれいですね」
「第七席『タクマ』みんな無茶だけはするな」
「第六席『ダモクレス』栄光とともにわが剣はあり」
「第五席『リュージ』さあ。ド派手に行こうぜ!」
「第四席『ヒガンバナ』今日も命が消えていく……」
「第三席『ライ』楽しませてくれよ?」
「第二席『セイテン』永久にこの誓いと共にあり……極光をここに」
「第一席『✝斬斗✝』我が闇に呑まれよ……滅光をここに」
「我等は暁に輝くもの。太陽と月を追うもの。昼と夜を分かつもの」
「ここに暁の円卓を宣誓する!」
……
………
…………
「いやみんなノリノリじゃねえか!」
ノリノリだった。いやまじで続かなかったらどうしようかと。
「いやいや最後だし当然でしょう」
「やんなかったら団長さんがただのバカですし」
「いや一回やられてるからねそれ。忘れてないよ?」
結構トラウマです。みんなはやめようね!
「まあこのギルドがある程度はそういう集まりですし」
「それな」
「騎士たるもの、優雅かつ強く。戦闘もコミュもキャラクリも、やるときは全力でってね」
「うちの第ゼロ条ってとこですもんね」
「マスターは体当たりすぎてよくすべってったすねWWWWWWWWWWWWW」
「セイテンお前いい加減にしろよ……」
「ハイハイその辺で」
「それじゃあ最後にみんなで狩りにでも行きますか」
「せやね」
「じゃあみんな格納庫へゴー!」
このゲームには大きく二つの特徴がある。一つ目はこれ。この鎧殻である。ロボットと鎧の間みたいなものでこれをつけて戦闘マップに出る。デザイン他いろいろ細かく見た目を設定でき、武器と兜、胴、籠手、足、それに最大三つのアタッチメントを装備できる。八つの基本規格がありスキル等を振り性能もカスタマイズできる。見た目、性能共にかなり個性が出るのだ。
「久しぶりだな我が相棒……」
俺の鎧は黒い騎士鎧のような見た目。基本規格は『黒騎士』で武器は双剣。あるイベントでの報酬で手に入れた剣『ギャラクティカノーツ』と苦労して手に入れた最強クラスのアイテム『黒狼の流星』をカスタムした双剣だ。いや金がかかった。
性能もスピードとテクニックに振った斬撃特化型と呼ばれるスタイル。こいつを纏い数多の敵を屠ってきた。
十二の鎧殻が揃う。
わが栄光の最後の戦いだ