強力な魔術師
三人が着地したのは、一面の草原。
「ここは、どこだ」
メルーナーが周りを見ると、遥か向こうに城壁が見える。
メルーナーは安堵した。
「どうやら今の追っ手の中に、イグノアはいなかったようだな」
「行こうか、メルーナー、スリンが寝ているうちに」
「確かにそうだな。
スリンにはもう少し体力をつけてもらわなくてはならないが」
メルーナーは、苦笑しながら、スリンを抱いて、城壁に向かって歩きだし、ディオネも後に続く。
「メルーナー。何故イグノアを向けられるのをそんなに怖がるのか」
「お前もリメーアなら俺の心を読め。
誰かに聞かれるといけない」
ディオネは制御していた力を久しぶりに解放し、メルーナーの言わんとすることを読み取った。
(イン・ルーナーの弱点は家のみ。その家にサー・ルーナーがいる場合はイン・ルーナーはそのサー・ルーナーに負ける)
「イグノアはサー・ルーナーなのか」
メルーナーはゆっくり頷いた。
ディオネは慌てて力を戻すと己の管理下に置いた。
そのまま解放していると、必要のないことまで分かってしまうからだ。
「さあ、急ごう」
スリンを抱いたメルーナーと、ディオネは城壁に向かって走り出した。
と、いくらも行かないうちに二人は弾き返された。
「結界が張ってある。しかも、イン・ルーナーの手で」
メルーナーは慎重に結界に触れた。
そのまま、結界に沿ってゆっくりと歩く。
すると、突然、ぱん、と音がして、結界が弾けた。
「これは複数の魔術師で張ったのか」
メルーナーは感慨深げに言った。
「行こう、ディオネ。結界は解いた。
相手もしばらくしたら結界が解かれたことが分かるだろう」
「ああ、行こうか」
二人は結界をくぐっていった。
結界をくぐると、きれいに整備された街並みが現れた。
メルーナーは内側から結界を張り直すと、その街並みに目を向けた。
「驚いたな」
ディオネは呟いた。
「エトニアはもっと遅れている町だと思っていたが」
「あんた達どこからここに入ってきたんだい」
後ろから急に声をかけられて、二人は戸惑った。
「あたしはノウヤ。この町の『番人』さ」
そういうとノウヤは鋭い視線を二人に向けた。
「さあ、どっから入ってきたのかいいな。答えによっちゃああんた達を王に突き出す」
そのとき、さっとメルーナーが手を出した。
「お前は我々のことを忘れる」
その手は何やら怪しげな紋様を描いた。
しかしノウヤはふっと笑うと手を出し、その紋様を相殺した。
「イン・ルーナー(偽の魔術師)か。
なるほどね」
楽しげなノウヤとは打って変わって、メルーナーの顔は蒼白だった。
無理もない。いままでサー・ルーナーであるイグノア以外に術が解かれたことなどなかったのだから。
「しょーがないから見逃してあげるよ。イン・ルーナーのよしみでね」
「お前は……」
しかしメルーナーはそれ以上何も言えなかった。
ノウヤの顔が怪しく輝く。
「今はまだ言ってはならない。決して。
近いうちにあたしはあんたらの味方になるよ」
さあ、早く。
そう二人に囁き、ノウヤはその場を立ち去った。二人は顔を見合わせたが、エトニアの中心部に向かって足を踏み出した。