4月1日の『大好き』
「今から一つだけ嘘をつきます」
私蓮佛聖の目の前にいる少女日吉シロナが突然そんなことを言ってきた。いきなりのことに『どうしたの?』など思ったのだが、今日は4月1日、いわゆるエイプリルフールであることを思い出した。
「一応確認するけどそれは今日が4月1日だからってことだよね?」
「それはもちろん!」
シロナがなんだかすごい自信満々に言ってくるのだが私はどうしても指摘したいことが一つあった。
「あのねシロナ、一つ聞いていい?」
「なぁに、聖ちゃん?」
「……これから嘘をつこうとしてるのに嘘をつきますって宣言していいの?」
そうである。何でこの娘は最初から嘘をつきますなどと宣言しているのか。普通こういうのって相手にばれないようにやって楽しむものじゃないの?
「ふっふっふっ。その心配は無用だよ聖ちゃん。これはちゃんと考えがあってのことだよ」
「どういうこと?」
「といってもそんな大げさなものじゃないよ。簡単に言うとちょっとしたゲームをしようかなって。聖ちゃんも見たことない?『これから私の言う言葉の中に含まれてる嘘はどれでしょう?』って言ってそれを当ててもらうやつ」
「あぁ。なるほどね」
確かにそれなら最初にうそをつくって宣言したのも納得だ。
「そういうわけで私が今から嘘をつくからどれか当ててみて?」
そんなことを言うシロナは不敵に笑う。
「うん、わかった」
対する私もそれに応じる。
「じゃあいくよ……聖ちゃん大好き!」
「え?あ、ありがとう……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……他には?」
「……ふふっ」
おかしい。シロナはさっきからあやしく笑うだけでそのあと何も言おうとしない。
「これシロナがつく嘘を当てるゲームだよね?」
「さあ、どうだろうねぇ?」
何か質問してもこんな感じでのらりくらりはぐらかすだけ。
「……」
「……」
それから少し時間がたっても相変わらず何も言おうとしないシロナ。彼女が自発的に言った言葉といえば出だしの『大好き』だけ。
ねえ、なんで何も言ってくれないの?どうして最初の『大好き』以外何も言わないの?これじゃあ、これじゃあ……。
そうして私がだんだん不安になってきたところで―。
「……」
「……そろその頃合いかな?」
久方ぶりにシロナが自発的に言葉を発した。そうかと思うとシロナは私にどんどん近づいていきついにはほとんどゼロ距離まで体を近づける。そうしてそんな距離感で私の耳元に顔を近づけた。
「さっきの答えね」
「う、うん」
この距離感に思わず緊張してしまうのは仕方がないと思う。その上私の耳元でささやいてくるものだからなおたちが悪い。
「……嘘をつくってのが嘘」
「……へ?」
私は思わずといった感じでかなり間抜けな声を出してしまう。
「私言ったよ。最初に嘘をつくって宣言した後にもう一回『今から嘘をつくって』って。あれが嘘」
「……つまり?」
「シロナちゃんは勘違いしたということだよ。いつからゲームが始まったのかをね」
そうシロナが言うと私からパッと離れる。そしていたずらが成功した時の悪い笑顔を向けてくる。
それに言われて思い返してみると、確かにいつからゲームが始まったかシロナは明言していなかった。 でも、でも……。
「シロナずるい」
そう思わずにはいられずついつい口に出してしまった。
「ははは。ごめんね聖ちゃん。でも涙目の聖ちゃんもとってもかわいかったよ」
そうしててへっと首を少し傾けつつの笑顔。
それがまたかわいいから怒るにに怒れず困る。
「うー」
私がせめてもの抵抗とばかりちょっとむくれた感じでいると。
「うーん。じゃあもう一つ。今度はずるくない感じの答えも教えちゃいます」
「……ずるくない感じの答え?」
「実はこの問題、解答が最初から二つ用意されていたのでした!」
「……それがすでにずるくない?」
「そんな細かいことは気にしたら負けだよ、聖ちゃん」
いや、絶対細かくはないと思う。
「はぁ。まあいっか。それで?そのもう一つの答えって?」
「それはね、『聖ちゃん大好き』っていうのが嘘です」
「へ?」
まさか。やっぱり……。
「正しくは……『大好き』じゃなくて『世界一大好き』でした!」
「……」
「どう聖ちゃん。この解答?」
「……」
「聖ちゃん?」
シロナが『どうしたの?』という感じで私の顔をのぞいてくる。どうしたもこうしたも―。
「……い」
「ん?」
「……ずるい。その答えも」
「えー。そうかな?」
「そうかなじゃない。その答えも十分ずるい。ばか。……大好き。世界一」
「ふふ。聖ちゃんは素直じゃないなぁ。……私もだよ」
そうして4月1日は過ぎて行く。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
べたな感じになったような気がしますがどんなものでしょう?