ドキドキが止まらない。
恐怖映画を見るのはこれが何度目だろう…。
好きというわけではない。どちらかといえば嫌いな方に入る。なのに何故?って?それは…。
友達になめられたくなかったというのが本音だ。僕はどちらかというと小心者と思われており、度胸がないと言われているのだ。
なので、たくさんのホラー映画をレンタルしてきて今友達と一緒に見ているのである。
「およ?うげー!」などと言うのは途中からは言わなくなったが、やはりビックリなんかはする。
「なあなあ、なかなかだろ?ここがいいんだよ。」などと解説されてもほとんど目を背けている僕にはなんのことだかわからない。
「アーッ、目、見てないじゃん。」
「見てる見てる。」
と言ってはまた目をそらす。
友達もわかって行っているんだからタチが悪い。
「電気消そ〜ぜ。その方が盛り上がる。」そう言って友人は部屋の電気を消した。さっきまでの明るさがなくなった分怖さに拍車がかかる。
ゾクゾクとしながら音を立てて怖さをごまかすも友人は黙っててと言う。
もうどうにでもなれって腹をくくった僕はその場に黙って腰掛けた。
そして新しく違うディスクをデッキに。
タイトルは【実録!心霊動画】と書かれていた。
タイトル通り心霊モノだ。
素人が投稿した動画を集めたもので、中にはびっくりするようなものもある。
そんなの誰が借りてきたんだよと僕はぼやいたが友人達は笑っていた。
「こんなのちっとも怖くなんかないさ。だってよ〜どうせ作り物なんだぜ、きっと。」
《そんなわけあるか!実録って書いてあったろ!》僕はそう言ってやりたかったが、友人はどうせ信じちゃいない。
その時、部屋の隅の戸がガタンといった。
皆その時一瞬固まったが、また笑い出した。
「誰だよこんな手の込んだいたずらしかけてくるやつは。」「だよなぁ〜。リアルにありえねぇ〜。」「お前じゃねーの?」「そんなことあるわけがない。」僕はそう言いながらも謎の音が気になった。
皆はもう次のディスクの話ではなをさかせている。あーだこーだと何が面白いってんだ?
だが帰るに帰れない。
今日は自分で車で来ていないからだ。ここは友人の家。友人に送ってもらわないと帰れない。肩を落とし友人たちと一緒にテレビをみはじめた。
『パリーン!!』何かが割れた音がした。友人の一人がビール片手に音がする方へと歩き出した。
「ちょいと見てくるわ。なんか出るかもよ〜。」笑いながら出て行った。
10分以上たっても戻ってこないことに心配した僕は友人のもとに行こうとした。
「ダメだよ。お前は見てなきゃ。」笑いながら友人は立ち上がった。そして仲間が歩いて行った方へと歩いていく。
「大丈夫…かな?」
「あいつが行くなら大丈夫だって。」
たいして心配もしていないようだ。
だが予想は裏切られた。
「おい、ちょっと来てくれ!」
友人のただならぬ様子に皆その場を立ち上がり、ぞろぞろと歩いていく。僕もこっそりと後をついて行った。
友人のもとへと歩いていくと目にしたのは…縮こまって震えている友人の姿だった。
真っ青な顔をして震えている。
「なんだよ、驚かそうって魂胆か?そんなもんで驚かな…?」そう言いながらも友人が指差した方へと視線を向ける。そこにはマリオネットの様に紐で吊るされて死んでいる仲間の姿があった。
「うっ、うわっ。」
「ヒーッ!」
「まじやばいって。」
「け、警察!救急車!」
僕達は慌てて電話をかけようとした。すると、クスクス笑い声がしてきた。
恐怖でおかしくなったかと思ったが違うらしい。
「っーけ!おもしれー。騙されてやんの。」ケタケタ笑っていたのはマリオネットの格好をした友人だった。
「何やってんだよ!びっくりするだろ?!」
「だからお前を驚かそうとして思いついたんだって…。サイッコーだろ?」
僕は内心ではすごくドキドキしていた。
こういうことをやるやつだって知ってたはずなのに、仲間もまんまと騙された。
その時バタンと急にドアが開いた。
そばには誰もたってもいない。
瞬間でシーンと静まり返った。
「だ、誰だよ、驚かそうとしてるやつは…。」しかし皆横に首を振るだけ。僕だってそうだ。そんなことしたくもない。
生暖かい風が室内を巡る。
周りを見て友人の一人が叫んだ。
「誰だよ、消しておいたテレビをつけたやつは。」
そう、テレビはみんなが見ている中で消したのだ。見間違いはあり得ない。
なのに今テレビがついている。
まだ【実録!心霊動画】が流れていた。
それはどこかの部屋らしかった。数人の若者たちが集まってテレビを見ていた。その様子を見てこれは自分たちであるとすぐに気づいた友人の一人がわめいた。
「呪いだ!呪われてるのを借りてきちゃったんだ。」慌てて自分の荷物を持って部屋から逃げ出した。遅れて一人、また一人と帰っていく。
そして今残っているのは友人の一人と僕だけだ。
「勇気あるね〜。」
と、言われたが僕もすぐに帰りたかった。
でもここに友人を一人にするのは怖いだろうと思ったのだ。
友人も真っ青な顔で平静を装うと必死だ。
「だ、大丈夫だよ。今度はちゃんとディスク抜いたしコンセントも抜いといたから変なこと起きないって。」
それでも懐中電灯を手にしていた。なぜ持っているのか本人もわかっていないだろう〜。
ビール片手に話し始めた。
この場所は安く借りられた場所だということを…。なら今までの事は説明がつくかもしれない。だとしたら一体誰がここにいるのだろう…。二人とも心臓がドキドキしていた。
朝まであと5時間。飲んで誤魔化すしかない。それでも、時々バタンとか音がするとギョッとして固まってしまう。
なんとか時間をやり過ごし、朝になった時には眠くてたまらなかったが、友人もここにはいられないと部屋を出ることに。
緊張と不安で僕はずっとドキドキが止まらなかった。それ以降その部屋には行っていない。
友人も引っ越したそうだ。
今、その部屋に借りてはいない。